最高裁判所第2小法廷判決平成30年10月19日
遺留分減殺請求事件
『平成30年度重要判例解説』民法9事件
【判示事項】 共同相続人間においてされた無償による相続分の譲渡と民法903条1項に規定する「贈与」
【判決要旨】 共同相続人間においてされた無償による相続分の譲渡は、譲渡に係る相続分に含まれる積極財産および消極財産の価額等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き、上記譲渡をした者の相続において、民法903条1項に規定する「贈与」に当たる。
【参照条文】 民法903-1
民法905
民法1044
【掲載誌】 最高裁判所民事判例集72巻5号900頁
判例タイムズ1458号95頁
金融・商事判例1563号22頁
金融・商事判例1558号8頁
判例時報2403号48頁
金融法務事情2114号54頁
第1 事案の概要
1 X及びYは,いずれも亡Bとその妻亡Aの子であるところ,本件は,先に亡くなった亡Bの相続(一次相続)において亡Aから相続分の譲渡を受けたYに対し,上記相続分の譲渡によって遺留分を侵害されたとして,Yが一次相続で取得した不動産の一部についての遺留分減殺を原因とする持分移転登記手続等を求める事案である。本件相続分譲渡が,亡Aの相続において,その価額を遺留分算定の基礎となる財産額に算入すべき贈与(民法1044条,903条1項)に当たるか否かが争われた。
2 事実関係の概要は次のとおりである。
(1) 亡Bは,平成20年12月に死亡した。亡Bの法定相続人は,亡A,X,Y,C及びDの4名であった。
(2) 亡A及びDは,亡Bの遺産分割調停手続においてYに相続分を譲渡した(以下,亡Aのした相続分の譲渡を「本件相続分譲渡」という。)。
(3) 亡Bの遺産につき,平成22年12月,X,Y及びCの間で遺産分割調停が成立し,それぞれ相続分に応じた財産を取得した。
(4) 亡Aは,平成26年7月に死亡した。その法定相続人は,X,Y,C及びDである。
(5) 亡Aは,その相続開始時において,約35万円の預金債権を有していたほか,約36万円の未払介護施設利用料債務を負っていた。
3 原審,原々審とも,相続分の譲渡は遺留分算定の基礎となる財産として加算すべき「贈与」に当たらず,Xに遺留分の侵害はないとして,Xの請求を棄却した。そこでXが上告受理申立てをしたところ,第二小法廷は本件を受理し,共同相続人間でされた無償による相続分の譲渡は,譲渡に係る相続分に含まれる積極財産及び消極財産の価額等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き,民法903条1項に規定する「贈与」に当たる旨判示して,原審に差し戻した。