作業環境測定法に関する裁判例を網羅しています。
作業環境測定法は、労働法の1つです。
作業環境測定法(昭和50年法律第28号)は、作業環境の測定に関し作業環境測定士の資格および作業環境測定機関等について必要な事項を定めることにより、適正な作業環境を確保し、もって職場における労働者の健康を保持することを目的としています
なお、石綿とは、アスベストです。
目次
第1章 1 クロム酸塩等の製造工程等に従事していた労働者の皮膚障害、上気道障害、気管支・気管・肺の障害の各罹患、肺がん等による死亡につき、会社の不法行為責任が肯定された例
2 死亡者3名につき、クロム被暴・吸入と右死亡との間に因果関係があるとはいえないとされた例
3 昭和30年以前は、クロム吸入と肺がん・上気道がんとの因果関係について予見可能性は存しなかったとして、右以前の肺がんによる死亡につき、前記不法行為責任が否定された例
4 前記罹患・死亡につき、国の不法行為責任が否定された例
5 「法定外補償をもって今後一切の補償請求ならびに異議申立てはしない」旨の死亡者の妻との間の「確認書」は、損害賠償請求権放棄の合意たる効力をもつものではないとされた例
6 右損害賠償請求権につき、短期・長期、いずれの消滅時効ともに完成していないとされた例
7 前記4名を除く32名の労働者に関し、損害賠償請求が認容された例
第2章 1、石綿製品の製造作業に従事していた従業員がじん肺(石綿肺)に罹患したことにつき、同人らを雇傭していた会社に安全配慮義務違反による債務不履行責任を認めた事例
2、右会社の最大の取引先であった会社について、親会社としての実質的支配により子会社の従業員との間に雇傭関係に準ずる労務指揮権に関する法律関係が成立していたとして、安全配慮義務違反による債務不履行責任を認めた事例
第3章 上告人に対し科学的・技術的、医学的水準の進歩を前提とした諸措置を総合的かつ適切に履行し、じん肺防止に万全の注意を払うべき安全配慮義務の履行が求められていたとする原審判断は誤りで賠償責任が限定される等と主張した上告人の主張が却けられ、被上告人らは上告人の安全配慮義務違反によりじん肺に罹患したと認められた例
第4章 精錬工場に長年勤務した労働者の慢性二硫化炭素中毒症について業務上の疾病に該当するとされた事例
第5章 1 労働安全衛生法23条にいう「通路」の意義
2 労働安全衛生法23条にいう「通路」に当たらないとされた事例
第6章 承継前控訴人Aが,下咽頭がん発症は訴外会社でビスクロ(略称)他の化学物質に曝露したことによるとしてした療養補償給付支給請求の不支給処分の取消しを求め,請求棄却の原審に対する控訴事案(控訴審においてAの死亡により控訴人らが承継)。
第7章 1審被告Y1(以下,被告Y1)の従業員であった訴外亡Aが悪性胸膜中皮腫により死亡したのは,1審被告Y2(以下,被告Y2)の工場で作業をした間に石綿粉じんにばく露したためであるとして,Aの相続人である1審原告ら(以下,原告ら)が被告らに対し,損害賠償等を求めた事案
第8章 1 石綿はかつて,わが国の産業社会や日常生活において必要かつ有益なものとして使用されており,その初期には石綿粉じんによる健康被害の実態が十分解明されていなかったものであるから,石綿粉じんにばく露する環境であったというだけで安全配慮義務違反を認めるのは相当ではなく,石綿粉じんによる健康被害につき,予見可能性・予見義務違反があり,かつ,結果回避可能性・結果回避義務違反がある場合に,安全配慮義務違反があるというべきであるとされた例
2 昭和35年頃においては,石綿を常時取り扱う民間事業者においても,石綿粉じんが生じる作業に従事する作業員が石綿粉じんにばく露することにより,健康被害を具体的に予見することが具体的に可能となったというべきであり,これを前提として結果を回避する義務が生じたというべきであるとされた例
