熊本県・チッソ水俣病・胎児傷害事件
業務上過失致死、同傷害被告事件
【事件番号】 最高裁判所第3小法廷決定/昭和57年(あ)第1555号
【判決日付】 昭和63年2月29日
【判示事項】 一、迅速な裁判の保障との関係で公訴提起の遅延がいまだ著しいとまでは認められないとされた事例
ニ、胎児に病変を発生させ出生後死亡させた場合における業務上過失致死罪の成否
三、刑訴法253条1項にいう「犯罪行為」の意義
四、被害者が受傷後期間を経て死亡した場合における業務上過失致死罪の公訴時効
五、結果の発生時期を異にする各業務上過失致死傷罪が観念的競合の関係にある場合の公訴時効
【判決要旨】 一、公訴提起が事件発生から相当の長年月を経過した後になされたとしても、複雑な過程を経て発生した未曾有の公害事犯であってその解明に格別の困難があったこと等の特殊事情があるときは、迅速な裁判の保障との関係において、いまだ公訴提起の遅延が著しいとまではいえない。
ニ、業務上の過失により、胎児に病変を発生させ、これに起因して出生後その人を死亡させた場合も、人である母体の一部に病変を発生させて人を死に致したものとして、業務上過失致死罪が成立する。
三、刑訴法253条1項にいう「犯罪行為」のには、刑法各本条所定の結果も含まれる。
四、業務上過失致死罪の公訴時効は、被害者の受傷から死亡までの間に業務上過失傷害罪の公訴時効期間が経過したか否かにかかわらず、その死亡の時点から進行する。
五、結果の発生時期を異にする各業務上過失致死傷罪が観念的競合の関係にある場合につき公訴時効完成の有無を判定するに当たっては、その全部を一体として観察すべきであり、最終の結果が生じたときから起算して同罪の公訴時効期間が経過していない以上、その全体について公訴時効は未完成である。
【参照条文】 憲法37-1
刑法211(昭和43年法律第61号による改正前)
刑事訴訟法250
刑事訴訟法253-1
刑法54
【掲載誌】 最高裁判所刑事判例集42巻2号314頁
憲法
第三十七条 すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
② 刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。
③ 刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。
刑法
(業務上過失致死傷等)
第二百十一条 業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、五年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。
(一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合等の処理)
第五十四条1項 一個の行為が二個以上の罪名に触れ、又は犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるときは、その最も重い刑により処断する。
(後略)
刑事訴訟法
第二章 公訴
第二百四十七条 公訴は、検察官がこれを行う。
第二百四十八条 犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。
第二百四十九条 公訴は、検察官の指定した被告人以外の者にその効力を及ぼさない。
第二百五十条 時効は、人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの(死刑に当たるものを除く。)については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。
一 無期の懲役又は禁錮に当たる罪については三十年
二 長期二十年の懲役又は禁錮に当たる罪については二十年
三 前二号に掲げる罪以外の罪については十年
② 時効は、人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。
一 死刑に当たる罪については二十五年
二 無期の懲役又は禁錮に当たる罪については十五年
三 長期十五年以上の懲役又は禁錮に当たる罪については十年
四 長期十五年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については七年
五 長期十年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については五年
六 長期五年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪については三年
七 拘留又は科料に当たる罪については一年
第二百五十三条 時効は、犯罪行為が終つた時から進行する。
② 共犯の場合には、最終の行為が終つた時から、すべての共犯に対して時効の期間を起算する。
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