目次
第1章 1、コンビナート公害と共同不法行為の成立要件
2、法的因果関係と疫学の諸方法
3、コンビナートによる大気汚染公害につき立地上および操業上の過失を認めた事例
4、生命、身体という重大な法益侵害と違法性
5、最善の防止措置の法的位置づけ
6、賠償額の定型化
第2章 附近住民が地方公共団体を相手としてなした、大気汚染、水質汚濁のおそれがあるごみ・し尿処理場の建築工事禁止の仮処分申請を認容した第1審判決を支持し、これに対する控訴を棄却した事例
第3章 1、環境権は私人に対する差止請求の根拠となるか(消極)
2、環境影響評価の欠如のみをもって差止請求権が発生するか(消極)
3、火力発電所の建設差止を求める原告は諸々の外形的事実等から受忍限度を超える程度の被害発生をもたらすおそれがあると推認し得る事実の存在を立証するをもって足りる
4、火力発電所およびこれに伴うパイプラインの建設により環境基準を超える大気汚染、温排水被害、農業被害の発生のおそれが否定された事例
5、市と電力会社との間で締結された公害防止協定につき、住民の債権者代位権または第三者のためにする契約に基づく差止請求が否定された事例
第4章 付近住民からなされたごみ焼却炉稼働差止仮処分申請が認容されなかった事例
第5章 付近住民らの健康上の被害を理由として、新築店舗用ビルの住民居住地に隣接する側に設置された駐車場出入口の使用差止めを求めた仮処分申請に対し、ビル建築者は、技術的・経済的に可能な限り被害回避のため最大限の努力を尽くすべきであり、本件の場合、被害回避が可能である、として認容された事例
第6章 1、電力会社の排煙による大気汚染を理由とした損害賠償請求が認められた事例
2、競合的加害関係にある不法行為者の損害賠償責任につき、損害の公平な分担という不法行為の目的に照らし、信義則を適用して加害者の限定責任を認めた事例
3、電力会社の排煙による大気汚染を理由とした差止請求が否定された事例
第7章 環境アセスメントが不十分であることを理由に、ごみ処理施設の操業差止めを命じた仮処分判決に対し、公益上回復することのできない損害を生ぜしめるおそれがあるとして、右判決の執行停止申立てを認めた事例
第8章 一定の地域の代表として環境権に基づき火力発電所の操業の差止め等を請求する訴えを提起した者に原告適格(行政事件訴訟法9条)がないとされた事例
第9章 1 慣行水利権の存在する水路上にごみ焼却場設置反対の団結小屋を建てた団体に対して水路敷の使用権を有する市がした右団結小屋の収去を求める仮処分申請が認容された事例
2 市のごみ焼却場建設につき、付近住民からの差止めを求める仮処分申請が却下された事例
第10章 二酸化窒素に係る環境基準を改定する告示は、抗告訴訟の対象となる行政処分(行政事件訴訟法3条2項)にあたらない(二酸化窒素(NO2)環境基準告示取消訴訟控訴審判決)
第11章 1、大気汚染物質排出行為の差止めを求める請求が不適法であるとされた事例
2、製鉄所の大気汚染物質排出行為と周辺住民の健康被害との間に法的因果関係があったとされた事例
3、公害健康被害補償法による補償給付が民事責任上の損害の填補に当たるとされた事例
4、製鉄所の操業継続に基づく侵害行為が連続した一個の不法行為に当たるとして消滅時効か成立しないとされた事例
第12章 1、人格権および環境権に基づく道路管理者(国・公団)および企業に対する二酸化硫黄、二酸化窒素、浮遊粒子状物質の排出差止請求が、被告らの履行すべき義務の内容が一義的に特定されているといえないとして却下された事例
2、都市型複合大気汚染による健康被害について、阪神工業地帯に立地し、必ずしも主要汚染源性の認められない被告企業に損害賠償責任を認めた事例
3、右の汚染パターンを、南西系の風の下で発生する南西型汚染と北東系の風の下で発生する北東型汚染に大別し、南西型と北東型の汚染が相まって原告らの疾病罹患に寄与したとして、南西型の汚染源となった被告企業について昭和44年以前の各企業の排出行為につき弱い関連共同性ありとして加害者不明の共同不法行為の成立を認め、南西型汚染の寄与度(二分の一)の限度で責任を認め、昭和45年以後は環境問題について関連の認識義務による強い関連共同性ありとして狭義の共同不法行為の成立を認め、企業10社合計の寄与度の限度で責任を認めた事例
