大学教員の整理解雇に関する裁判例を網羅しています。
目次
第1章 私立学校の生徒減少に伴う人員整理がその必要性なしとされた事例
第2章 解雇の意思表示前の解雇権不存在確認訴訟は、確認の対象適格性、確認の法的利益を欠き不適法であると判定した事例
第3章 酔余の失態を理由とする解雇が不当労働行為で無効とされた例
第4章 大学副手に対する学科縮小に伴う1次解雇が無効とされ、学科廃止に伴う2次解雇が有効とされた例
第5章 学部廃止を理由とする大学教授に対する解雇が無効とされた例
第6章 雇用期間を1年とし、過去4回にわたって契約が更新されてきた雇用契約の更新拒絶につき、雇用期間満了後における雇用の継続を期待することに合理性は認められないとされた例
第7章 特別任用教員である原告を雇止めする場合に要求される「社会通念上相当とされる客観的合理的理由」は、専任教員を解雇する場合のそれとはおのずから合理的な差異があり、これを緩和して解釈することが相当とされた例
第8章 控訴人外国人語学教員(後に特別任用教員)と被控訴人私立大学との間の労働契約は,実質的に,当事者双方とも,期間は定められているが,格別の意思表示がなければ当然に更新されるべき労働契約を締結する意思であったと認めることは到底できず,期間の定めのない労働契約に転化した,あるいは,本件雇止めの効力の判断にあたって,解雇に関する法理を類推すべきであると解することはできないとして,両者間の労働契約は,平成10年3月31日の期間の経過をもって,終了したと認めるのが相当であるとされた例
第9章 外国人である控訴人が,被控訴人の設置する市立大学の講師として任期を定めて任用され,同任期後更新されないで退職したところ,控訴人は被控訴人に対し,退職手当に関する条例に基づき支給された退職金につき,整理退職の場合の金額が支給されるべきところ普通退職の場合の金額しか支払われなかったと主張し,その差額金の支払を求めた控訴事案につき、控訴人の請求は理由がなく,これを棄却した原判決を相当とした事例
第10章 短期大学を含めた大学の教員の人事体系中に占める非常勤講師の地位は,あくまで専任教員とは異なる,非常勤の補助的教員たる立場にとどまるというのが相当で,単に非常勤講師としての契約が長期間反復されたとしても,当該非常勤講師を常勤教員として取り扱う旨の明示の合意が認められたり,その旨の黙示の合意が成立したと見なせるなどの特段の事情がある場合を除き,当該非常勤講師の法的地位が,上記のような補助的教員たる性格を脱して,常勤の専任教員としての地位ないしこれに準じる地位に転化する余地はないと解するのが相当であるとされた例
第11章 債権者が債務者に解雇ないし雇止めされたとしてその効力を争い,債務者に対し,地位保全及び賃金の仮払を求めた仮処分命令申立事件。裁判所は,債権者を期間を定めて雇用し(原則として1年間),個別に契約書を作成するなどした債務者において,契約書の期間の定めを形骸化させるような取扱いや約束は認められず,当事者が期間の定めのない契約を締結する意思であったとは認められないとした上で,債権者と債務者との雇用契約が16年間にわたり15回更新されてきたとしても,当事者間に期間の定めのない労働契約が存在する場合と実質的に異ならない関係が生じたとはいえないとし,その契約関係が継続されることが期待されていたともいえず,解雇権濫用法理を類推適用する余地はなく,カリキュラム変更による雇止めとして必要性があり,合理的であれば,信義則上許容されないとはいえないなどとして,本件申立てを却下した事例
第12章 控訴人は,被控訴人学園から委嘱期間を定めて,本件短大保育科の音楽の非常勤講師の委嘱を受け,控訴人に対する委嘱停止までの19年間,毎年反復して更新されてきたものである。19回も更新されていることから,本件の場合にも,雇い止めには相応の理由を要するものと考えられるが,それ程強いものが要求されない。被控訴人Aが控訴人と会い,学生の指導方法には十分留意するように申し入れたが,控訴人に特に反省の弁はなかったこと,また,被控訴人学園において減員の対象となる非常勤職員がいなかったことを考え併せれば,雇用継続の期待を保護する必要性の薄い本件労働契約においてこのような理由でも一応相当性は認められるべきであるから,本件委嘱停止は有効であり,被控訴人学園の控訴人に対する不法行為に当たらないとした事例
