就業規則の書き写しはパワーハラスメント事案~JR東日本(本荘保線区)事件
テーマ:労働法
最高裁判所第2小法廷判決平成8年2月23日
JR東日本(本荘保線区)事件
損害賠償請求上告事件
【判示事項】 国労マーク入りのベルトを着用して就労した組合員に対し、会社が就業規則の書き写し等を命じたことが労働者の人格権を侵害し、教育訓練に関する業務命令権の裁量の範囲を逸脱する違法なものとして会社側に損害賠償を命じた原審に違法はないとして上告が棄却された例
【判決要旨】 1、東日本旅客鉄道株式会社の保線支区施設係である国鉄労働組合員が駅構内での作業中にバックル部分に同組合の記章がちょう付されているベルトを着用したことにつき,同社の就業規則には会社の認めるもの以外の腕章,胸章等の着用を禁止する旨の定めがあるが,当該規定は旅客に不快感を与えたり,職場規律の弛緩から事故の発生を招来することなどを防止するために社員の服装を規律することを目的としているものと解するのが相当であるところ,前記ベルトは記章の点を捨象するとその形状,意匠及び材質等が一般人に嫌悪感,不快感を与えたり作業に支障を生ずる欠陥はなく,また,その記章があることから組合的色彩を帯びたものであることは否定できないものの,同人は旅客に接する機会が少ないためベルトの着用により旅客の違和感,不快感を招来するおそれも少ないなど当該ベルト着用行為を禁止する合理的理由が認められないとして,前記ベルト着用は前記就業規則の規定に違反しないとした事例
2、東日本旅客鉄道株式会社の保線支区施設係である国鉄労働組合員が駅構内での作業中バックル部分に同組合の記章がちょう付されているベルトを着用したことにつき,当該ベルトは,いわゆる「国労グッズ」として販売されているものではあるが,その購入,着用は個々の組合員の判断に任されており,組合が着用指令を発していたわけではないから,前記着用行為は組合活動と認められないので就業時間中の組合活動を禁止する就業規則の規定に違反するとはいえないし,仮に,それが組合活動に当たると解するとしても当該規定違反の程度は極めて軽微であるとした事例
3、東日本旅客鉄道株式会社の保線支区施設係である国鉄労働組合員が駅構内での作業中バックル部分に同組合の記章がちょう付されているベルトを着用したことにつき,前記ベルトは形状,意匠及び着用部位等の点から外部に組合員の団結等を目的とするその着用の意図を訴える作用が強いとはいえず,着用により業務に具体的支障を生じ,あるいはそのおそれを生じさせたなどとも認められないから,その着用行為は同社の就業規則の職務専念義務に関する規定に違反する実質的違法性がなく,仮に,当該行為が前記義務に違反すると解するとしても違法性が強度であるとは認められないとした事例
4、東日本旅客鉄道株式会社の保線区長が,保線支区施設係である国鉄労働組合員に対し,作業中組合の記章がちょう付されているベルトを着用したことが就業規則の規定に違反するとして就業規則の全文書き写しを内容とする教育訓練を命じた場合につき,当該教育訓練は就業規則に違反しないか,違反するとしてもその程度は極めて軽微な前記ベルト着用行為を理由として,見せしめを兼ねた懲罰的目的からされたものと推認せざるを得ず,その具体的態様においても,前記組合員に精神的,肉体的苦痛を与えるのみで教育的意義が認められないものであり,同人の人格権を違法に侵害するものとして不法行為を構成するとした事例
【掲載誌】 労働判例690号12頁
労働経済判例速報1603号10頁