行政訴訟事件における文書提出命令―全国消費実態調査の調査票情報を記録した準文書が民訴法231条・220条4号ロ所定の公務秘密文書に当たるとされた事例
最高裁判所第3小法廷決定平成25年4月19日
文書提出命令申立て一部認容決定に対する許可抗告事件
『平成25年重要判例解説』民事訴訟法3事件
【判示事項】 全国消費実態調査の調査票情報を記録した準文書が民訴法231条において準用する同法220条4号ロ所定の「その提出により……公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの」に当たるとされた事例
【判決要旨】 全国消費実態調査の調査票情報を記録した準文書は,個人の特定に係る事項が一定の範囲で除外されていても,次の(1)~(3)など判示の事情の下においては,民訴法231条において準用する同法220条4号ロ所定の「その提出により……公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの」に当たる。
(1) 基幹統計調査である全国消費実態調査においては,被調査者の任意の協力による真実に合致した正確な報告が行われることが極めて重要であり,調査票情報の十全な保護を図ることによって被調査者の当該統計制度に係る情報保護に対する信頼を確保することが強く要請される。
(2) 上記準文書に記録された情報は,被調査者の家族構成や居住状況等に加え,月ごとの収入や日々の支出等の家計の状況,年間収入,貯蓄現在高や借入金残高等の資産の状況など,個人及びその家族の消費生活や経済状態等の委細にわたる極めて詳細かつ具体的な情報であって,金額等の数値もその大半が細目にわたり報告の内容のまま記録されている。
(3) 上記準文書が訴訟において提出されると,被調査者との関係等を通じて被調査者に係る上記(2)の情報の一部を知る者などの第三者において,被調査者を特定してこれらの情報全体の委細を知るに至る可能性がある。
(補足意見がある。)
【参照条文】 民事訴訟法220
民事訴訟法231
統計法(平19法53号改正前)2
統計法2-4
統計法2-11
【掲載誌】 最高裁判所裁判集民事243号385頁
裁判所時報1578号157頁
判例タイムズ1392号64頁
判例時報2194号13頁
1 事案の概要
本件は,申立人らが,相手方である国に対し,老齢加算廃止の合憲性及び適法性を争う訴訟において,厚生労働大臣が保護基準を改定するに当たって根拠とした特別集計の結果が不合理であることを立証するために,その特別集計の資料となった平成11年度及び同16年度の全国消費実態調査における調査票情報に係る準文書の提出を求める事案である。
原決定(公刊物未登載)は,民訴法220条4号ロ所定の「公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの」(いわゆる公務秘密文書)に当たるかどうかについて,本件では上記のおそれは個人情報の漏洩ないし被調査者の特定可能性によるものに尽きるとした上で,平成11年度の全国消費実態調査の調査票情報のうち都道府県市区町村番号等の個人を特定し得る一定の情報等を除いたもの(以下「本件準文書」という。)につき公務秘密文書に該当しないとして,その提出を命じた。これに対し,相手方が抗告許可の申立てをし,原審はこれを許可した。
全国消費実態調査とは,国民生活の実態について,家計の収支及び貯蓄,負債などの家計資産を総合的に調査し,全国及び地域別の世帯の消費,所得,資産に係る水準などを明らかにすることを目的とした調査であり,昭和34年以来5年に1回実施されている。その調査結果である全国消費実態統計は,年金や老人介護などの社会保障制度等の諸施策を立案する際の基礎資料として利用されている。
2 本決定
最高裁第三小法廷は,本件準文書の公務秘密文書該当性を肯定し,原決定の本件準文書の提出を命じた部分を破棄し,当該部分についての申立てを却下する旨の決定をした。