第13章 大学の専任講師である原告には,学生(特に女子学生)や他の女性教員に対する度重なる不適切な言動があり,原告の大学講師としての適格性にやや問題があるのは否定できないことが認められるが,いまだ解雇に値するものとまではいえないとして,大学を経営する被告による原告の通常解雇を無効とした事案
第14章 被告経営の学校の専任教員をしていた原告らが,委嘱期間満了により契約更新しない旨の被告の通知は,解雇権濫用に該当し,また懲戒解雇事由がないのに懲戒解雇の意思表示をしたとして,労働契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに未払賃金等の支払を求めた事案
第15章 ①11名の退職が予定された段階においては,同退職により一時的な退職金差額の負担を除き少なくとも4128万円程度の人件費の削減になり,これにより財務状況は相当程度改善されると予測されたから,この点で本件整理解雇の必要性があったとは認めがたいこと,②本件整理解雇は人を入れ替えることを意図したものと解され,その観点からもその必要性を肯定しがたいこと,③予算ではなく平成19年度の実際の財務状態を前提に1審被告Yの計算式を適用すると削減人数は13名になり,その結果整理解雇の人数は2名になるから,本件整理解雇の段階で予算による従前の計算をそのまま使用することは妥当でないことといった問題点等を総合すると,本件整理解雇時に7名の専任教員の解雇を要するだけの必要性があったとは認めることができないとされた例
第16章 非常勤講師は,クラス担任および生活指導等は行わず,校務分掌にも入っておらず,兼職も禁止されておらず,給与体系や適用される就業規則が専任教員と異なり,勤務時間数も各年度の各学科のクラス編成数や生徒の科目選択によって変動することから,被控訴人(1審原告)X1らと控訴人(1審被告)Yとの間の雇用契約が,実質において専任教員の場合と同じく期間の定めのない雇用契約と異ならない状態にあったものとはいえないことは明らかであるとされた例
第17章 原告(被告運営の短期大学に教授として勤務)が,解雇が無効として,被告に対し,雇用契約上の権利の地位確認を求めるとともに,解雇後の賃金等の支払を求めた事案。
第18章 Xらの就業場所が専修大学北海道短期大学(以下,「北海道短大」)に限定されていたという事実は,Xらがその同意なくして北海道短大以外の場所で就業させられないことを意味するにとどまり,北海道短大が学生募集を停止し閉校される場合において,使用者である被告Y法人が労働者であるXらに対して行うべき雇用確保の程度を軽減させる理由となるものではないと解すべきであり,Y法人は,本件募集停止決定に当たり,できるだけの雇用確保の努力をすべきであったとされた例
第19章 大学の学部再編に伴い,整理解雇された教授ら5人が,同大学を運営している学校法人に対し,解雇無効確認等を求めた事案。裁判所は,大学側には人員削減の必要性が高かったと認めながら,希望退職の募集は3年以上前に1度行ったのみで,今回別途に実施せず,本件解雇後,非常勤講師を再雇用したり,新たな教員を公募しており,適正に解雇回避努力を尽くしたとは認められないとした上,労働協約と評価できる合意書にも反し,手続的にも問題があるとして,本件整理解雇は解雇権の乱用に当たり無効であると認め,未払賃金の支払を命じた事例
第20章 本件解雇は,被控訴人(1審原告)Xの平成23年度の担当科目がなくなり,従事する職務がないことを理由に,就業規則12条2項(学生数の著しい減少その他やむを得ない事由によって業務を継続することが困難な場合)または同条1項4号(その他控訴人(1審被告)Y学園との雇用関係を維持しがたい事由がある場合)に基づき,Y学園がXを解雇したというもので,このように,労働者の責に帰すべき事由によらず,専ら使用者側の経営上の理由による解雇については,労働契約法16条によって無効となるか否かをより厳格に判断すべきであり,具体的には,①人員削減の必要性,②解雇回避努力,③人選の合理性,④手続きの妥当性という,いわゆる整理解雇4要素を総合勘案して判断するのが相当であるとした1審判決が維持された例