4、都市型複合大気汚染による健康被害について、二酸化窒素と健康被害との因果関係が必ずしも明確に認められないとして道路管理者(国・公団)の損害賠償責任を否定した事例
5、公害による包括慰謝料を認容した事例
第13章 一 複合大気汚染による健康被害について、被告企業らの排出した大気汚染物質(二酸化硫黄)の到達の寄与割合をもって原告らの疾病の発症等に対する寄与割合として、被告企業らに損害賠償責任を認めた事例
二 複合大気汚染による健康被害について、二酸化窒素と健康被害との因果関係を必ずしも明確に認めることができないとした事例
三1 本件地域に立地・操業する被告企業間において、被告企業らの排出行為等について、昭和40年代前半頃までは民法719条1項後段の共同不法行為、昭和40年代後半以降は同項前段の共同不法行為の成立をそれぞれ認めた事例
2 被告企業らの大気汚染物質の排出行為と道路からの大気汚染物質の排出との間に共同不法行為の成立を否定した事例
四 被告企業らの操業および道路の供用による大気汚染物質の排出差止請求について、請求の趣旨の実現につきその成否を判断することが事実上困難であるとともに、その趣旨の実現のための方法または態様が特定されていないとして訴えを却下した事例
第14章 1 コンビナートの事業所から排出される二酸化硫黄等の大気汚染物質によって住民が慢性気管支炎にかかったとする損害賠償請求が認容された事例
2 大気汚染による包括的損害賠償請求について被害者が公害健康被害の補償等に関する法律に基づき給付された保補償金を損害額から控除すべきであるとされた事例
3 大気汚染物質について一定の割合を超えて排出の差止めを訴えが不適法であるとされた事例
第15章 1 工事排煙と自動車排出ガス等による都市型複合大気汚染下における健康被害について、それらの排出する大気汚染物質が相加的に健康に悪影響を及ぼしていたとして、自動車排出ガスに含まれる二酸化窒素の病因性を認めた事例
2 汚染物質が入り交じって患者の健康を侵害している場合には、各排出源が主要汚染源でなくても共同不法行為規定を類推適用するのが相当であるが、各排出源の間に強い共同関係がない場合は、その責任は自己の排出の寄与割合に限定されるとして、道路管理者に対し、沿道住民の健康被害につき、寄与割合に相当する部分に限定した損害賠償を認めた事例
3 道路沿道住民について、抽象的差止の可能性を認め、当事者適格を肯定したうえで、現状の大気汚染の程度や道路の公共性から差止の必要性を否定した事例
第16章 一般国道等の道路の周辺住民からその供用に伴う自動車騒音等により被害を受けているとして右道路の供用の差止めが請求された場合につき右請求を認容すべき違法性があるとはいえないとされた事例
第17章 1 国道等の供用による大気汚染被害について道路設置管理の瑕疵を理由とする損害賠償請求が認容された事例
2 国道等の供用による大気汚染物質等の排出差止請求が適法であるが、理由がないとして棄却された事例
第18章 一般国道(北勢バイパス)の建設予定地に隣接して居住する住民らが、道路の建設・供用に伴って発生する大気汚染および騒音により、受忍限度を超える健康被害が生ずるおそれがあるとして、国に道路建設・供用の事前差止を求めたのに対し、当該道路の建設・供用には高度の公益上の必要性・公共性が認められるとともに、道路の供用に伴って発生する大気汚染および騒音によって住民らに健康被害が生じる具体的な危険性はないとして住民らの求めた差止請求が棄却された事例
第19章 1 主に自動車排出ガスによって形成された尼崎市内の国道43号線沿道50メートル以内の大気汚染と気管支喘息の発症および増悪との間の因果関係が肯定された事例
2 尼崎市内の国道43号線沿道の大気汚染による住民の健康被害(気管支喘息および喘息性気管支炎症状)について、国道43号線および阪神高速道路(大阪西宮線)の道路管理者2名の共同不法行為責任が肯定され、50名の患者につき総額2億1183万8400円の損害の賠償が命ぜられた事例(ただし、道路管理者と近隣工場の経営者との間の共同不法行為責任は否定)
3 一定レベル以上の大気汚染を形成してはならないとの趣旨の不作為命令を求める差止めの訴えが適法とされた事例
4 右不作為命令の請求が、国道43号線沿道50メートル以内に居住する気管支喘息患者の居住地で1日平均値0・15mg/立方メートル以上の浮遊粒子状物質が測定される大気汚染を形成してはならないとの限度で認容された事例
