東京高等裁判所判決平成25年8月30日
損害賠償請求事件
『平成25年重要判例解説』経済法8事件
【判示事項】 コンビニエンスストアのフランチャイズ・チェーンを運営する被告が,原告らの経営する加盟店に対して,デイリー商品の見切り販売を妨害したことが優越的地位の濫用(独占禁止法19条,一般指定14項4号)に当たるとして,制限行為の取りやめ等を命じた公正取引委員会の排除措置命令(同法第20条)が確定したことから,原告らが,被告に対し,同法25条に基づき損害賠償を求めた事案で,組織的な販売妨害行為はないが,個別の原告らに対する見切り販売妨害行為はあったとして,原告らの請求の一部が認容された事例
【参照条文】 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(平21法51号による改正前のもの)20-1
私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(平21法51号による改正前のもの)19
不公正な取引方法(平21公取委告示18号による改正前のもの)14
私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(平21法51号による改正前のもの)25
私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(平21法51号による改正前のもの)84
民事訴訟法248
【掲載誌】 判例時報2209号10頁
コンビニエンスストアのフランチャイズチェーンを運営する株式会社Yは,廃棄された商品の原価相当額の全額が加盟店の負担となる仕組みの下で,Yが販売を推奨するデイリー商品(弁当など)の見切り販売(販売期限が迫った商品を値引きして販売すること)を行おうとし,又は行っている加盟店に対して,見切り販売の取りやめを余儀なくさせることにより,加盟店が自らの合理的な経営判断に基づいて廃棄にかかるデイリー商品の原価相当額の負担を軽減する機会を失わせているとして,公正取引委員会から優越的地位の濫用を理由とする排除措置命令を受けた。本件は,これを受けて,Yのフランチャイズチェーンの加盟店を経営するX1~X4が,見切り販売の妨害により損害を被ったと主張し,Yに対して独禁25条に基づいて損害賠償を求めた事案である(独禁85条2号により,東京高裁が第一審裁判所となったものである)。
公取委の排除措置命令は,Yの行為のうち,①加盟者がデイリー商品に係る見切り販売を行おうとしていることを知ったときは,当該加盟者に対し,見切り販売を行わないようにさせる,②加盟者が見切り販売を行ったことを知ったときは,当該加盟者に対し,見切り販売を再び行わないようにさせる,③加盟者が①又は②にもかかわらず見切り販売を取りやめないときは,当該加盟者に対し,加盟店契約の解除等の不利益な取扱いをする旨を示唆するなどして,見切り販売を行わないよう又は再び行わないようにさせる,などを違反行為として摘示していた。
これを受けて本判決は,(ア)Yは,加盟店オーナーに対して,一貫してデイリー商品につき推奨価格を維持して販売することを助言・指導しており,Yのシステムマニュアル,レジ・会計システム,Yによる廃棄に関する説明,Yによるブランドイメージの強調等と相まって,Xらとしては,デイリー商品の見切り販売が嫌忌されているとの認識が相当程度強固となっていたと推認される,(イ)したがって,YがXらに対し,販売システムに関する説明・指導の域を超えて,具体的にデイリー商品の値下げはできないなどと述べた場合には,Xらは見切り販売を実施してはならないとの強い心理的な強制を受けるものであり,一旦生じたこのような心理状態はYから明示的に訂正されなければそのまま継続し,見切り販売の実施を見合わさざるを得ないまま期間が経過していくことが通常と考えられる,(ウ)Xらはいずれも,Yの従業員から,「デイリー商品の値下げをしてはいけないというルールになっている」,「見切り販売などしたら店は続けられない」,「Yでは値引きは絶対できない」,「見切り販売をしたいというようなオーナーは確実に加盟店契約の更新ができない」などと告げられている,(エ)これらの言動は,見切り販売の実施に関する経営上の判断に影響を及ぼす事実上の強制となっており,加盟店オーナーが有する商品の価格決定権の行使を妨げ,見切り販売の取りやめを余儀なくさせたものとして,本件排除措置命令にいう違反行為に当たる,などとしてYの損害賠償責任を肯定した(民訴248条に基づいて「相当な損害額」が認定され一部認容)。