3 被告Y社高松工場の石綿管製管職場においては,石綿粉じんがほぼ恒常的に発生しており,その濃度も高濃度であり,健康被害発生の蓋然性も高いと認められ,じん肺法等関連法令の規定に照らすと,Y社は,石綿管製造工程に従事する労働者に対し,①石綿粉じん飛散抑制義務,②じん肺予防のための教育・指導義務,③石綿粉じん吸引防止義務,④早期発見・救護義務を負っていたというべきであり,本件事実関係の下では,Y社に①から④のいずれについても安全配慮義務違反があったと認められるとされた例
第9章 労働大臣が石綿製品の製造等を行う工場または作業場における石綿関連疾患の発生防止のために労働基準法(昭和47年法律第57号による改正前のもの)に基づく省令制定権限を行使しなかったことが国家賠償法1条1項の適用上違法であるとされた事例
第10章 1 建設アスベスト事案において,民法719条1項前段の共同不法行為の要件として,複数人による個々の加害行為と損害の全部との間にそれぞれ独自に相当因果関係があることを要するとした事例
2 建設アスベスト事案において,民法719条1項後段の共同不法行為の要件として,共同行為者以外の者による加害行為はないか,または共同行為者以外の者による加害行為と損害との間には相当因果関係がないことを要するとした事例
第11章 1 国が建築作業現場における石綿含有建材の取扱い作業による石綿関連疾患の発生防止のために労働安全衛生法に基づく規制・監督権限を行使しなかったことが国家賠償法1条1項の適用上違法であるとされた事例
2 長期間,多数の建築作業現場で建築作業に従事したため,いずれの建材メーカーの製造・販売した石綿含有建材からの石綿粉じんに曝露して石綿関連疾患に発症したか因果関係の立証が困難な事案において,各建材メーカーの製造・販売した石綿含有建材のマーケットシェアおよび建築作業従事者の経験した作業現場数に基づく確率計算により,当該建築作業従事者が従事した建築作業現場への各建材メーカーが製造・販売した石綿含有建材の到達頻度を推定した上で,各建材メーカーに対して,民法709条に基づき寄与度に応じた分割責任あるいは民法719条1項後段に基づく連帯責任として,建築作業従事者への損害賠償責任を認めた事例
第12章 建設現場での石綿粉塵に曝露したことにより肺がんなどに罹患した元建設作業員と遺族計354人が,国と建材メーカー42社に総額約120億円の賠償を求めた控訴審の事案(建設アスベスト東京第1陣集団訴訟)。
第13章 1 建築作業従事者であった者またはその相続人である1審原告らの1審被告国に対する,1審被告国の旧労基法および安衛法ならびに建基法に基づく規制権限不行使を理由とする国賠法1条1項に基づく損害賠償請求について
(1)①石綿吹付作業の関係では,昭和47年10月1日から昭和50年9月30日までにつき,(ア)石綿吹付作業者に対する送気マスクの着用義務付け,(イ)建材メーカーに対する警告表示の義務付けおよび(ウ)事業者に対する警告表示(掲示)の義務付けに係る規制権限不行使の違法性が認められ(ただし,石綿吹付作業による間接曝露(周辺作業者や後続作業者)の関係では,集じん機付き電動工具の使用義務付けを除き,②の場合と同様である。),②建設屋内での石綿切断等作業の関係では,昭和49年1月1日から平成16年9月30日までにつき,(ア)防じんマスクの着用義務付けおよび集じん機付き電動工具の使用義務付け(ただし,防じんマスクの着用義務付けのみの関係では,違法時期は平成7年の特化則改正までである。),(イ)建材メーカーに対する警告表示の義務付けおよび(ウ)事業者に対する警告表示(掲示)の義務付けに係る規制権限不行使の違法性が認められ,③屋外での石綿切断等作業の関係では,平成14年1月1日から平成16年9月30日までにつき,(ア)集じん機付き電動工具の使用義務付け,(イ)建材メーカーに対する警告表示の義務付けおよび(ウ)事業者に対する警告表示(掲示)の義務付けに係る規制権限不行使の違法性が認められる。
(2)1人親方等(いわゆる1人親方および個人事業主)の就労実態や,労働安全衛生法令およびその立法経過からみると,労働者以外の者が享受する利益は,労働者が1審被告国の規制権限行使により享受する利益に伴う反射的利益(事実上の利益)にすぎないとはいえず,国賠法1条1項の適用上,法律上保護される利益に当たると解するのが相当であり,1審被告国の規制権限不行使が著しく合理性を欠く場合には,労働者ばかりではなく,1人親方等との関係でも,同条項の適用上,違法との評価を免れない。
