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2023年09月20日
民法(債権法)の平成29年改正その2 第3章 消滅時効の見直し

民法(債権法)の平成29年改正その2 第3章 消滅時効の見直し

テーマ:民法改正
第3章 消滅時効の見直し

第1節 要約

-重要な実質改正事項-

約120年間の社会経済の変化への対応(実質的なルールの改正)

① 職業別の短期消滅時効の見直し

時効期間と起算点の見直し(シンプルに統一化)

② 生命・身体の侵害による損害賠償請求権の時効期間を長期化する特則の新設

不法行為債権に関する長期20年の期間制限を除斥期間とする解釈(判例)の見直し

③ その他、時効の完成を阻止するための手段(時効の中断・停止)の見直しなど

消滅時効に関する見直し

「消滅時効」とは、法律的な権利を持つものが一定期間のうちにその権利を行使しないことによってその権利が消滅する制度をいいます。

対義語として、取得時効があります。

(意義)

・ 長期間の経過により証拠が散逸し、自己に有利な事実関係の証明が困難となった者を救済し、法律関係の安定を図る。

・ 権利の上に眠る者は保護しない。

検討課題

〈例〉

債権者Aは、平成27年4月1日、債務者Bに対して、平成10年に貸した1000万円の返済を求めた。

債務者Bは、平成15年頃までに1000万円を分割返済したことから、その領収証等を捨ててしまっている。

第2節 職業別短期消滅時効の廃止

1 職業別短期消滅時効の廃止の必要性

・ 職業別の短期消滅時効(旧法§ 170~174)は、 ある債権にどの時効期間が適用されるのか、 複雑で分かりにくい

・ 1~3年という区別も合理性に乏しい

(母法国のフランスでも2008年に廃止)

2 時効期間の統一化に当たって

・ 時効期間の大幅な長期化を避ける必要

・ 単純な短期化では、権利を行使できることを全く知らないまま時効期間が経過してしまうおそれ

旧法

職業別の短期消滅時効の例

債権の種類 時効期間

医師の診療報酬 3年

弁護士の報酬 2年

飲食代金 1年

動産のレンタル代金 1年

商取引債権 5年

改正法

原則 5年

改正法

① 時効期間と起算点に関する見直し

② シンプルに統一化

問題の所在

改正法の内容

・ 職業別の短期消滅時効はすべて廃止

・ 商事時効(5年)も廃止

・ 権利を行使することができる時から10年という時効期間は維持しつつ、権利を行使することができることを知った時から5年という時効期間を追加【新§166】いずれか早い方の経過によって時効完成

(参考)

異なる起算点からの短期と長期の時効期間を組み合わせる法制は、仏(5年・20年)、独(3年・10年)など多く見られる。

① 時効期間と起算点に関する見直し

【参照条文】

改正民法166条(債権等の消滅時効)

債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。

一 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。

二 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。

2 債権または所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から20年間行使しないときは、時効によって消滅する。

② 権利を行使することができることを知った時と権利を行使することができる時とが基本的に同一時点であるケース

〈例〉 売買代金債権、飲食料債権、宿泊料債権など契約上の債権

権利を行使することができる時

(支払期限到来時)

権利を行使することができることを知った時と権利を行使することができる時とが異なるケース

〈例〉 消費者ローンの過払金(不当利得)返還請求権

(過払金:利息制限法所定の制限利率を超えて利息を支払った結果過払いとなった金銭)

権利を行使することができることを知った時

(支払期限到来時)

(知った時から5年)

権利を行使することができる時

(取引終了時)

過払いであることを知った時

(知った時から5年)

時効期間満了

(知った時から5年)

(権利を行使することができる時から10年)

権利を行使することができる時

(取引終了時)

過払いであることを知った時

時効期間満了

(取引終了時から10年)

(権利を行使することができる時から10年)

(知った時から5年)

ケース①(知った時から5年で時効が完成する場合)

ケース②(権利を行使することができる時から10年で時効が完成する場合)

時効期間満了

(知った時から5年)

(権利を行使することができる時から10年)

旧法(期間制限)

起算点 期間

債務不履行に基づく損害賠償請求権

権利を行使することができる時から 10年

不法行為に基づく損害賠償請求権

知った時から 3年

不法行為の時から 20年

第3節 生命・身体の侵害による損害賠償請求権の時効期間の特則

②生命・身体の侵害による損害賠償請求権の時効期間の特則

不法行為債権に関する長期20年の期間制限の解釈の見直し

問題の所在①(生命・身体の侵害による損害賠償請求権の時効期間)

