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2020年01月17日
建物賃貸借の立退料の課税仕入れ該当性『租税判例百選 第6版』85事件

東京地判平成9年8月8日
消費税更正処分等取消請求事件
【判示事項】 建物賃貸借契約の合意解除に際し賃借人に支払った立退料に係る消費税相当額を消費税法(平成6年法律第109号による改正前)30条1項にいう「課税仕入れに係る消費税額」として控除しないのは違法であるとしてした消費税の更正の取消請求が棄却された事例
【判決要旨】 (1) 売上金額を課税標準とする取引高税制度のもとでは、事業者は、仕入の際、税抜きの販売価格に税額を附加した対価を仕入れ価格として支払っており、売上げの際には仕入れ価格に利益等を加えた税抜きの売値に税額を附加して売値を決定することになるので、売上げの相手方は、累積した税額が附加された対価を支払うことになり、取引の段階が進むに連れ、税負担が累積することになる。そこで、消費税法は、附加価値税制度を採用した上、その一環をなすものとして「仕入れに係る消費税額の控除」の規定を設け、事業者が、国内において課税仕入れを行った場合には、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税相当額を控除することによって、取引段階の進展に伴って税負担が累積することを防止することとしているのである。
       (2) 消費税は、最終的な消費行為よりも前の段階で物品やサービスに対する課税が行われ、税負担が物品のサービスのコストに含められて最終的に消費者に転嫁することが予定されている間接消費税であり、しかも、各取引段階において移転、付与される附加価値に着目して課される附加価値税の性質を有する多段階一般消費税であって、各取引において附加価値の移転等がある場合は課税の問題が生じるが、附加価値の移転等が生じない場合は理論上は課税の問題は生じないものである。
       (3) 資産の譲渡とは、権利、財産、法律上の地位等を同一性を保持しつつ、他人に移転することをいうものであるところ、消費税法は、右の資産の譲渡により譲渡人のもとで生じた附加価値が移転するのをとらえ、消費税の課税の対象としているのである。これに対し、単に権利等の資産が消滅する場合には、当該資産を有する者のもとで発生した附加価値が移転すると観念することはできない。また、仮に資産の消滅が「資産の譲渡」に該当するものとすれば、その見返りとして支払われた補償金等を課税仕入れに係る支払対価と解する余地が生ずるが、単に資産が消滅したというような場合には、その次の段階の取引というものを観念することができず、税負担の累積という現象が生じる余地がないのであって、このような場合に、附加価値税制度の一環をなす「仕入れに係る消費税額の控除」(消費税法三〇条一項)の規定を適用するのは、消費税法三〇条一項の規定の趣旨に沿わないものである。
        したがって、「資産の譲渡」(消費税法二条一項八号)とは、資産につきその同一性を保持しつつ他人に移転することをいい、単に資産が消滅したという場合はこれに含まれないものと解するのが相当である。
       (4) 一般に、建物等の賃借人が賃貸借の目的とされている建物の契約の解除に伴い賃貸人から収受する立退料は、①通常予想される期間まで当該家屋を使用できないことから生ずる損失の補填、つまり、現在と同程度の住宅等を借りる際の権利金等、従前の敷金等と新たに支払われるべき敷金等との差額、新旧借家の家賃差額の補填という性格、②営業用家屋については、移転に伴う損失、すなわち、移転期間中の無収入、新しい土地で従来と同程度の顧客を得るまでの損失などの補償という性格、③その他引っ越し費用等の補填という性格など、補償という性格を有しているが、都市部の建物の賃貸借等では、賃借人に借家権なるものが発生していると観念し、賃貸借を合意解除する際に借家権の対価としての性格を有する金員が立退料という形で支払われる場合がある。
       (5) 省略
       (6) 賃貸借契約を解除することなく当該賃借人の有する建物の賃借権を賃貸人以外の第三者に譲渡し、その対価として立退料等を収受する場合、その立退料は賃借権の譲渡に係る対価として受領されるものであり、右譲渡による附加価値の移転を観念できるのに対し、賃借人が賃貸借契約を合意解除し、賃貸人から立退料を受領する場合には、賃借権自体が合意解除によって消滅するため、それによる附加価値の移転を観念することができないから、両者を区別することは合理的である。
       (7) 所得税法における「譲渡所得」(同法三三条一項)は、キャピタル・ゲインを所得としてとらえて課税するものであるところ、資産の消滅であっても、その代償たる経済的利得ないし成果が資産の譲渡による所得と異ならないものについては、譲渡所得の範ちゅうに取り入れて課税対象に取り込むべき必要性が高いことから、所得税法上は資産の譲渡の概念を拡張し、資産の消滅を伴う事業でその消滅に対する補償を約して行うものの遂行により譲渡所得の基因となるべき資産が消滅をしたことに伴い、その消滅につき一時に受ける補償金その他これに類するものの額は、譲渡所得に係る収入金額とされている(同法施行令九五条)。
        これに対し、消費税法上は「資産の譲渡」についてこれを本来の意味に解し、資産につき同一性を保持しつつ、他人に移転するという事実がない以上、資産の譲渡があったものとはみず、消費税の課税の対象としない取扱いをしているのであり、立退料の支払と引換えに建物を明け渡す取引が行われた場合において、立退料のうちに借家権の対価とみられる部分があるとしても、借家権は合意解除により消滅するものであり、右の場合に附加価値の移転を観念することはできないから、右の取引は消費税法上は「資産の譲渡」とは取り扱われないのである。
【参照条文】 消費税法(平6法109号改正前)30-1
       消費税法2-1
【掲載誌】  行政事件裁判例集48巻7~8号539頁
       判例タイムズ977号104頁
       税務訴訟資料228号229頁
【評釈論文】 税務事例47巻5号85頁

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