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2020年11月23日
『石綿障害予防規則に関する裁判例』をアマゾンで出版しました。

石綿障害予防規則に関する裁判例を網羅しています。

石綿障害予防規則(平成17年2月24日厚生労働省令第21号)(平成21年4月1日改正省令施行)は、石綿の安全な取扱と障害予防についての基準を定めた厚生労働省令です。

労働安全衛生法に基づき定められました。

石綿(いしわた)とは、アスベストのことです。

関連項目として、労災、労働者災害補償保険法があります。

目次

第1部 労働災害

第1章  ホテルの設備係として勤務してきた労働者が悪性胸膜中皮腫に罹患して死亡したことにつき,同疾患の原因が多量の石綿(アスベスト)を吸引する可能性の高い作業に従事したことによるものであり,使用者であるホテルの経営会社に安全配慮義務違反があったとして,遺族の損害賠償請求が認容された事例

第2章  1 昭和30年4月から電気工として複数の企業において石綿曝露作業に従事した後,昭和62年3月に自らK電工を設立し,代表取締役として労災保険に特別加入していた原告Xが,平成16年に原発性肺がん(扁平上皮がん)に罹患し,当該特別加入期間にかかる労災保険関係に基づき休業補償給付の支給決定がなされた件につき,Xは,(Ⅰ)昭和30年4月から昭和62年2月までは,報酬の支給に当たり請求書を提出していたり,自らの屋号で仕事をするなどしていた時期も含めて労災保険法上の労働者性を備えていたといえるが,(Ⅱ)K電工設立の62年3月から代表取締役退任の平成13年5月までについては同法上の労働者性は認められないとされた例

2 Xは,労働者性を具備していた上記(Ⅰ)の期間(労働者期間)中には相当量の石綿に曝露していたが,特化則改正が行われた昭和50年以後は,石綿に関する規制強化などにより石綿曝露量は減少し,(Ⅱ)の期間以降(非労働者期間)は,ほとんど曝露していないか,曝露していても顕著に少なかったと認められるとされた例

3 肺がん(本件疾病)は石綿以外にも発症原因が多く存在する疾患であるところ,石綿曝露と肺がん発症との間に直線的な量-反応関係があり,かつ石綿曝露作業に概ね10年以上従事した場合には,肺がんが石綿に起因すると判断されることが相当であるとされ,Xは労働者期間中の石綿曝露により本件疾病を発症したもので,労働者期間中の石綿曝露と本件疾病との間には因果関係が認められるから,被告Y労基署長による本件支給決定は判断を誤ったものであるとされた例

4 石綿による疾病に対する労災補償については最終曝露事業場に関する労災保険関係により行うこととする行政実務上の基準は,石綿曝露歴の事実認定が困難な場合における特例的な事実認定方法を示したものであり,「当該労働者の石綿ばく露状況…が不明な場合に限って,転々労働者等の事実認定」に供するのが相当であって,これを,Xに対する石綿曝露状況およびそれに基づく労災保険の適用の有無等を判断し得る本件に適用するのは相当でないとされた例

5 Xの請求が認容され,特別加入期間にかかる労災保険関係に基づき行われた休業補償給付の支給決定処分が取り消された例

第3章  石綿管を製造していた被告の元従業員及び遺族ら(甲事件原告ら)が,工場で作業中に石綿粉じんに曝露したことにより,アスベスト肺等の石綿関連疾患に罹患あるいは死亡したとし,工場の近隣に居住していた元従業員の家族(乙事件原告ら)が,工場から排出された石綿粉じんに環境曝露したことにより,健康被害を生じたとして,被告に対し,安全配慮義務違反ないし不法行為による損害賠償を求めた事案

第4章  控訴人が,自宅建物の取壊しに伴い支払ったアスベスト除去工事費用及びアスベスト分析検査費(以下,本件除去費用等)を所得税法72条の雑損控除の対象として,所得税の確定申告をしたところ、税務署長が本件除去費用等は雑損控除の対象にならないとして更正処分・過少申告加算税の賦課決定処分(以下,本件更生処分等)を行ったため,控訴人が本件更正処分等の各取消しを求めたところ,原審は控訴人の請求をいずれも棄却したため,控訴人が控訴した事案。

