貴重品ロッカーでの盗難につき商事寄託の成立と場屋営業者の注意義務違反等を否定して損害賠償請求を棄却した事例
東京高等裁判所判決平成16年12月22日
『平成16年重要判例解説』商法2事件
損害賠償請求控訴、附帯控訴事件
【判示事項】 ゴルフクラブハウス内貴重品ロッカーでの銀行キャッシュカード盗難につき商事寄託の成立と場屋営業者の注意義務違反等を否定して損害賠償請求を棄却した事例
【判決要旨】 一 寄託は、受託者が寄託者のために物の保管をすることを約し、その物を受け取ることによって成立する契約であるが、ゴルフ場に設置された貴重品ロッカーの利用は、ゴルフ場の利用契約を締結した利用客がロッカーを使用した事実があるだけであり、利用客がゴルフ場経営会社に対して保管を申し込み、ゴルフ場経営会社がこれを承諾して利用客から受け取ったものではないから、寄託契約の成立は認められない。
二 ゴルフ場の利用客がクラブハウス内の貴重品ロッカーにキャッシュカードと同一の暗証番号を登録して現金、キャッシュカード等が入った財布を保管したところ、貴重品ロッカー付近にあらかじめ盗撮用カメラを設置していた者がこのカメラで貴重品ロッカーの入力番号を録画して暗証番号を判読し、利用客がゴルフ中に貴重品ロッカーを開扉し、キャッシュカード、現金を盗取し、そのカードを利用して預金を引き出した場合、ゴルフ場経営会社は、利用客との間で寄託契約が認められないから、同契約上の債務不履行責任を負わないし、ゴルフ場経営会社が貴重品ロッカーを設置し、管理する者として、条理上、これを安全に保つ義務を負うものであり、これを怠った場合には、場屋の主人の責任として、あるいは利用客に対する不法行為として損害賠償責任があるし、日常的にロッカーが正常に機能することを確認し、ロッカーの周辺で不審な行動をする者がいないかどうかに注意する義務があり、さらに、具体的に予想される態様の犯罪行為がある状況下においては、これに対応する適切な防止措置を取る義務があるところ、本件においては、ロッカーを一応カウンターないしフロントから見通せる位置に設置したこと、クラブハウスの入口で入場者の人相、風体等から不審者の出入りをチェックしていたこと、ロッカーの扉等につき毎日点検していたこと、ロッカーの番号入力装置のカバー部分には盗難防止のため暗証番号の盗用に注意するよう警告シールを貼付していたこと等の事情を考慮すると、ゴルフ場経営会社は安全保持義務を履行していたものであるから、商法五九四条二項所定の責任、不法行為責任が認められないと解するのが相当である。
【参照条文】 商法593
商法594-1
商法594-2
民法709
【掲載誌】 金融・商事判例1210号9頁