5 尼崎市の大気汚染レベルの二酸化窒素と公健法(公害健康被害の補償等に関する法律)所定の指定疾病(慢性気管支炎、肺気腫、気管支喘息および喘息性気管支炎)の発症および増悪との間の因果関係が認められないとされた事例
6 公健法の認定を受けた時点から民法724条の短期消滅時効の援用が進行するという被告らの主張が排斥された事例
第20章 1 本件地域に立地、操業する被告会社の工場等からの硫黄酸化物等の大気汚染物質の排出と住民の呼吸器疾患との因果関係を認め、被告会社に対する損害賠償請求が認容された事例
2 国道23号線から排出される浮遊粒子状物質による沿道汚染と沿道住民の気管支喘息との因果関係を認め、被告国に対する損害賠償請求が認容された事例
3 前項の因果関係の基づき、被告国に対し被告国が国道23号線を自動車の走行の用に供することにより、浮遊粒子状物質の濃度が所定の濃度を超える汚染となる排出をしてはならない旨を命じた事例
第21章 1 東京都23区全域の大気汚染と健康被害(気管支ぜん息、慢性気管支炎および肺気腫並びにこれらの続発性)の発症および増悪との間の因果関係が否定された事例
2 当該道路の昼間12時間の自動車交通量が4万台を越え、大型車の混入率が相当高い幹線道路の沿道50メートル以内に居住している者につき、自動車排出ガスと気管支ぜん息の発症またはその症状の増悪との間の因果関係の存在が認められるとした事例
3 大気汚染物質の排出差止請求について一定の数値を超える汚染濃度に一定期間曝露した場合は、高度の蓋然性をもって気管支ぜん息の発症、増悪等の健康被害が発生するとの信頼すべき知見はないとして差止請求を棄却した事例
第22章 圏央道の建設工事(八王子市内)が、周辺住民の健康被害をもたらし、自然生態系や歴史的文化的自然景観を破壊し、住民らの所有権等を侵害するおそれがあるなどを主張し、工事の差止めなどを求めた事案の控訴審
第23章 1 国が土壌汚染対策法の制定および施行に当たり、同法施行前に土地を取得した汚染原因者でない所有者の措置義務を免責する経過措置を定めなかったこと、自己資本3億円以上の法人に対する助成措置を定めなかったことが、国家賠償法1条1項の適用上違法とはいえないとされた事例
2 フッ素に汚染されていたことを知らずに土地を購入した者が土壌汚染の除去のため多額の費用を負担することになったことを理由とする憲法29条3項に基づく国に対する損失補償請求が認められないとされた事例
3 フッ素に汚染されていたことを知らずに土地を購入した者が国に対して求めた水質汚濁防止法または大気汚染防止法に係る規制権限不行使を理由とする国家賠償請求が認められないとされた事例
4 フッ素に汚染されていたことを知らずに土地を購入した者が県および市に対して求めた規制権限不行使を理由とする国家賠償請求が認められないとされた事例
第24章 我が国に住所を有する個人等およびツバルに住所を有する個人らが電力会社を被申請人として公害紛争処理法26条1項の規定に基づいてした二酸化炭素排出量の削減を求める調停の申請について、公害等調整委員会が、同項所定の「公害に係る被害について、損害賠償に関する紛争その他の民事上の紛争が生じた場合」に当たらない不適法なものであり、かつ、その欠陥は補正することはできないとしてこれらを却下する旨の決定をしたことが適法であるとされた事例
第25章 石綿(アスベスト)
第1節 労働大臣が石綿製品の製造等を行う工場または作業場における石綿関連疾患の発生防止のために労働基準法(昭和47年法律第57号による改正前のもの)に基づく省令制定権限を行使しなかったことが国家賠償法1条1項の適用上違法であるとされた事例
第2節 1審被告Y社の工場付近に勤務ないし居住していた亡Aの相続人の1審原告X1および亡Bの相続人の1審原告X2らが、石綿粉じんに曝露して死亡し、Y社および国に賠償を求め、原審が、X1のY社に対する請求の・一部のみ認容したのに対し、X1およびY社が控訴した事案。なお、X1は、請求を拡張した。控訴審は、亡Aについては、勤務先でY社工場から飛散した石綿粉じんにより中皮腫を発症したと認められるが、亡Bについては、居住地が本件工場からは離れており高リスク範囲に属せず、本件工場からの石綿粉じんによる中皮腫の発症とは認められないとし、国の責任も否定して、X1の拡張請求の・一部を認容したほか、原判決を相当として控訴を棄却した事例