最高裁判所第2小法廷決定平成23年5月30日
分離移送決定に対する抗告棄却決定等に対する許可抗告事件
『平成23年重要判例解説』民事訴訟法1事件
【判示事項】 民事訴訟法38条後段(共同訴訟の要件)の要件を満たす通常共同訴訟につき同法7条ただし書(併合請求における管轄)により同法9条(併合請求の場合の価額の算定)の適用が排除されるか
【判決要旨】 民訴法38条後段の要件を満たす通常共同訴訟であって、いずれの共同訴訟人に係る部分も受訴裁判所が土地管轄権を有しているものについて、同法7条ただし書により同法9条の適用が排除されることはない
【参照条文】 民事訴訟法7
民事訴訟法9
民事訴訟法16-1
民事訴訟法38後段
【掲載誌】 最高裁判所裁判集民事237号1頁
裁判所時報1533号152頁
判例タイムズ1352号152頁
判例時報2120号3頁
金融法務事情1950号111頁
1 本件の①事件は,金銭消費貸借契約の借主であった原告が,複数の貸金業者に対して過払金の返還を求めた事案であり,②事件は,貸金業者である原告が,複数の金銭消費貸借契約の借主らに対して貸金の返還を求めた事案である。いずれの事件においても,単数の原告が,複数の被告を共同被告とし,それぞれの被告に対して140万円を超えない額の請求をする訴えを地裁に提起したところ,受訴裁判所(地裁)において,被告側の申立てにより(①事件),又は職権で(②事件),被告ごとに弁論が分離された上,各被告に係る訴訟は地裁ではなく簡裁の事物管轄に属するとして民訴法16条1項(管轄違いの場合の取扱い)に基づき簡裁への移送決定がされた。
2 ①事件及び②事件の各原審は,民訴法38条後段の共同訴訟は,同法7条ただし書により同条本文は適用されず,受訴裁判所に併合請求による管轄が生ずることはなく,併合請求が可能であることを前提とする同法9条を適用して各請求の価額を合算して訴訟の目的の価額を算定することができないから,各被告に係る訴訟は簡裁の事物管轄に属すると判断し,地裁から簡裁への上記各移送決定を適法とした。
3 ①事件決定,②事件決定のいずれも,民訴法38条後段の要件を満たす共同訴訟であって,いずれの共同訴訟人に係る部分も受訴裁判所が土地管轄権を有しているものについて,同法7条ただし書により同法9条の適用が排除されることはないと判示して,本件各訴訟は各被告に係る部分の訴額を合算すると140万円を超えるから地裁の事物管轄に属すると判断し,それぞれの原決定を破棄し,地裁から簡裁ヘの移送決定を取り消した。
なお,本件各訴訟が民訴法38条後段の要件を満たす共同訴訟に当たることについては,①事件においては被告自らが認めており,②事件においては前提問題として最高裁の判断が示されている(共同訴訟が主観的併合の要件を満たしていることについては,被告が異議を述べない限り,裁判所が職権で調査すべき義務を負うわけではないと解される。)。