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2023年09月22日
民法(債権法)の平成29年改正その4 第5章 保証に関する見直し

第5章 保証に関する見直し

第1節 要約

保証に関する見直し

-重要な実質改正事項-

約120年間の社会経済の変化への対応(実質的なルールの改正)

平成16年民法改正(貸金等債務に関する包括根保証の禁止)

商工ローンの保証などの社会問題化が背景

貸金等債務の根保証をした個人保証人の保護のため、以下の措置を講ずる。

極度額(保証の上限額):極度額の定めのない根保証契約は無効(旧法§465条の2)

元本確定期日(保証期間の制限):保証人が責任を負うのは元本確定期日までの間に行われた貸金等に限定

: 元本確定期日までの期間を原則3年(最長5年)に制限(旧法§465条の3)

元本確定事由(特別事情による保証の終了):

元本確定期日の到来前であっても特別な事情(保証人や主債務者の死亡・破産等)が発生した場合には、その時点で元本確定(それ以前の貸金等に限り責任を負う)(旧法§465条の4)

保証とは、主債務者が債務の支払をしない場合に、これに代わって支払をすべき義務のこと

通常の保証:契約時に特定している債務の保証

(例:住宅ローンの保証)

根 保 証 :将来発生する不特定の債務の保証

(例:継続的な事業用融資の保証)

平成16年民法改正後の二つの課題

① 包括根保証の禁止の対象を拡大することの当否

② 保証人保護のさらなる拡充(第三者保証の法的制限など)

 

  • ・貸金等債務以外の根保証(ex賃貸借や継続売買取引の根保証)についても、想定外の多額の保証債務や、想定していなかった主債務者の相続人の保証債務の履行を求められる事例は少なくない。

→ 例えば、借家が借主の落ち度で焼失し、その損害額が保証人に請求されるケースや、借主の相続人が賃料の支払等をしないケースなど

・包括根保証禁止の既存のルールをすべての契約に拡大すると、例えば、賃貸借契約について、最長でも5年で保証人が存在しなくなるといった事態が生ずるおそれがある。

旧法

   

主債務に含まれる債務

貸金等債務あり

貸金等債務なし

 

 

(賃借人の債務など)

極度額

極度額の定めは必要

極度額の定めは不要

元本確定期日

原則3年(最長5年)

制限なし

(保証期間)

 

 

元本確定事由

破産・死亡などの事情があれば保証は打ち切り

特に定めなし

(特別事情による保証の終了)

 

 

     

改正法

   

主債務に含まれる債務

貸金等債務あり

貸金等債務なし

 

 

(賃借人の債務など)

極度額

極度額の定めは必要

極度額の定めは必要

元本確定期日

原則3年(最長5年)

制限なし

(保証期間)

 

 

元本確定事由

破産・死亡などの事情があれば保証は打ち切り

破産・死亡などの事情(主債務者の破産等を除く。)があれば保証は打ち切り

(特別事情による保証の終了)

 

 

貸金等債務以外とは、たとえば、賃貸借契約や継続的売買取引契約の根保証をいいます。

個人根保証契約とは、法人などではなく個人が保証人となる根保証契約をいいます。

 

なお、貸金等債務以外の場合は④、⑤の事由が生じても打ち切り(元本の確定)にはなりません。

なぜ、貸金等以外の債務については、打ち切り(元本の確定)にはならないのでしょうか?

たとえば、賃貸借契約の賃借人が破産したとしましょう。だからといって、賃貸借契約をすぐに解除することはできないのに、賃借人から賃料が得られないことは目にみえています。このような場合にも、貸主が、保証人に賃料の支払いを求めることができないのは酷だからです。

 

改正法

①極度額の定めの義務付けについては、すべての根保証契約に適用。【新§465条の2】

 

【参照条文】

(個人根保証契約の保証人の責任等)

第465条の2

1 一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であって保証人が法人でないもの(以下「個人根保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものおよびその保証債務について約定された違約金または損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。

2 個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。

3 第446条第2項および第3項の規定は、個人根保証契約における第1項に規定する極度額の定めについて準用する。

 

