最高裁判所第3小法廷決定平成29年12月19日
再生計画認可決定に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件
『平成30年度重要判例解説』民事訴訟法9事件
【判示事項】 小規模個人再生において住宅資金特別条項を定めた再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づく場合に当たるか否かの判断に当たり無異議債権の存否を考慮することの可否
【判決要旨】 小規模個人再生において,再生債権の届出がされ(民事再生法225条により届出がされたものとみなされる場合を含む。),一般異議申述期間又は特別異議申述期間を経過するまでに異議が述べられなかったとしても,住宅資金特別条項を定めた再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた場合に当たるか否かの判断に当たっては,当該再生債権の存否を含め,当該再生債権の届出等に係る諸般の事情を考慮することができる。
(補足意見がある。)
【参照条文】 民事再生法38-2
民事再生法202-2
民事再生法225
民事再生法231-1
【掲載誌】 最高裁判所民事判例集71巻10号2632頁
判例タイムズ1447号36頁
金融・商事判例1556号8頁
金融・商事判例1537号21頁
判例時報2368号18頁
金融法務事情2092号90頁
金融法務事情2082号6頁
1 本件は,再生債務者である抗告人Xが申し立てた小規模個人再生(以下「本件再生手続」という。)において,民事再生法(以下「法」という。)202条2項4号の「決議が不正の方法によって成立するに至ったとき」の不認可事由の存否の判断が問題となった事案である。本件では,法225条のみなし債権届出の結果,無異議債権として手続内で確定した債権の存否を再生計画の認可の段階で再度考慮することが手続の蒸し返しにならないかという点が争われた。
2 本件の事実関係は次のようなものである。
(1) Xは,平成28年9月20日,本件再生手続開始の決定を受けたが,本件再生手続においては,Xが債権者一覧表に記載していたAのXに対する2000万円の貸付債権(以下「本件貸付債権」という。)が,法225条により届出をしたものとみなされた。
(2) 本件貸付債権は,一般異議申述期間中,抗告人からも届出再生債権者からも異議が述べられなかったことから手続内で確定し,Aには同手続内で確定した議決権額の総額約3705万円のうち,過半数の2000万円の議決権額が与えられた。
(3) Xの提出した再生計画案は,再生裁判所により決議に付され,Yは同意しない旨の回答をしたが,Aからは何らの回答もなかったことから,同意しない旨を回答した議決権者の数が議決権者総数の半数に満たず,かつ,当該議決権の額が議決権者の議決権の総額の2分の1を超えないとして,法230条6項により可決されたものとみなされた。
3 原々審,原審の判断
(1) 原々審は,可決された再生計画案につき不認可事由は認められないとして再生計画認可の決定(原々決定)をした。
(2) Yが即時抗告をしたところ,原審は,Xは実際には存在しない本件貸付債権を意図的に債権者一覧表に記載するなどの信義則に反する行為により再生計画案を可決させた疑いが存するので,本件貸付債権の存否を含め,信義則に反する行為の有無につき調査を尽くす必要があるとして,原々決定を取り消し,本件を原々審に差し戻した。
4 本決定
これに対し,Xが,本件貸付債権は法230条8項にいう無異議債権であるから,本件再生計画案の不認可事由の存否の判断に当たっては本件貸付債権が存在することを前提に判断することを要するなどとして,抗告の許可を申し立てたところ,本決定は,決定要旨のとおり,再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた場合に当たるか否かの判断に当たっては,当該再生債権の存否を含め,当該再生債権の届出等に係る諸般の事情を考慮することができると解するのが相当であるとし,上記原審の判断を是認して抗告を棄却した。
5 住宅資金特別条項付きの小規模個人再生における不認可事由である法202条2項4号の解釈について
本決定は,小規模個人再生における再生計画案が住宅資金特別条項を定めた場合に適用される法202条2項4号所定の不認可事由である「再生計画の決議が不正の方法によって成立するに至ったとき」の解釈について,通常の民事再生の場合の不認可事由である法174条2項3号についての最高裁平成19年(許)第24号同20年3月13日第一小法廷決定・民集第62巻3号860頁,判タ1267号180頁と同様に「議決権を行使した再生債権者が詐欺,強迫又は不正な利益の供与等を受けたことにより再生計画案が可決された場合はもとより,再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた場合も含まれるものと解するのが相当である。」と判断したものである。法が,裁判所に対し,可決された再生計画案についてなお再生裁判所の認可の決定を要するものとした趣旨は,小規模個人再生であっても,あるいは住宅資金特別条項を定める場合であっても,通常の再生手続と同様であると考えられる以上,同じ解釈が妥当すると解するのが相当であり,この点について特に異論はないものと思われる。