第5章  1 石綿ばく露作業従事者の肺がんの業務起因性判断において,当該作業の従事期間が10年以上であることに加え,肺内に存在する石綿小体および石綿繊維が一定の数以上あることを求めた通達は,労働者の救済範囲を狭めるものであり,それまでの認定基準と数値基準が定められた趣旨に反しているし,現存しないクリソタイルが肺内に存在したときに当該労働者の健康に対して与えた悪影響をまったく考慮していないこととなるから,合理性を見出すことは困難であるとされた例

2 石綿ばく露作業に従事した労働者に肺がんが発生した場合,その肺がんについて業務上の疾病と認めるべきか否かについては,当該労働者による石綿ばく露作業従事期間が「10年以上」であり,当該労働者の肺組織内に職業上の石綿ばく露の可能性が高いとされる程度の石綿小体または石綿繊維の存在が認められる医学的所見が得られれば,肺がんを業務上の疾病として認めるのが相当というべきであるとされた例

3 原告Xの喫煙歴が本件疾病の発症原因とは認められないこと,遺伝的要因が肺がんの発症に寄与した可能性を認めることも困難であることから,他に肺がん発症の原因となり得る要因を抱えていることを認めるに足りる証拠はないとされた例

4 Xは10年以上に及ぶ石綿ばく露作業に従事したことによって業務上石綿にばく露し,その結果,Xの肺内に吸入された石綿を原因として本件疾病を発症させたものであり,本件疾病の発症は業務に起因するものと認めるのが相当であるとされた例

5 Y労基署長がXの肺がん発症は業務起因性が認められないとしてなした労災保険法による休業補償給付不支給処分が取り消された例

第6章  1 腹膜原発悪性中皮腫で死亡したKの中皮腫の発症原因は石綿ばく露であると認められ,同人が原発内で従事したポンプや焼却炉等の点検検査時におけるシール材の交換作業中にアスベストにばく露したものと認められた例

2 注文者と請負人との間に請負という契約の形式をとりながら,注文者が単に仕事の結果を享受するにとどまらず,請負人の雇用する労働者から実質的に雇用関係に基づいて労働の提供を受けているのと同視しうる状態が生じていると認められる場合には,その間に雇用関係が存在しなくとも,注文者と請負人との請負契約および請負人とその従業員との雇用関係を媒介として間接的に成立した法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入ったものとして,信義則上,注文者は当該労働者に対し,使用者が負う安全配慮義務と同様の安全配慮義務を負うものと解され,これは,注文者,請負(元請)会社および下請会社と孫請会社の従業員との間においても同様に妥当するとされた例

3 下請会社の被告Y3社は,孫請会社のA工業のKから実質的に雇用関係に基づいて労働の提供を受けているのと同視しうる状態が生じていたことから,安全配慮義務を負うとされ,請負(元請)会社の被告Y2社は,現場監督者によるY3社の工事担当者に対する指示という形で間接にA工業のKを監督しており,また必要があればKに直接指示を行うことも可能であったといえるから,請負人の雇用する労働者から実質的に雇用関係に基づいて労働の提供を受けているのと同視しうる状態が生じていたと認められるから,安全配慮義務を負うとされた例

4 注文者の被告Y1社は,A工業の雇用していたKから実質的に雇用関係に基づいて労働の提供を受けているのと同視しうる状態が生じていたとは認められず,安全配慮義務を負わないとされた例

5 Y2社とY3社は,シール材をアスベスト非含有の製品に代替する義務については,シール材を提供していたのは注文者であるY1社であったこと,シール材の特性により現在に至ってもアスベスト非含有の製品に代替することは困難であることなどを考慮すれば,かかる義務違反は認められないが,昭和61年から平成11年までの間アスベスト対策を行ってこなかった点につき安全配慮義務違反が認められるとされた例

6 KはY2社およびY3社の安全配慮義務違反によりアスベストにばく露し,それが原因で中皮腫を発症して死亡したものと認められ,上記両社の安全配慮義務違反とKの死亡との間には因果関係があるとされた例

7 アスベスト非含有の代替品を使用することは当時としては不可能ないし著しく困難であったといえるから,社会通念上,工作物が通常有すべき安全性を欠くということはできないので,Y1社に工作物責任は成立しないとされた例

