新型コロナウイルス感染拡大による売上減少に対応する休業中の休業手当請求の可否
賃金請求事件
【事件番号】 東京地方裁判所判決/令和3年(ワ)第3129号
【判決日付】 令和3年11月29日
【判示事項】 1 ホテルの客室清掃係であった原告Xの所定始業時刻より前に行っていた準備作業時間および労働契約上の休憩時間のそれぞれにつき,実質的には労働時間であったとして,これらに関する未払賃金と遅延損害金および付加金の請求が認められるとともに,新型コロナウイルス感染拡大による売上減少に伴う所定労働時間の減少や休業につき,労働契約の変更に関する合意はないことから,休業等は被告Y社からの一方的な休業命令であって,この休業命令は労基法26条の「使用者の責めに帰すべき事由」に当たるため,支払われた休業手当に不足があるとして不足分の未払賃金と遅延損害金および付加金の請求が認められた例
2 Xが所定始業時刻前に行っていた準備作業は業務遂行そのものであり,その作業がタイムカードの打刻後にY社の管理が及ぶ店舗内で行われ,すべての出勤日で行われ続けていたことなどからすれば,準備作業はY社の包括的で黙示的な指示によって行われていたものであるから,所定始業時刻前の準備作業の時間は労働時間であるとされた例
3 Xは,所定労働時間内においては,実作業に従事していない時間であっても,状況に応じて業務に取り掛からなければならない可能性がある状態に置かれていたというべきであり,常に控室への在室を余儀なくされていたものであるから,労働からの解放が保障されていたとはいえず,所定労働時間内はすべて労基法上の労働時間に当たるとされた例
4 新型コロナウイルスの感染拡大を契機とした所定労働時間の減少や休業につき,労働契約の変更に関する個別の合意や就業規則の変更は存在しないから,これらはY社がXに休業を命じたものと解すべきであるところ,Y社は毎月変動する売上げの状況やその予測を踏まえつつ従業員の勤務日数や勤務時間数を調整しており,これは使用者がその裁量をもった判断により従業員に休業を行わせていたものにほかならないから,本件休業は不可抗力ではなくY社側に起因する経営・管理上の障害によるものと評価すべきであり,本件休業はY社の「責めに帰すべき事由」によるものであるとされた例
【掲載誌】 労働判例1263号5頁
労働基準法
(休業手当)
第二十六条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。