②保証期間の制限については、旧法維持(賃貸借等の根保証には適用せず)。【新§465条の3】

③特別事情(主債務者の死亡や、保証人の破産・死亡など)がある場合の根保証の打ち切りについては、すべての根保証契約に適用。ただし、主債務者の破産等があっても、賃貸借等の根保証が打ち切りにならない点は、旧法を維持。【新§465条の4】

 

第2節 包括根保証の禁止の対象拡大-個人保証人の保護の拡充-

(1)包括根保証の禁止の対象拡大-個人保証人の保護の拡充-

改正法の内容

保証制度は、特に中小企業向けの融資において、主債務者の信用の補完や、経営の規律付けの観点から重要な役割

一方、個人的な情義等から保証人となった者が、想定外の多額の保証債務の履行を求められ、生活の破綻に追い込まれる事例が後を絶たない。

経営者保証 有用な場合があることは否定できず、民事法による強力な規制は不適当(適用対象外に)。

第三者保証 できる限り抑制すべきであるが、一律禁止は行き過ぎ(厳格な要件の下で許容)。

改正法の内容

事業用融資の第三者個人保証に関して次のような規定を新設。【新§465条の6~465条の9】

事業用融資の保証契約は、公証人があらかじめ保証人本人から直接その保証意思を確認しなければ、 効力を生じない。ただし、このルールは次のものには適用しない。

① 主債務者が法人である場合の理事、取締役、執行役等

  • 主債務者が法人である場合の総株主の議決権の過半数を有する者等
  • 主債務者が個人である場合の共同事業者または主債務者が行う事業に現に従事している主債務者の配偶者

 

(1)極度額の定めのない個人の根保証契約 は無効に

保証契約に関するルールについて,個人(会社などの法人は含まれません) が保証人になる場合の保証人の保護を進めるため,次のような改正をしています。

※一定の範囲に属する不特定の債務を保証する契約を「根保証契約」といいます。例えば,住宅等の賃貸借契約の保証人となる契約などが根保証契約に当たることがあります。

個人が根保証契約を締結する場合には,保証人が支払の責任を負う金額の上限となる「極度額」を定めなければ,保証契約は無効となります。

 

第3節 事業用融資における第三者保証の制限(公証人による意思確認手続の新設)-個人保証人の保護の拡充-

問題の所在

(2)事業用融資における第三者保証の制限(公証人による意思確認手続の新設)

-個人保証人の保護の拡充-

保証人の保護に関する改正

この手続では,保証意思宣明公正証書を作成することになります。これは代理人に依頼することができず,保証人になろうとする者は自ら公証人の面前で保証意思を述べる必要があります。

※次の場合には,意思確認は不要です。

会社や個人である事業主が融資を受ける場合に,その事業に関与していない親戚や友人などの第三者が安易に保証人になってしまい,結果的に,予想もしなかった多額の支払を迫られるという事態が依然として生じています。そこで,個人が事業用融資の保証人になろうとする場合について,公証人による保証意思確認の手続を新設しています。この手続を経ないでした保証契約は無効となります(※)。

公証人による保証意思確認の手続を新設          

①主債務者が法人である場合 その法人の理事,取締役,執行役や,議決権の過半数を有する株主等

②主債務者が個人である場合 主債務者と共同して事業を行っている共同事業者や,主債務者の事業に現に従事している主債務者の配偶者

 

公証人に対する口頭での申述・筆記事項

① 通常の保証契約(根保証契約以外のもの)の場合

1) 主債務の債権者および債務者

2) 主債務の元本と従たる債務(利息,違約金,損害賠償等)についての定めの有無およびその内容

3) 主債務者がその債務を履行しないときには,その債務の全額について履行する意思を有していること。

② 根保証契約の場合

1) 主債務の債権者および債務者

2) 主債務の範囲,根保証契約における極度額,元本確定期日の定めの有無およびその内容

3) 主債務者がその債務を履行しないときには,極度額の限度において元本確定期日または元本確定事由が生ずる時までに生ずべき主債務の元本および従たる債務の全額について履行する意思を有していること。

※ いずれについても,連帯保証の場合には,債権者が主債務者に対して催告をしたかどうか,主債務者がその債務を履行することができるかどうか,または他に保証人があるかどうかにかかわらず,その全額について履行する意思を有していること。

