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2023年07月01日
バーンズ・コレクション展事件・新聞への絵画の掲載について、引用による利用及び時事の事件報道のための利用の抗弁の成否が判断された事例

バーンズ・コレクション展事件・新聞への絵画の掲載について、引用による利用及び時事の事件報道のための利用の抗弁の成否が判断された事例

 

 

著作権侵害差止等請求事件

【事件番号】      東京地方裁判所判決/平成6年(ワ)第18591号

【判決日付】      平成10年2月20日

【判示事項】      1 新聞への絵画の掲載について、引用による利用及び時事の事件報道のための利用の抗弁の成否が判断された事例

             2 美術展覧会の入場券・割引引換券への絵画の掲載について、引用による利用の抗弁が認められなかった事例

             3 書籍への絵画の掲載について、小冊子の抗弁が認められなかった事例

【参照条文】      著作権法32

             著作権法41

             著作権法47

【掲載誌】        知的財産権関係民事・行政裁判例集30巻1号33頁

             判例タイムズ974号204頁

             判例時報1643号176頁

 

 

著作権法

(引用)

第三十二条 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

2 国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が一般に周知させることを目的として作成し、その著作の名義の下に公表する広報資料、調査統計資料、報告書その他これらに類する著作物は、説明の材料として新聞紙、雑誌その他の刊行物に転載することができる。ただし、これを禁止する旨の表示がある場合は、この限りでない。

 

(時事の事件の報道のための利用)

第四十一条 写真、映画、放送その他の方法によつて時事の事件を報道する場合には、当該事件を構成し、又は当該事件の過程において見られ、若しくは聞かれる著作物は、報道の目的上正当な範囲内において、複製し、及び当該事件の報道に伴つて利用することができる。

 

(美術の著作物等の展示に伴う複製等)

第四十七条 美術の著作物又は写真の著作物の原作品により、第二十五条に規定する権利を害することなく、これらの著作物を公に展示する者(以下この条において「原作品展示者」という。)は、観覧者のためにこれらの展示する著作物(以下この条及び第四十七条の六第二項第一号において「展示著作物」という。)の解説若しくは紹介をすることを目的とする小冊子に当該展示著作物を掲載し、又は次項の規定により当該展示著作物を上映し、若しくは当該展示著作物について自動公衆送信(送信可能化を含む。同項及び同号において同じ。)を行うために必要と認められる限度において、当該展示著作物を複製することができる。ただし、当該展示著作物の種類及び用途並びに当該複製の部数及び態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

2 原作品展示者は、観覧者のために展示著作物の解説又は紹介をすることを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、当該展示著作物を上映し、又は当該展示著作物について自動公衆送信を行うことができる。ただし、当該展示著作物の種類及び用途並びに当該上映又は自動公衆送信の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

3 原作品展示者及びこれに準ずる者として政令で定めるものは、展示著作物の所在に関する情報を公衆に提供するために必要と認められる限度において、当該展示著作物について複製し、又は公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行うことができる。ただし、当該展示著作物の種類及び用途並びに当該複製又は公衆送信の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

 

 

 

 

       主   文

 

 一 被告は、別紙第二目録記載の書籍を印刷、製本及び頒布してはならない。

 二 被告は、その所有する別紙第一目録記載の絵画を撮影したフィルム、右絵画の印刷用原版及び別紙第二目録記載の書籍を廃棄せよ。

 三 被告は、原告に対し、金一〇〇九万円及びこれに対する平成六年一〇月一五日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

 四 原告のその余の請求を棄却する。

 五 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

 六 この判決は、原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

 

       事   実

 

 第一 当事者の求めた裁判

 一 請求の趣旨

 1 主文第一項、第二項同旨

 2 被告は、原告に対し、金二一四六万三五二〇円及びこれに対する平成六年一〇月一五日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

 3 訴訟費用は被告の負担とする。

 4 仮執行宣言

 二 請求の趣旨に対する答弁

 1 原告の請求をいずれも棄却する。

 2 訴訟費用は原告の負担とする。

 第二 当事者の主張

 一 請求原因

 1 原告の権限

 (一) スペイン人の画家【A】(以下単に「【A】」ともいう。)は、別紙第一目録記載の絵画(以下、同目録記載の絵画すべてをあわせて「本件絵画」といい、同目録一ないし七記載の個々の絵画を「本件絵画一ないし七」という。)を、同目録の制作年欄記載の年に著作した。

 (二) 【A】が一九七三年四月八日に死亡したことにより、同人の子である原告、【B】、【C】及び【D】が、本件絵画の著作権を相続し、【D】が一九七五年六月五日死亡したことにより、同人の子である【E】及び【F】が、【D】が有していた本件絵画の著作権を相続した。

 (三) 原告と右四名は、【A】の本件絵画の著作権を不分割共同所有し、その収益は各人に等しく分配されるところ、原告は、右不分割所有者の管理者として、フランス民法一八七三ー六条の規定に従い不分割共同所有者を代表する権限を有する。