・ 生命・身体は重要な法益であり、 これに関する債権は保護の必要性が高い。

・ 治療が長期間にわたるなどの事情により、被害者にとって迅速な権利行使が困難な場合がある。

問題の所在②(不法行為債権に関する長期20年の期間制限の意味)

・ 除斥期間と解釈すると、不都合な結論に至ることがあり得る。

〈例〉 加害者は、被害者を殺害し、自宅の床下に埋めて死体を隠した。

しかし、被害者の相続人は被害者の死亡を知らず、相続人が確定しないまま20年が経過した。

判例(最判平成21年4月28日)は、この事案については、旧法160条の法意に照らし、被害者の死亡を相続人が知ることができない間は相続人が確定せず、確定後6か月間は除斥期間により権利は消滅しないとした。

→ 当該事案は救済されたが、類似の事案で救済が可能か。そもそも時効が進行し、確定後6か月以内に訴訟提起等が必要になるのも酷ではないか。権利濫用等の主張を許すべきではないか。

損害賠償請求権・・・

不法行為により生じる(①~③)ほか、債務不履行によっても生じる(②・③)。

〈例〉① 交通事故により死亡した(後遺障害が残った)場合の加害者に対する損害賠償請求権

② 炭鉱で安全配慮が不十分な粉じん作業に従事し、じん肺に罹患した労働者の雇用主に対する損害賠償請求権

③ 医師のミスにより患者が死亡した(後遺障害が残った)場合の医療機関・医師に対する損害賠償請求権

20年の期間につき、判例は「除斥期間」と解釈

除斥期間とは、期間の経過により当然に権利が消滅するもの。

時効期間と異なり原則として中断や停止が認められない。

当事者の援用も不要で、除斥期間の主張は権利濫用等に当たる余地がない(最判平成元年12月21日)。

【参照条文(旧法)】

(相続財産に関する時効の停止)

第百六十条 相続財産に関しては、相続人が確定した時、管理人が選任された時または

破産手続開始の決定があった時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。

改正法の内容①

(生命・身体の侵害による損害賠償請求権の時効期間)

・人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権の時効期間について長期化する特則を新設。【新§167、724条の2】

「知った時から5年」(不法行為につき3年から5年に長期化)

「知らなくても20年」(債務不履行につき10年から20年に長期化)

改正法

起算点 時効期間

①債務不履行に基づく損害賠償請求権

権利を行使することができることを知った時から5年

権利を行使することができる時から 10年

②不法行為に基づく損害賠償請求権

損害および加害者を知った時から 3年

不法行為の時から(=権利を行使することができる時から)20年

①・②の特則

生命・身体の侵害による損害賠償請求権

知った時から 5年

権利を行使することができる時から 20年

改正法の内容②

(不法行為債権に関する長期20年の期間制限の意味)

・不法行為債権全般について、不法行為債権に関する長期20年の制限期間が時効期間であることを明記。【新§724】

②生命・身体の侵害による損害賠償請求権の時効期間の特則

不法行為債権に関する長期20年の期間制限の解釈の見直し

【参考条文】

(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)

第724条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。

一 被害者またはその法定代理人が損害および加害者を知った時から3年間行使しないとき。

二 不法行為の時から20年間行使しないとき。

(人の生命または身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)

第724条の2 人の生命または身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「3年間」とあるのは、「5年間」とする。

(人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効)

第167条

人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第1項第2号の規定の適用については、同号中「10年間」とあるのは、「20年間」とする。

第4節 時効の中断・停止の見直し

③時効の中断・停止の見直し-中断・停止概念の整理-

法定の中断事由があったときに、それまでに経過した時効期間がリセットされ、改めてゼロから起算されること。

その事由が終了した時から新たな時効期間が進行する。

承認

(A) 承認の場合【旧法§147③】

〈例〉債権者Aは、債務者Bに対して1000万円貸している。Aが返還を請求したところ、Bは、債務の存在を前提に100万円の一部弁済をした。

(一部弁済) 起算点

時効期間満了

新たに時効が進行(ゼロから起算)

(B) 裁判上の請求の場合【旧法§147①、149】

〈例〉債権者Aは、債務者Bに対して1000万円貸しているが、全く返済してもらえない。AはBに対して1000万円の支払を求めて訴えを提起した。

中断

起算点→ 訴え提起→ 裁判確定

時効の完成が猶予※

中断 新たに時効が進行(ゼロから起算)

※時効の中断とは、時効期間が形式的に経過しても時効が完成したことにならない。

〈例〉 債務者Bが債権者Aに対して債務を「承認」すれば、経過した時効期間がリセットされ、直ちに新たな時効期間が進行する。

債権者Aによる裁判上の請求(訴えの提起など)等があれば、時効期間がリセットされ、裁判の確定等により新たな時効期間が進行する。

③時効の中断・停止の見直し-中断・停止概念の整理-

例えば、債権者Aが債務者Bに対して内容証明郵便等により裁判外で貸付金1000万円の返済を請求した(=催告)場合、時効は中断するが、その後6か月以内にAが訴えの提起等の法的手段をとらなければ、時効中断の効力が生じないことになる。