8 原告Xらのうち労災保険年金の受給権者である原告X1(死亡したKの妻)についてのみ損害賠償請求権から損益相殺による控除をすべきであるとされた例

第7章  1審被告Y1(以下,被告Y1)の従業員であった訴外亡Aが悪性胸膜中皮腫により死亡したのは,1審被告Y2(以下,被告Y2)の工場で作業をした間(以下,本件期間)に石綿粉じんにばく露したためであるとして,Aの相続人である1審原告ら(以下,原告ら)が被告らに対し,損害賠償等を求めたところ,原審は原告らの請求を一部認容・一部棄却したため,双方が控訴した事案である。

第8章  被告の元従業員らが,訴外会社の輸入貨物の石綿の搬送業務中及び被告の大物車庫での石綿積み下ろし作業中に石綿粉じんを吸引し,肺がん・悪性中皮腫等石綿関連疾患に罹患して死亡したことから,その遺族である原告らが,被告に対し,安全配慮義務等に違反したとして債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償等を求めた事案である。裁判所は,元従業員全員が石綿粉じんにばく露したことを認めたうえで,「生命・健康の安全性に疑念を抱かせる程度の抽象的危惧でも,労働者の労働環境を考慮して,その予見義務の内容に対応した安全配慮義務等の内容が特定され,その違反が認められるときには,使用者は債務不履行又は不法行為責任を免れない」等として,被告の予見可能性及び安全配慮義務を認定し,本件安全配慮義務違反と元従業員らの死亡との間の相当因果関係は認められるとしたうえで,原告らに対する損害金等の支払を被告に命じた事例

第9章  Aは会社の従業員として建設現場で多量の石綿粉じんを吸引し,肺がん等にり患して死亡したとして,Aの相続人らが,会社に対し損害賠償を,国に対し必要な規制をしなかったとして国家賠償を求めた事案。裁判所は,医師のX線検査やCT検査の結果,胸膜プラークはないとされており,Aの石綿ばく露の指標となる医学的所見を確認することができず,Aの傷害及び死亡について,原告らの主張する石綿ばく露,石綿肺及び石綿ばく露を原因とする肺がんによるものであったとは認められないとして,請求を棄却した事例

第10章 1 本件従業員らが,被告Y1社に勤務していた際の石綿粉じんへのばく露と同人らの石綿肺等の罹患ないし死亡との間に因果関係が認められた例

2 昭和35年のじん肺法の制定後,Y1社がシリカを使用するようになった昭和38年頃までには,石綿を含有する保温断熱材を使用した保温断熱工事に労働者を従事させていたY1社において,石綿粉じんへのばく露が生命,健康に重大な障害を与える危険性があることを認識することができ,かつ,認識すべきであったと認めるのが相当であるとされた例

3 本件従業員らは,Y1社の従業員であったのであるから,Y1社は,本件従業員らとの雇用契約の付随義務として,信義則上,その生命および健康等を危険から保護するよう配慮すべき安全配慮義務またはそのような社会的関係に基づく信義則上の注意義務を負うとされた例

第11章 被告(自動火災報知機の設置・保守点検等を業とする会社)の従業員であった亡Aの相続人である原告らが,会社業務でアスベスト粉塵等に曝露し,肺がんによりAが死亡したとして,被告に対し,①安全配慮義務違反に基づく損害賠償,②被告就業規則に基づく遺族補償金の支払いを求めた事案。裁判所は,①につき,Aの業務がアスベスト対策が課題とされる以前であり,被告はアスベスト曝露の危険性を予見しえず,被告に安全配慮義務違反を認めることはできないとし,②につき,請求の一部(保険給付支給分を除き)を認容した事例

第12章 建築現場において電気工事に従事していた作業員が,悪性胸膜中皮腫に罹患し,死亡した場合において,被告には,上記作業員を従業員又は下請業者として作業させるに当たり,石綿等の粉じんの曝露による健康被害防止措置を講じなかったことにつき,安全配慮義務違反が認められるとして,損害賠償責任を認めた事例