保証意思宣明公正証書の性質

・ 保証契約の契約書(保証契約公正証書)とは別のもの。

・ 保証意思宣明公正証書自体には執行認諾文言を付けることはできない。

 

公証人による保証意思の確認

○ 保証人になろうとする者が保証しようとしている主債務の具体的内容を認識していることや、保証契約を締結すれば保証人は保証債務を負担し、主債務が履行されなければ自らが保証債務を履行しなければならなくなることを理解しているかなどを検証し、 保証契約のリスクを十分に理解した上で、 保証人になろうとする者が相当の考慮をして保証契約を締結しようとしているか否かを見極める。

※ 公証人は、保証意思を確認する際には、保証人が主債務者の財産状況について情報提供義務(新§465条の10⇒次項)に基づいてどのような情報の提供を受けたかも確認し、保証人がその情報も踏まえてリスクを十分に認識しているかを見極める。

保証意思が確認できない場合

保証人の保証意思を確認することができない場合には、公証人は、無効な法律行為等については証書を作成することができないとする公証人法26条に基づき、 公正証書の作成を拒絶しなければならない。

公証人に対する口授・筆記

・ 保証人になろうとする者は,公証人に対し,保証意思を宣明するため,主債務の内容など法定された事項(右欄参照)を口頭で述べ,公証人は,保証人になろうとする者が口頭で述べた内容を筆記し,これを保証人になろうとする者に読み聞かせ,または閲覧させる。

※ 口がきけない者については,通訳人の通訳または自署

・保証人になろうとする者は,公証人が証書に記載した内容が正確なことを承認して署名押印するなどし,公証人は,その証書が法定の方式に従って作ったものである旨を付記して,これに署名押印する。

 

公正証書作成の例外‥配偶者

・ 主債務者が行う事業に現に従事しているとは、文字どおり、保証契約の締結時においてその個人事業主が行う事業に実際に従事しているといえることが必要。単に書類上事業に従事しているとされているだけでは足りず、また、保証

契約の締結に際して一時的に従事したというのでは足りない。

・ 主債務者が法人である場合に、その代表者等の配偶者が例外になるわけではない。

・ 例外となる配偶者は、法律上の配偶者に限られる。

公正証書の作成手続の特徴

・ 代理人による嘱託は不可。

必ず保証人本人が出頭しなければならない。

・ 手数料は、 1通1万1000円を予定

 

(2)事業用融資における第三者保証の制限(公証人による意思確認手続の新設)

-個人保証人の保護の拡充-

「事業のために負担した貸金等債務」の要件

・ 事業性

 「事業」とは,一定の目的をもってされる同種の行為の反復継続的遂行をいい,「事業のために負担した貸金等債務」とは,借主が借り入れた金銭等を自らの事業に用いるために負担した貸金等債務を意味する。

例えば,製造業を営む株式会社が製造用の工場を建設したり,原材料を購入したりするための資金を借り入れることにより負担した貸金債務が「事業のために負担した貸金等債務」の典型例である。このほか,いわゆるアパート・ローンなども「事業のために負担した貸金等債務」に該当するものと考えられる。

他方で,貸与型の奨学金については「事業のために負担した貸金等債務」に該当しないと考えられる。

・ 判断

借主が使途は事業資金であると説明して金銭の借入れを申し入れ,貸主もそのことを前提として金銭を貸し付けた場合には,実際にその金銭が事業に用いられたかどうかにかかわらず,その債務は事業のために負担した貸金等債務に該当する。

※ 借入時において,借主と貸主との間で,例えば,その使途を居住用住宅の購入費用としていた場合には,仮に借主が金銭受領後にそれを「事業のために」用いてしまったとしても,そのことによって「事業のために負担した」債務に変容

するものではない。

 

問題の所在

保証人になるに当たって、主債務者の財産状況等(保証のリスク)を十分に把握していない事例が少なくない。

旧法では、主債務者は、自らの財産状況等を保証人に説明する義務を負っていない。

債権者も、主債務者の財産状況等を保証人に伝える義務を負っていない。

改正法の内容

主債務者による保証人への情報提供義務の規定を新設

【新§465条の10】

1 対象

個人に対して事業上の債務の保証を委託する場合

(貸金債務の保証に限らない)

