国家公務員法違反被告事件
【事件番号】 最高裁判所第1小法廷決定/昭和51年(あ)第1581号
【判決日付】 昭和53年5月31日
【判示事項】 1、国家公務員法109条12号、100条1項にいう秘密の意義とその判定
2、外交交渉の概要が記載された電信文案が国家公務員法109条12号、100条1項にいう秘密にあたるとされた事例
3、いわゆる違法秘密にあたらないとされた事例
4、国家公務員法111条にいう同法109条12号、100条1項所定の行為の「そそのかし」の意義
5、国家公務員法111条、109条12項、100条1項の「そそのかし」罪の構成要件にあたるとされた事例
6、報道機関による公務員を対象とした秘密の取材と正当業務行為
7、正当な取材活動の範囲を逸脱しているとされた事例
【判決要旨】 1、国家公務員法109条12号、100条1項にいう秘密とは、非公知の事実であって、実質的にもそれを秘密として保護するに値するものをいい、その判定は、司法判断に服する。
2、昭和46年5月28日に愛知外務大臣とマイヤー駐日米国大使との間でなされた、いわゆる沖縄返還協定に関する会談の概要が記載された本件1034号電信文案は、国家公務員法109条12号100条1項にいう秘密にあたる。
3、本件対米請求権問題の財源についてのいわゆる密約は、政府がこれによって憲法秩序に牴触するとまでいえるような行動をしたものではなく、違法秘密ではない。
4、国家公務員法111条にいう同法109条12号、100条1項所定の行為の「そそのかし」とは、右109条12号、100条1項所定の秘密漏示行為を実行させる目的をもって、公務員に対し、その行為を実行する決意を新たに生じさせるに足りる慫慂行為をすることを意味する。
5、外務省担当記者であった被告人が、外務審議官に配付又は回付される文書の授受及び保管の職務を担当していた女性外務事務官に対し、「取材に困っている助けると思って安川審議官のところに来る書類を見せてくれ。君や外務省には絶対迷惑をかけない。特に沖縄関係の秘密文書を頼む。」という趣旨の依頼をし、さらに、別の機会に、同女に対し「5月28日愛知外務大臣とマイヤー大使とが請求権問題で会議するので、その関係書類を持ち出してもらいたい。」旨申し向けた行為は、国家公務員法111条、109条12号、100条1項の「そそのかし」罪の構成要件にあたる。
6、報道機関が公務員に大使秘密を漏示するように、そそのかしたからといって、直ちに当該行為の違法性が推定されるものではなく、それが真に報道の目的から出たものであり、その手段方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会観念上是認されるものである限りは、実質的に違法性を欠き正当な業務行為である。
7、当初から秘密文書を入手するための手段として利用する意図で女性の公務員と肉体関係を持ち、同女が右関係のため被告人の依頼を拒み難い心理状態に陥ったことに乗じて秘密文書を持ち出させたなど取材対象者の人格を著しく蹂躙した本件取材行為(判文参照)は、正当な取材活動の範囲を逸脱するものである。
【参照条文】 国家公務員法100-1
国家公務員法109
国家公務員法111
裁判所法3-1
憲法73
刑法35
【掲載誌】 最高裁判所刑事判例集32巻3号457頁