 2 被告の行為

 (一) 被告は、平成六年一月二二日から同年四月三日まで、国立西洋美術館において、「バーンズ・コレクション展」(以下「本件展覧会」という。)を国立西洋美術館と共同で主催した。

 (二) 被告は、本件展覧会の開催にともない、本件絵画を複製掲載した別紙第二目録記載の書籍(以下「本件書籍」という。)を製作し、定価二〇〇〇円で、少なくとも五〇万部販売した。

 (三) 被告は、本件絵画三を、本件展覧会の入場券及び割引引換券に複製掲載した。

 (四) 被告は、本件絵画二を平成五年一一月五日付け讀賣新聞に、本件絵画三を平成四年一二月二日付け、平成五年一一月三日付け及び平成六年一月二二日付け各同新聞に、本件絵画四を平成六年一月一日付け同新聞に、それぞれ複製掲載した。

 (五) 被告は、プリントをキャンバスに貼りつけ表面加工をし額装を施した本件絵画三の複製画(以下「本件複製画」という。)を製作し、定価一五万円のものについて五点、定価四万五〇〇〇円のものについて一五点販売した。

 3 原告の損害

 (一) 原告は、前記2(二)の行為により、その売上代金総額一〇億円に通常の使用料率である一〇パーセントを乗じた額に、本件書籍中に本件絵画の占める割合である八〇分の七(八〇は、本件書籍に複製掲載された絵画の総数、七は、本件絵画の複製画の数)を乗じた金額である通常使用料相当額八七五万円の損害を被った。

 フランスにおいては、カタログに絵画を複製掲載する場合、書籍と同率の著作権使用料率である定価の一〇パーセントが徴されるから、本件でもこれに従うべきである。

 (二) 原告は、前記2(三)及び(四)の行為により、本件展覧会の入場料総額の一パーセントに相当する損害を被ったというべきところ、本件展覧会の入場者総数は一〇七万一三五二人であり、入場料は一般一五〇〇円、高校生、大学生が一一〇〇円、小学生、中学生が五〇〇円であり、割引入場券により入場した人は一〇〇〇円に割引されたことを考慮すると、平均入場料は一〇〇〇円が相当であり、入場料総額は一〇億七一三五万二〇〇〇円を下らないから、原告が右被告の行為により被った損害額は一〇七一万三五二〇円である。

 本件作品は、本件展覧会の宣伝のみならず、被告の記念事業としての宣伝にも使用されたものである。また、バーンズコレクションは印象派画家の作品コレクションであるのに、被告が印象派でない【A】の作品を広告宣伝に利用したことは、【A】の作品が本件展覧会のいわば看板作品であったことを示す。このような場合の通常使用料は、少なくとも入場料収入の一パーセント相当額である。

 (三) 原告は、前記2(五)の行為により二〇〇万円を下らない損害を被った。

 このような行為は極めて悪質であり、贋作の作成販売と同視すべきであるところ、かかる場合には通常二〇〇万円を損害金として徴する。また、【A】が本件絵画を制作するのに要する知的労力や費用を金銭的に評価したものである本件絵画の値段を損害と考えるべきであるから、これが二〇〇万円を超えるのは明らかである。

 4 結論

 よっては、原告は、被告に対し、本件絵画の著作権(複製権)に基づき、本件書籍の印刷、製本及び頒布の禁止、本件絵画の撮影フィルムと印刷用原版、及び本件書籍の廃棄、並びに損害賠償として金二一四六万三五二〇円及びこれに対する不法行為後である平成六年一〇月一五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

 二 請求原因に対する認否

 1 請求原因1の事実は知らない。

 2 同2の(一)の事実は認める。

 同2の(二)の事実のうち、被告が本件展覧会の開催にともない、本件書籍を製作、販売したことは認めるが、その余は否認する。本件書籍の実販売部数は約四七万六〇〇〇部であり、販売総額は約九億五〇〇〇万円である。

 同2の(三)ないし(五)の事実は認める。

 3 同3は全て争う。同3の(二)のうち、有料入場者数は、約九五万人である。

 本件書籍は、通常の書籍と異なり、発売期間は展示期間だけであり、発売場所も展示場に限られるから、経費を回収し利益を上げることが困難である。

 日本において海外の画家の著作権保護に当たっている美術著作権協会がカタログへの絵画収録について定める算定方式では、対価は、カタログの定価や発行部数に無関係である。この算定方式は、美術著作権協会で一般的に適用しているものであり、一般のカタログ発行者もこれにしたがっているものと推察され、事実たる慣習になっている。したがって、本件でもこの算定方式によるべきであり、その額は一七万八五〇〇円を超えない。

 本件複製画については、被告は、本件展覧会場で販売する数十点の商品に【A】の絵画を複製することについて、美術著作権協会を通じて著作権者から許諾を得たものであり、本件複製画についてもこの一環として許諾を得たと考えたが、問題があり得るとの指摘を受けて、本件展覧会開始後すぐにその製造販売を中止した。製造、販売数量は二〇枚に過ぎない。このような場合の損害額が二〇〇万円に上ることはあり得ない。

 三 抗弁

(後略)

 

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