第13章 被告の塗装工が,被告における約47年間の勤務の後,間質性肺炎にり患して死亡した場合において,同塗装工は上記勤務により石綿肺にり患し(胸膜プラークあり),被告には同塗装工に対し石綿粉じんのばく露による健康被害防止措置を講じなかったこと等につき安全配慮義務違反が認められるとして,被告に損害賠償責任を認めた事例

第14章 ①従業員として被控訴人会社の工場内で石綿原料等の搬入・搬出作業等を行った際,②溶接工として水道管溶接作業等に従事するなどした際,それぞれ石綿粉じんに曝露し,肺がんに罹患し死亡したとしてその相続人らが,被控訴人らに対し損害賠償を求めた事案の控訴審。

第15章 高層ビルのエレベーターリニューアル工事に従事していた原告が,当該工事の元請だった被告が下請労働者に対する安全配慮義務に違反し,防護服着用等の対策を講じなかったため,アスベストに被爆し,慢性咳嗽に罹患したとし,不法行為に基づく賠償(休業損害,将来のじん肺発症の不安に係る精神的損害)請求をした事案。

第16章 1 亡Aの疾病(肺がん)と石綿ばく露の因果関係について否定した1審の認定を一部変更し,肺がんの発症リスクを2倍以上に高める石綿ばく露があった場合に肺がん発症を石綿に起因するものとみなし,石綿繊維25本/ml×年を発症リスクが2倍になる累積ばく露量とみなす平成24年基準(労災認定基準)を優に満たしていることから,肺がん発症が神戸工場での勤務に起因することが高度の蓋然性をもって証明されたというべきであるとされた例

2 亡Dの疾病(肺がん)と石綿ばく露の因果関係について否定した1審判断を変更し,平成24年基準に定められる累積ばく露量の指標を満たしているというべきであり,他方,喫煙年数が判然としないことから,肺がん発症が喫煙に起因するものであると推認することはできないため,肺がん発症が神戸工場での勤務に起因することが高度の蓋然性をもって証明されたというべきであるとされた例

3 昭和35年の時点で被控訴人・控訴人(1審甲事件被告兼乙事件被告)Y社は,高濃度のタルク粉じんの飛散,タルクへの石綿の混在,石綿の生命・健康への危険性のすべてを知悉していたともいえ,そうであれば,Y社は具体的に生命・健康への危険性を予見していたとも認められるとされた例

4 喫煙歴による慰謝料の減額については一律に行うのが相当として,1割の減額が相当とされた例

5 Y社による消滅時効の援用を権利濫用に当たるとした1審判断が維持された例

第2部 労働者の家族

第1章  石綿を取扱う会社に勤務していた父親が,自宅に持ち帰ったマスクや作業衣にその子が接触して悪性中皮腫に罹患して死亡したとして,同会社に対して損害賠償を請求した事案について,石綿粉じんの吸引によって悪性中皮腫が発症したとは認められないとして,その請求が棄却された事例

第3部 売買契約

第1章  被告から土地建物を購入した原告が,同契約の8年後に建物の建替え時に,同土地に高濃度のヒ素が存在し,同建物にアスベストが使用されていたことが判明した等として,被告に対し,不法行為に基き,ヒ素除去・アスベスト除去費用等の支払を求めた事案。裁判所は,被告が,本件売買契約締結当時,本件建物・土地につきアスベスト・ヒ素の調査・除去工事を行うとか,又は本件建物・土地がアスベスト・ヒ素を含有することを原告に説明する義務があったとはいえない等として,請求を棄却した事例

第2章  工場跡地の売買契約において土壌中のアスベストの含有につき売主の瑕疵担保責任が否定された事例

第3章  本件は,原告が,亡Aの相続人である被告らに対し,本件建物から石綿が発見され,この除去に合計658万8000円(税込み)かかったとして,本件売買契約上の瑕疵担保責任の規定に基づく損害賠償として合計658万8000円(被告らに対する請求は各自相続分に応じた額)及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案である。

第4部 建物賃貸借契約

第1章  建物賃貸借契約における,対象建物について,貸主は,アスベストの存在及び認識していた事実について借主に説明済みであるとして,アスベスト除去工事期間などの説明義務違反,建物にアスベストが存在するために同建物を全く使用収益することができなかったとする賃貸借契約上の債務不履行,賃貸借契約の錯誤無効などの主張を退け,約定による期間内解除の意思表示を有効として,賃料債権相殺後の保証金等返還請求を認めた事例