〈例〉 債権者Aは、債務者Bに対して1000万円貸しているが、貸付けから9年8か月後にBに対して1000万円の支払を求めて訴えを提起した。訴え提起から3か月後、Aは訴えを取り下げることにしたが、訴え取下げ後3か月して、Aは、再度訴えを提起した。

訴え提起があると時効は中断するが、条文上は、訴えの取下げがあると遡って中断しなかったことになる(旧法§ 149)。

もっとも、判例は、訴えが取り下げられた場合でも、それまでの間は催告が継続していたと認め、取下げから6か月については時効の完成が猶予されているものとして扱っている。

③ 時効の中断・停止の見直し-中断・停止概念の整理-

時効の停止とは、時効が完成する際に、権利者が時効の中断をすることに障害がある場合に、その障害が消滅した後一定期間が経過するまでの間時効の完成を猶予するもの。

〈例〉 夫婦の一方が他方に対して有する権利については、婚姻解消から6か月を経過するまで。

債権者または債務者が死亡し、相続人に相続された権利義務については、相続人が確定した時から6か月を経過するまで。

(A) 夫婦間の権利の場合【旧法§159】

被相続人の死亡

※ 相続の場合、相続の開始があったことを知ってから3か月以内に家庭裁判所において相続の放棄の手続がされると相続人とならなかったことになる。そのため、相続の承認がされない場合には、この期間が経過し、放棄がないことが確認されないと相続人は確定しない。

(B) 相続財産の場合【旧法§160】

③時効の中断・停止の見直し-中断・停止概念の整理-

「中断」の制度が複雑(技巧的)で分かりにくいのではないか。

→ 中断の効果としては「完成の猶予」と「新たな時効の進行(時効期間のリセット)」の2つがあるが、それぞれの効果の内容も発生時期も異なることから、新たに2つの概念を用いて分かりやすく整理すべきではないか。

→ 停止についても、中断の見直しと併せて整理をすべきではないか。

裁判上の催告に関する判例法理を明文化すべきではないか。

・ 承認 更新事由【新§152】

・ 裁判上の請求など 完成猶予事由+更新事由【新§147等】

・ 催告など 完成猶予事由【新§150等】

改正法の内容

○ 多岐にわたる中断事由について、各中断事由ごとにその効果に応じて、「時効の完成を猶予する部分」は完成猶予事由と、「新たな時効の進行(時効期間のリセット)の部分」は更新事由と振り分ける。

問題の所在

○ 停止事由については、「完成猶予」事由とする。【新§158~161】

③時効の中断・停止の見直し-中断・停止概念の整理-

③時効の中断・停止の見直し-停止に関する実質的な見直し-

天災等による「停止」の期間が短すぎるのではないか(←障害が消滅してから2週間)【旧法§161】

天災等による時効の完成猶予の期間(障害が消滅した後の猶予期間)を伸長する(旧法の2週間から3か月へ)。

【新§161】

当事者間で権利についての協議を行う旨の合意が書面または電磁的記録によってされた場合には、時効の完成が猶予されることとする (新たな完成猶予事由とする。)。【新§151】

改正法の内容

問題の所在①(天災等による完成猶予期間の伸長)

天災による権利行使の障害の発生

権利を行使することができる時

時効期間満了

(10年)

時効の完成が猶予(旧法)

旧法

2週間

天災による権利行使の障害の消滅

時効の完成猶予(改正法)

改正法

3か月

裁判上の請求等ができない状態

当事者が裁判所を介さずに紛争の解決に向けて協議をし、解決策を模索している場合にも、時効完成の間際になれば、時効の完成を阻止するため、訴訟を提起しなければならない。

→ 紛争解決の柔軟性や当事者の利便性を損なうものであり、新たな完成猶予事由を設けるべきではないか。

問題の所在②(協議による時効完成の猶予)

なお、改正前民法のときに発生した債権が改正法にまたがる場合の消滅時効期間の考え方ですが、これはシンプルに債権の発生した時点(契約がされたとき)が改正法施行日(2020年4月1日)より前か後かで改正法の適用の可否が決まります。

例えば、2019年中に請負契約を締結していた工事が、2020年4月1日以降に完成し、当該工事に関する債権が発生したような場合には、請負契約自体は改正法施行日前に締結されていたため、改正前の時効期間が適用されることになります。

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