労働者にアルミ鋳造機(ダイカストマシン)を使用させていた被告会社に,同機械に安全扉を設置する義務があるか否かが争われた事案において,労働安全衛生規則147条1項の「労働者が身体の一部を挟まれるおそれ」の解釈によれば,事業者が労働者に対し機械の可動部に近づかないよう指導していた場合であっても,同規則による設置義務が認められる旨判示した事例
東京高等裁判所判決/平成27年(う)第1998号
平成28年11月8日
労働安全衛生法違反被告事件
【判示事項】 労働者にアルミ鋳造機(ダイカストマシン)を使用させていた被告会社に,同機械に安全扉を設置する義務があるか否かが争われた事案において,労働安全衛生規則147条1項の「労働者が身体の一部を挟まれるおそれ」の解釈によれば,事業者が労働者に対し機械の可動部に近づかないよう指導していた場合であっても,同規則による設置義務が認められる旨判示した事例
【判決要旨】 労働安全衛生規則147条1項の「労働者が身体の一部を挟まれるおそれ」とは,労働者が,作業の過程において,射出成形機等の機械の可動部に近づき,過失の有無を問わず,その身体の一部を挟まれるおそれがある場合をいうものと解するのが相当である。同条項が設けられた趣旨からすると,労働者が作業中に機械の可動部に近づくことがおよそ想定し難い場合にまで安全装置の設置を義務付けるものとは考えられないが,労働者が何らかの事情により近づくことが想定される場合には,労働者の過失の有無を問わず,労働者の身体の安全を図ろうという趣旨のものである。
原判決は,同条項は,労働者が機械に身体の一部を挟まれるおそれを回避する方法として,複数の選択肢を掲げていて安全扉の設置のみを義務付けたものではなく,本件機械の設置状況,安全指導教育の状況,労働者の作業状況,労働基準監督署による指導状況を総合考慮すると,被告会社に作為義務があったとは認められない旨説示する。しかし,規則147条は,人間の注意力には限界があることから,機械設備による安全装置を設置し,機械を停止することによって事故を未然に防止しようとする趣旨の規定であり,同条1項にいう「その他の安全装置」とは,光線式安全装置やゲート式安全装置等の機械設備による安全装置を意味するものであるから,被告会社に作為義務があったことは文言上明らかである。
【参照条文】 労働安全衛生法122
労働安全衛生法119
労働安全衛生法20-1
平成25年厚生労働省令第58号による改正前の労働安全衛生規則147-1
平成25年厚生労働省令第58号による改正前の労働安全衛生規則147-2
【掲載誌】 高等裁判所刑事裁判速報集平成28年151頁