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2020年05月05日
「現代訴訟の論点と法理論の検討 5 訴訟による権利回復のための経費と損害として認められる範囲」

論究ジュリスト(2017年夏号)№22
■座談会参加者(レギュラーメンバー) 研究者:道垣内弘人・山本和彦・小粥太郎/裁判官:岸 日出夫・山田真紀・朝倉佳秀・武部知子
(ゲスト荻野奈緒)
訴訟による権利回復のための経費と損害として、弁護士費用が問題となる。
荻野教授のいう、本来的弁護士費用と付随的弁護士費用という区別は、請求できるかどうかの基準となり得ないのではないか。

最高裁判所第1小法廷判決昭和44年2月27日民事判例集23巻2号441頁は、以下のとおり判示している。
 「思うに、わが国の現行法は弁護士強制主義を採ることなく、訴訟追行を本人が行なうか、弁護士を選任して行なうかの選択の余地が当事者に残されているのみならず、弁護士費用は訴訟費用に含まれていないのであるが、現在の訴訟はますます専門化され技術化された訴訟追行を当事者に対して要求する以上、一般人が単独にて十分な訴訟活動を展開することはほとんど不可能に近いのである。従って、相手方の故意又は過失によって自己の権利を侵害された者が損害賠償義務者たる相手方から容易にその履行を受け得ないため、自己の権利擁護上、訴を提起することを余儀なくされた場合においては、一般人は弁護士に委任するにあらざれば、十分な訴訟活動をなし得ないのである。そして現在においては、このようなことが通常と認められるからには、訴訟追行を弁護士に委任した場合には、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り、右不法行為と相当因果関係に立つ損害というべきである。」
「専門化され技術化された訴訟追行・・を弁護士に委任した場合には、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り、右不法行為と相当因果関係に立つ損害というべきである」という基準からすれば、不法行為に限らず、広く弁護士費用が損害として賠償請求できるはずである。
最高裁判所第2小法廷判決平成24年2月24日
最高裁判所第2小法廷判決平成24年2月24日判例タイムズ1368号63頁は、以下のとおり判示している。
「 労働者が,就労中の事故等につき,使用者に対し,その安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償を請求する場合には,不法行為に基づく損害賠償を請求する場合と同様,その労働者において,具体的事案に応じ,損害の発生及びその額のみならず,使用者の安全配慮義務の内容を特定し,かつ,義務違反に該当する事実を主張立証する責任を負うのであって(最高裁昭和54年(オ)第903号同56年2月16日第二小法廷判決・民集35巻1号56頁参照),労働者が主張立証すべき事実は,不法行為に基づく損害賠償を請求する場合とほとんど変わるところがない。そうすると,使用者の安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求権は,労働者がこれを訴訟上行使するためには弁護士に委任しなければ十分な訴訟活動をすることが困難な類型に属する請求権であるということができる。
 したがって,労働者が,使用者の安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償を請求するため訴えを提起することを余儀なくされ,訴訟追行を弁護士に委任した場合には,その弁護士費用は,事案の難易,請求額,認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り,上記安全配慮義務違反と相当因果関係に立つ損害というべきである(最高裁昭和41年(オ)第280号同44年2月27日第一小法廷判決・民集23巻2号441頁参照)。」

 現在では、不法行為、安全配慮義務違反、医療過誤の訴訟類型について、弁護士費用が認められている。
 マンション標準管理規約では、管理費について、弁護士費用が認められている。

医療訴訟で、証拠獲得のための費用、カルテ謄写費用、専門医・協力医の意見書作成費用など。岸・武部裁判官は否定的だが、岸・朝倉裁判官は、慰謝料で考慮することもあるという。慰謝料の認定は、上級審で覆される可能性が少ないことも便宜であろう。
建築訴訟で、建築士の調査費用、私的鑑定、意見書作成費用など。山田・朝倉裁判官は否定的。
ソフトウェア訴訟で、技術の専門家の見書作成費用など。朝倉裁判官は否定的。しかし、知的財産訴訟では、技術の専門家の見書作成費用などは、認めていることが多い。
不貞行為による離婚・損害賠償訴訟で、探偵の調査費用。荻野教授は否定的だが、プライバシー権侵害がなく違法性のない調査であれば、それがなければ訴訟提起することは不可能だったのであるから、認めるべきである。探偵の調査費用を認めている裁判例は東京地裁で2件、認めなかったのは東京地裁で3件である。
「専門化され技術化された訴訟」で、「損害賠償請求権・・を訴訟上行使するためには」これが「なければ十分な訴訟活動をすることが困難な類型に属する請求権である」から、「その費用は、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り、右不法行為と相当因果関係に立つ損害というべきである」という基準からすれば、不法行為に限らず、広くこれらの調査費用、私的鑑定、意見書作成費用などの費用が、いわば必要経費として損害賠償請求できるはずである。

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