「はしがき」より抜粋
本書は、大阪高等裁判所の家事抗告事件集中部である第9民事部の裁判官の事例研究の結果をまとめたものである。
本書では、家庭裁判所における処理の実情を客観的な視点で紹介するとともに、具体的な事案についての判断基準を提供することに努め、参考となる裁判例も多数掲げた。そして、利用しやすさのために、細目次において、主要な解説内容を印で示し、索引も充実させた。有益なものとなったと信じている。
【感想】
松本説に賛成かどうかは別として、判断基準が明示されていることから、参考になる。
将来の退職金や企業年金が財産分与の対象となるか、扶養的財産分与の論点で、少数説に立っている箇所もあり、「実務では」と記述されているところは傍証となる参考判例・論文がない部分もある。
特に、将来の退職金が財産分与の対象となるかについては、支給が将来のことで額が確定しておらず、離婚時には支払原資がないことから、義務者にとって過酷とならないか疑問がある。
年金分割が存在しなかった時代の裁判例を重視するのも、問題である。
最高裁判所第1小法廷平成12年3月9日判決・民集54巻3号1013頁は、「離婚に伴う財産分与として金銭の給付をする旨の合意は、民法768条3項の規定の趣旨に反してその額が不相当に過大であり、財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情があるときは、不相当に過大な部分について、その限度において詐害行為として取り消されるべきである。」と判示していることから、前提として、相当な限度での将来の扶養としての財産分与が有り得ることを認めていると解される。
ただし、この事案では、婚姻期間2年で月額10万円の扶養的財産分与を過大であり不相当としている。
下級審裁判例では、扶養的財産分与を肯定した裁判例、否定した裁判例に分かれており、扶養的財産分与を一概には否定できないが、夫婦の資産、収入、生活状況などを考慮した上で、事案に応じて結論(扶養的財産分与を肯定した場合であっても、その金額)が異なる。