2 建築作業従事者であった者またはその相続人である1審原告らの建材メーカーである1審被告企業らに対する,民法719条1項前段または後段の適用もしくは類推適用ならびに同法709条に基づく損害賠償請求について
(1)1審被告企業らは,自らの製造・販売する石綿含有吹付材について,吹付工との関係で昭和47年1月1日から,建設屋内での石綿粉じん作業において使用される石綿含有建材について,同作業に従事する建築作業従事者との関係で昭和49年1月1日から,屋外での石綿切断等作業において使用される石綿含有建材について,同作業に従事する建築作業従事者との関係で平成14年1月1日から,各石綿含有建材の販売終了時まで,当該建材について適切な警告表示をすべき義務があったから,1審被告企業らに警告表示義務違反が認められる。
(2)1審被告企業らによる石綿含有建材の製造・販売行為が加害行為に当たるというためには,それが被災者らに対する具体的危険性を有するものである必要があり,そのためには,1審被告企業らの製造・販売した石綿含有建材が,被災者らの就労した建築現場に現実に到達したことまでは必要でないが,少なくとも,被災者らの就労した建築現場に到達した(その結果,被災者らが当該建材に由来する石綿粉じんに曝露した)相当程度以上の可能性が必要であると解するのが相当である。そして,特定の企業の製造・販売した石綿含有建材が,特定の被災者が就労する建築現場に到達した相当程度以上の可能性があることが立証され,そのような立証がされた複数の企業の製造・販売した石綿含有建材に由来する石綿粉じんが共同して当該被災者に石綿関連疾患を発症させたと認められる場合には,その複数の企業は,当該被災者に対し,民法719条1項後段の類推適用により,共同不法行為責任を負う。この場合,1審原告らにおいて,他に原因者が存在しないことの主張・立証は不要である。
第14章 1 被控訴人国の国賠法1条1項に基づく損害賠償責任
(1)国が,建築作業従事者が石綿含有建材の切断,穿孔等の作業により石綿関連疾患に罹患することを防止するため,労働安全衛生法(安衛法)上の規制権限を行使し,①昭和50年10月1日以降,事業者に対する防じんマスクの着用義務付け,作業現場における警告表示の義務付けならびに建材メーカーに対する石綿含有建材への警告表示の義務付けを行わなかったこと,②平成3年末以降,石綿含有建材の製造等を禁止しなかったことは,国賠法1条1項の適用上違法である。
(2)国の安衛法55条,57条に基づく規制権限の不行使については,いわゆる1人親方も,国家賠償の保護範囲に含まれる。
(3)国が国賠法1条1項に基づき被災者らに負うべき責任の範囲は,被災者らに生じた損害の2分の1とするのが相当である。
2 被控訴人企業らの民法719条1項に基づく損害賠償責任
(1)建材メーカーは,昭和50年1月1日以降,建築作業従事者に対し,石綿含有建材の切断,穿孔等の作業により石綿関連疾患を発症する危険性等について警告表示する義務を負い,被控訴人企業らには警告表示義務違反が認められる。
(2)共同不法行為の加害行為に当たるというためには,特定の被控訴人企業が警告表示義務に違反して製造販売した石綿含有建材が特定の被災者に到達したことの立証が必要であるが,マーケットシェアを利用した加害行為者の特定という方法も,建材使用が極めて多数回に及ぶ状況では合理性を有し,当該建材のシェアが10%以上を占める被控訴人企業の製造販売行為は,被災者らの就労した建築作業現場に到達する高度の蓋然性が認められる。
(3)上記被控訴人企業らは,民法719条1項後段の類推適用により,被災者の曝露期間とメーカーの責任原因期間,主要原因企業以外のメーカーの寄与を考慮した範囲で,連帯して責任を負う。
第15章 九州建設アスベスト損害賠償請求事件(控訴審)