第2章  建物の賃借人である原告が,賃貸人である被告に対し,修繕義務に関する合意に基づき,(1)工事の実施並びに(2)被告に代わって支払った修繕費用の支払を求めるとともに,(3)建物内外における看板の設置及び使用の禁止を求めた事案。

裁判所は,被告に対し,(1)本件建物の梁及び柱等から,アスベスト含有物が検出されているとして,アスベストの飛散防止の処置,(2)建物各階の随所に漏水が発生している等として,覚書等記載の修繕義務に基づく外壁面止水改修工事の実施,(3)被告が原告に無断で看板を設置すること等は,原告の賃借権の侵害に当たる等として,請求を認容した。

第5部 工作物責任

第1章 原審が,壁面に吹き付けられた石綿が露出している建物が通常有すべき安全性を欠くと評価されるようになった時点を明らかにしないまま,同建物の設置又は保存の瑕疵の有無について判断したことに審理不尽の違法があるとされた事例

第6部 国家賠償法

第1章  労働大臣が石綿製品の製造等を行う工場又は作業場における石綿関連疾患の発生防止のために労働基準法(昭和47年改正前)に基づく省令制定権限を行使しなかったことが国家賠償法1条1項の適用上違法であるとされた事例

第2章  労働大臣が石綿製品の製造等を行う工場又は作業場における石綿関連疾患の発生防止のために労働基準法(昭和47年改正前)に基づく省令制定権限を行使しなかったことが国家賠償法1条1項の適用上違法であるとはいえないとした原審の判断に違法があるとされた事例

第7部 建設アスベスト事案、共同不法行為

第1章 1 建設アスベスト事案において,民法719条1項前段の共同不法行為の要件として,複数人による個々の加害行為と損害の全部との間にそれぞれ独自に相当因果関係があることを要するとした事例

2 建設アスベスト事案において,民法719条1項後段の共同不法行為の要件として,共同行為者以外の者による加害行為はないか,又は共同行為者以外の者による加害行為と損害との間には相当因果関係がないことを要するとした事例

第2章  首都圏建設アスベスト損害賠償請求神奈川訴訟

第3章  1 国が建築作業現場における石綿含有建材の取扱い作業による石綿関連疾患の発生防止のために労働安全衛生法に基づく規制・監督権限を行使しなかったことが国家賠償法1条1項の適用上違法であるとされた事例

2 長期間,多数の建築作業現場で建築作業に従事したため,いずれの建材メーカーの製造・販売した石綿含有建材からの石綿粉じんに曝露して石綿関連疾患に発症したか因果関係の立証が困難な事案において,各建材メーカーの製造・販売した石綿含有建材のマーケットシェア及び建築作業従事者の経験した作業現場数に基づく確率計算により,当該建築作業従事者が従事した建築作業現場への各建材メーカーが製造・販売した石綿含有建材の到達頻度を推定した上で,各建材メーカーに対して,民法709条に基づき寄与度に応じた分割責任あるいは民法719条1項後段に基づく連帯責任として,建築作業従事者への損害賠償責任を認めた事例

第4章  建設現場での石綿粉塵に曝露したことにより肺がんなどに罹患した元建設作業員と遺族計354人が,国と建材メーカー42社に総額約120億円の賠償を求めた控訴審の事案(東京第1陣集団訴訟)。

第5章 1 建築作業従事者であった者又はその相続人である1審原告らの1審被告国に対する,1審被告国の旧労基法及び安衛法並びに建基法に基づく規制権限不行使を理由とする国賠法1条1項に基づく損害賠償請求

2 建築作業従事者であった者又はその相続人である1審原告らの建材メーカーである1審被告企業らに対する,民法719条1項前段又は後段の適用若しくは類推適用並びに同法709条に基づく損害賠償請求

