損害賠償請求控訴、同附帯控訴事件
【事件番号】 東京高等裁判所判決/平成26年(ネ)第5472号、平成27年(ネ)第318号
【判決日付】 平成27年5月19日
【判示事項】 いわゆる「株主提案権」を侵害されたという株主の会社ないし取締役に対する損害賠償請求に一部理由があるとした原判決が控訴審において全部理由がないとして取り消された事例
【判決要旨】 いわゆる「株主提案権」を侵害されたという株主の会社ないし取締役に対する損害賠償請求に一部理由があるとした原判決は、会社が当該株主の提案した議案の一部を招集通知に記載しなかったとしても、その提案が株主提案権を濫用するものであったと認められる判示の事実関係の下においては、その全部に理由がなく、これを取り消すべきものである。
【参照条文】 会社法303
会社法304
会社法305
会社法350
会社法429
民法709
民法715
民法719
【掲載誌】 金融・商事判例1473号26頁
一審
損害賠償請求事件
【事件番号】 東京地方裁判所判決/平成24年(ワ)第14392号
【判決日付】 平成26年9月30日
【判示事項】 いわゆる「株主提案権」を侵害されたという株主の会社ないし取締役に対する損害賠償請求に一部理由があるとされた事例
【判決要旨】 いわゆる「株主提案権」を侵害されたという株主の会社ないし取締役に対する損害賠償請求は、当該株主の提案した議案の一部を招集通知に記載しなかったことに正当な理由があったと認められない判示の事実関係の下においては、財産的損害として3万円および弁護士費用相当の損害として3,000円ならびに遅延損害金の支払いを求める限度で、一部理由がある。
【参照条文】 会社法303
会社法304
会社法305
会社法350
会社法429
民法709
民法715
民法719
【掲載誌】 金融・商事判例1455号8頁
会社法
第三百五条 株主は、取締役に対し、株主総会の日の八週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前までに、株主総会の目的である事項につき当該株主が提出しようとする議案の要領を株主に通知すること(第二百九十九条第二項又は第三項の通知をする場合にあっては、その通知に記載し、又は記録すること)を請求することができる。 ただし、取締役会設置会社においては、総株主の議決権の百分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権又は三百個(これを下回る数を定款で定めた場合にあっては、その個数)以上の議決権を六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する株主に限り、当該請求をすることができる。
2 公開会社でない取締役会設置会社における前項ただし書の規定の適用については、同項ただし書中「六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する」とあるのは、「有する」とする。
3 第一項の株主総会の目的である事項について議決権を行使することができない株主が有する議決権の数は、同項ただし書の総株主の議決権の数に算入しない。
4 取締役会設置会社の株主が第一項の規定による請求をする場合において、当該株主が提出しようとする議案の数が十を超えるときは、前三項の規定は、十を超える数に相当することとなる数の議案については、適用しない。 この場合において、当該株主が提出しようとする次の各号に掲げる議案の数については、当該各号に定めるところによる。
一 取締役、会計参与、監査役又は会計監査人(次号において「役員等」という。)の選任に関する議案 当該議案の数にかかわらず、これを一の議案とみなす。
二 役員等の解任に関する議案 当該議案の数にかかわらず、これを一の議案とみなす。
三 会計監査人を再任しないことに関する議案 当該議案の数にかかわらず、これを一の議案とみなす。
四 定款の変更に関する二以上の議案 当該二以上の議案について異なる議決がされたとすれば当該議決の内容が相互に矛盾する可能性がある場合には、これらを一の議案とみなす。
5 前項前段の十を超える数に相当することとなる数の議案は、取締役がこれを定める。 ただし、第一項の規定による請求をした株主が当該請求と併せて当該株主が提出しようとする二以上の議案の全部又は一部につき議案相互間の優先順位を定めている場合には、取締役は、当該優先順位に従い、これを定めるものとする。