第21章 被告大学院整形外科のA教授から成人病センターへの異動の受諾を説得されたため被告を退職して移籍した原告(被告医学部整形外科助教として勤務)が,被告の退職勧奨により退職した場合に該当するとして,既払の退職金(自己都合退職を前提)との差額の支払を求めた事案。争点は,本件退職が,被告の退職勧奨によるものとして扱われるべきか,自己都合退職によるものとして扱われるべきか。裁判所は,医局人事であることから,被告を退職した後の原告の新たな勤務先が確保されており,退職後も医局と医局員の関係は継続していくことが前提となっていること,被告の教職員についての採用・退職等の人事権は学長に帰属しており,A教授が説得したことをもって,被告による退職勧奨と同視することはできないことなどから,本件退職は自己都合退職として扱うのが相当として請求を棄却した事例
第22章 大学専任教員の65歳定年後の再雇用に関し,被控訴人兼控訴人(1審原告)Xが,①控訴人兼被控訴人(1審被告)Y法人との間で満70歳を定年とする旨の合意が存在すること,②Y法人には満70歳を定年とする労使慣行が存在すること,③Y法人がXとの間で再雇用契約を締結しないことが権限濫用に当たることを主張したものの,いずれも認容できないとされた例
第23章 定年後1年単位の労働契約で控訴人運営の大学で特別専任教員として勤務していた被控訴人が,平成26年4月以降控訴人が非常勤講師として扱ったのは無効な雇止めとして,特別専任教員としての地位確認と給与・手当の差額分の支払を求め,原審がほぼ認容した控訴事案。被控訴人は更新年限満了のため地位確認請求部分は取り下げ,原審で請求分以後の未払賃金,賞与等請求を拡張して附帯控訴した。控訴審は,平成26年4月以降の被控訴人の勤務継続は,非常勤講師としての労働契約締結の承諾を示す事情に当たらない,勤務規程で労働契約の期間が1年とされていても,平成27年以降も次期の契約更新への期待に合理的理由があり,控訴人において更新を拒絶し得る新たな事情が生じたとは認められない,などとして控訴を棄却し,附帯控訴を認容した事例
第24章 学部の廃止に伴う本件解雇は,原告Xらに帰責性のない被告Y法人の経営上の都合によるものであって,本件解雇が解雇権を濫用したものとして無効となるか否かは,人員削減の必要性,解雇回避努力,被解雇者選定の合理性および解雇手続きの相当性に加えて,本件においては,Xらの再就職の便宜を図るための措置等を含む諸般の事情をも総合考慮して,本件解雇が客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当と認められるか否か(労働契約法16条)を判断するのが相当であるとされた例
第25章 原告が,被告(国立大学法人の大学)に対し,普通解雇は無効として,①労働契約上の地位の確認,②賃金及び賞与の各支払,③被告の職員が無断で原告の医療情報を取得したことなどが違法として,民法715条1項に基づき慰謝料の支払を各求めた事案。裁判所は,原告は勤務実績が著しく不良で,被告職員として必要な適格性を欠くと評価でき,被告就業規則30条1項1号及び7号に該当し,解雇の客観的合理性は認められ,解雇回避のための手段を尽くし社会的相当性は認められるから,解雇は有効として①②請求を棄却し,③被告人事課長による原告の情報の取得は違法性を有するもので,被告は,その不法行為につき使用者責任を負うとして請求を一部認容した事例
第26章 被告Y法人の事業活動収支が赤字であることに加えて,入学者数の減少が見込まれる状況で決定された人員整理について,不合理とはいえないとしつつ,7名の常勤講師の退職の申出のために新たに13名を採用していることからすると,本件各解雇の予告を撤回して原告Xらの雇用を継続することができなかった理由も見当たらないとされた例
第27章 学部廃止に伴う教員の過員状態の解消という人員削減の必要性自体は認められるものの,原告Xら教員を解雇しなければ被告Y法人が経営破綻するなどの逼迫した財政状態ではなかったため,Xらを解雇する必要性が高かったとはいえないとされた例
第28章 被告が設置予定の通信制大学の開発準備室で勤務していた原告が,有期労働契約更新の申込みの拒絶につき,労契法19条2号により申込みを承諾したものとみなされるとして,被告に対し,労働契約上の地位確認や未払賃金,賞与の各支払を求めた事案。裁判所は,当該大学の設置を断念した場合にも雇用保障が失われるものではない旨の合意をしていたとの原告主張は採用できないとし,被告は,契約期間1年とし,期間満了により当然に終了するなどと記載された雇用契約書を原告に送付していることなどから,原告において有期労働契約が更新されるものと期待することに合理的な理由があるとは認められず,雇止めは有効として請求を棄却した事例