第6章  1 被控訴人国の国賠法1条1項に基づく損害賠償責任

          (1)国が,建築作業従事者が石綿含有建材の切断,穿孔等の作業により石綿関連疾患に罹患することを防止するため,労働安全衛生法(安衛法)上の規制権限を行使し,①昭和50年10月1日以降,事業者に対する防じんマスクの着用義務付け,作業現場における警告表示の義務付け並びに建材メーカーに対する石綿含有建材への警告表示の義務付けを行わなかったこと,②平成3年末以降,石綿含有建材の製造等を禁止しなかったことは,国賠法1条1項の適用上違法である。

          (2)国の安衛法55条,57条に基づく規制権限の不行使については,いわゆる1人親方も,国家賠償の保護範囲に含まれる。

          (3)国が国賠法1条1項に基づき被災者らに負うべき責任の範囲は,被災者らに生じた損害の2分の1とするのが相当である。

          2 被控訴人企業らの民法719条1項に基づく損害賠償責任

          (1)建材メーカーは,昭和50年1月1日以降,建築作業従事者に対し,石綿含有建材の切断,穿孔等の作業により石綿関連疾患を発症する危険性等について警告表示する義務を負い,被控訴人企業らには警告表示義務違反が認められる。

          (2)共同不法行為の加害行為に当たるというためには,特定の被控訴人企業が警告表示義務に違反して製造販売した石綿含有建材が特定の被災者に到達したことの立証が必要であるが,マーケットシェアを利用した加害行為者の特定という方法も,建材使用が極めて多数回に及ぶ状況では合理性を有し,当該建材のシェアが10%以上を占める被控訴人企業の製造販売行為は,被災者らの就労した建築作業現場に到達する高度の蓋然性が認められる。

          (3)上記被控訴人企業らは,民法719条1項後段の類推適用により,被災者の曝露期間とメーカーの責任原因期間,主要原因企業以外のメーカーの寄与を考慮した範囲で,連帯して責任を負う。

第7章  被告解体業者が,石綿(アスベスト)の飛散対策を講じないまま建物の解体工事を行い,原告ら(建物の周辺に居住)の平穏生活権又は健康を侵害したとして,被告らに対し,損害賠償を求めた事案。

第8章   1 本件は,第1審原告らが,建築作業従事者であった被災者らが建築現場において建築物の新築,改修,解体作業等に従事した際,石綿含有建材による石綿粉じんに曝露したことにより,石綿肺,肺がん,中皮腫,良性石綿胸水,びまん性胸膜肥厚の石綿関連疾患を発症したとして,第1審被告らに対し,(後略)

第9章  Dは,平成2年9月から平成17年9月まで,被告太平ビルサービス株式会社(以下「被告会社」という。)に雇用され,その間,被告北九州市(以下「被告市」という。)が設置した北九州市立総合体育館(以下「本件体育館」という。)の設備の管理業務等に従事していたが,平成17年に肺がんにり患して肺の一部を切除し,平成25年9月14日(当時78歳),細菌性肺炎を原因とするARDSを死因として死亡した。

   本件は,Dの相続人である原告らが,Dは本件体育館の石綿含有建材から発生した石綿粉じんにばく露し,じん肺(石綿肺)及び肺がんにり患したことにより死亡したと主張して,被告市に対しては国家賠償法1条1項又は2条1項に基づき,被告会社に対しては民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)415条又は709条に基づき,原告Aについては2365万円(Dの死亡慰謝料の相続分2分の1,原告Aの固有の慰謝料,葬祭料及び弁護士費用の合計額),原告B及び原告Cについては各550万円(上記慰謝料の相続分6分の1及び弁護士費用の合計額)並びにこれらに対する平成25年9月15日(Dの死亡日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

第8部 住民訴訟

第1章  原告(市の住民)が,市立小学校校舎解体工事に起きたアスベスト飛散事故に関し,市が同工事請負業者Y2及び同工事監理委託業者Y3に対する不当利得返還請求権又は損害賠償請求権を有するとして,被告Y1(市長)に対し,①Y2・Y3に対し請求を怠る事実の違法確認,②Y2・Y3に支払った請負代金・委託料につき,請求することを求めた事案。

第2章  大槌町旧役場庁舎解体等公金支出等差止請求事件

第9部 税務

第1章  アスベストの除去費用は、人為による異常な災害とみることはできないとした事例

 

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