6 第一項から第三項までの規定は、第一項の議案が法令若しくは定款に違反する場合又は実質的に同一の議案につき株主総会において総株主(当該議案について議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の十分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の賛成を得られなかった日から三年を経過していない場合には、適用しない。
控訴審の判決文
「 (2) 上記認定事実によれば、被控訴人は、平成21年より前には控訴人会社に対し株主提案権を行使したことはなかったところ、被控訴人が初めて株主提案権を行使した71期提案が1審被告壬村を取締役から解任すること等を内容とするものであったことは、自らの行った控訴人会社の新規事業開発に関する調査結果が採用されず、それに関与したのが1審被告壬村であったことと無縁であったとは到底解されない。そして、これに引き続いてされた72期株主総会に係る提案についてみると、被控訴人は、実父である甲野梅男の行為に関する不満や疑念の矛先を、当初は甲野梅男の実兄であり控訴人会社の相談役である甲野松彦に向けていたところ、思うような進展がなかったことから、自身が株主であることから株主提案権の行使という形を利用して、控訴人会社を通じてこれを追及しようとする意図が含まれていたものと認められる。
このような経過に加え、被控訴人が平成22年4月2日頃、72期株主総会に関し提案件数の数を競うように114個もの提案をしたことは、被控訴人が満足できる対応をしなかった控訴人会社を困惑させる目的があったとみざるを得ない。このことは、被控訴人が、その直前の同年3月28日に、ツイッターに、「株主提案の個数のギネスブック記録っていくつかどなたか知っていますか? 問い合わせ方法を誰か、知ってたら教えてください。」と投稿したことからも明らかであるというべきである(この点について、被控訴人は、もしギネスブックに株主提案の数について記載があれば、その数までは少なくとも容認される根拠になると思ったためであると供述するが、被控訴人が真実そのような意図で上記投稿をしたとは考え難い。)。そして、被控訴人は、控訴人会社からの重なる要請に従い、最終的には提案を72期提案2の20個にまで削減したものの、その中にはなお倫理規定条項議案及び特別調査委員会設置条項議案が含まれており、それらは、甲野松彦及び甲野梅男(「控訴人会社の無償のブランド提供先である企業の幹部」が甲野梅男を指すことは、前記認定に照らし明らかである。)を直接対象とするものであり、被控訴人が最後までこれらに固執したことからすれば、72期株主総会に係る提案は、上記のような個人的な目的のため、あるいは、控訴人会社を困惑させる目的のためにされたものであって、全体として株主としての正当な目的を有するものではなかったといわざるを得ない。また、72期株主総会に係る提案の個数も、一時114個という非現実的な数を提案し、その後、控訴人会社との協議を経て20個にまで減らしたという経過からみても、被控訴人の提案が株主としての正当な権利行使ではないと評価されても致し方ないものであった。
他方、控訴人会社の側からみれば、被控訴人に対し、その提案を招集通知に記載可能であり、株主総会の運営として対応可能な程度に絞り込むことを求めることには合理性があるといえるし、控訴人会社が、被控訴人に協議を申し入れ、その調整に努めたことは前記認定のとおりであり、このような経過を経ても被控訴人が特定個人の個人的な事柄を対象とする倫理規定条項議案及び特別調査委員会設置条項議案を撤回しなかったことは、株主総会の活性化を図ることを目的とする株主提案権の趣旨に反するものであり、権利の濫用として許されないものといわざるを得ない。
そして、72期株主総会に係る提案が前記のような目的に出たものと認められることからすれば、その提案の全体が権利の濫用に当たるものというべきであり、そうすると、控訴人会社の取締役が72期不採用案を招集通知に記載しなかったことは正当な理由があるから、このことが被控訴人に対する不法行為となるとは認められない。
なお、被控訴人は、倫理規定条項議案及び特別調査委員会設置条項議案の提案理由中に他人の名誉侵害に当たる部分があるとしても、議案の要領を招集通知に記載しないことは許されない(会社法施行規則93条1項3号)と主張するが、これらの議案を含む72期株主総会に係る提案をすること自体が権利の濫用に当たるから、控訴人会社がその記載を拒否することに正当な理由があることは、上記説示のとおりである。
(3) よって、72期株主総会に係る被控訴人の請求はその余の点を判断するまでもなくいずれも認められない。
4 73期株主総会について
(後略)」