約束手形金事件
【事件番号】 最高裁判所第1小法廷判決/昭和30年(オ)第286号
【判決日付】 昭和35年12月27日
【判示事項】 1、小切手振出の代理権消滅後の手形振出と本人の責任
2、手形の受取人に表見代理の成立する場合と本人の責任
3、無権代理行為と代理権ある事項との関連の有無と民法第110条等
4、民法第110条の「権限アリト信ズベキ正当ノ理由ヲ有セシトキ」の意義
【判決要旨】 1、当座勘定取引のため小切手を振出す代理権しかない者が、その代理権消滅後代理人と称して約束手形を振出した場合に、受取人が右代理権の消滅につき善意無過失で、その者に手形振出の権限があると信じるにつき正当の理由を有するときは、本人は受取人に対し、振出人としての責任を免れない。
2、無権代理人の振出した約束手形につき、本人が受取人に対し、民法第110条及び第112条に基き振出人としての責任を負うときは、受取人からその手形の裏書譲渡を受けた者に対しても、その善意悪意を問わず、振出人としての責任を免れない。
3、民法第110条の規定は、代理人の当該行為が代理権のある事項と関連があると否とに拘わらず適用があるものと解すべく、同条と同法第112条が競合する場合も同様に解すべきである。
4、民法第110条の「権限アリト信ズベキ正当ノ理由ヲ有セシトキ」とは、代理権ありと信ずることが、前後諸般の事情に照し、普通の注意力を有する者にとり無理ではない場合をいう。
【参照条文】 民法110
民法112
手形法8
手形法14
【掲載誌】 最高裁判所民事判例集14巻14号3234頁