2 提供すべき情報

① 財産および収支の状況

② 主債務以外の債務の有無、その債務の額、その債務の履行状況

③ 担保として提供するもの(例えば、ある土地に抵当権を設定するのであれば、その内容)

3 情報提供義務違反の場合の措置

保証人は、保証契約を取り消すことができる。ただし、次の要件を満たすことが必要。

  • 保証人が主債務者の財産状況等について誤認

② 主債務者が情報を提供しなかったこと等を債権者が知り、または知ることができた

 

第4節 保証契約締結時の情報提供義務-個人保証人の保護の拡充-

(3)保証契約締結時の情報提供義務-個人保証人の保護の拡充-

問題の所在

〈例〉

○ 製造業を営むAが、原材料の購入取引で負担する代金債務について、その保証人となることを知人Bに委託する場合

→ 主債務者Aに情報提供義務

○ この場合に、例えば、Aが誤った情報の提供(借地上に工場を建てていたのに、自己所有地と伝えるなど)をしたとき

→ 左記3①②の要件を満たせば、保証人Bに取消権

保証人の負担額は、主債務者が支払を遅滞した後に発生する遅延損害金によって大きくふくらむ。特に、主債務者が分割金の支払を遅滞して期限の利益を喪失し、一括払を求められるケースにおいて顕著。

主債務者が支払を遅滞し、期限の利益を喪失したことを保証人が知っていれば、早期に立替払をして遅延損害金が発生することを防ぐなどの対策を取ることも可能。しかし、保証人は、主債務者が支払を遅滞したことを当然には知らない。

 

改正法の内容

期限の利益喪失に関して債権者の保証人に対する情報提供義務の規定を新設【新§458条の3】

1 対象

保証人が個人である保証一般

2 情報提供義務の内容

主債務者が期限の利益を喪失したときは、債権者は、保証人に対し、その喪失を知った時から2か月以内に、その旨を通知しなければならない。

3 義務違反の場合の措置

2か月以内に通知をしなかったときは、債権者は、期限の利益を喪失した時からその後に通知を現にするまでに生じた遅延損害金については、保証債務の履行を請求することができない(主債務者は支払義務を負う。)。

 

第5節 主債務者が期限の利益を喪失した場合の情報提供義務-個人保証人の保護の拡充-

(4)主債務者が期限の利益を喪失した場合の情報提供義務-個人保証人の保護の拡充-

※1 期限の利益とは、分割払の約定がされ、弁済が猶予される結果、期限が到来しないことによって債務者が受ける利益をいう。

※2 期限の利益の喪失とは、主債務者が分割払の支払を怠り、特約に基づいて、保証人が一括払の義務を負うことなどをいう。

〈例〉

支払を1回でも怠れば直ちに一括払の義務を負うとの特約が付いている分割払の貸金債務について、保証がされたが、主債務者が分割払の支払を怠り、一括払の義務を負った場合

→ 保証人に通知義務

この場合に、例えば、債権者が2か月以内に通知せず、3か月後に通知をした場合

→ 一括払い前提での3か月分の遅延損害金の請求を保証人にすることはできない

※ 保証人が主債務者の履行状況を知りたいと考えたときに、知ることができる制度も必要

保証人にとって、主債務の履行状況は重要な関心事であるが、その情報の提供を求めることができるとの明文の規定はない。

銀行等の債権者としても、保証人からの求めに応じ、主債務者のプライバシーにも関わる情報を提供してよいのかの判断に困り、対応に苦慮。

保証人が個人の場合だけでなく、法人の場合にも上記の問題は発生。

改正法の内容

主債務者の履行状況に関する債権者の情報提供義務に関して次のような規定を新設【新§458条の2】

1 債権者は、保証人から、請求があったときは、主債務の元本、利息および違約金等に関する次の情報を提供しなければならない。

① 不履行の有無(弁済を怠っているかどうか)

② 残額

③ 残額のうち弁済期が到来しているものの額

2 ただし、上記の請求をすることができるのは、主債務者から委託を受けた保証人(法人も可)に限られる。

 

 

保証人に対する情報提供義務(3つ)

・保証契約締結時の情報提供義務(主債務者の義務)

・主債務者が期限の利益を喪失した場合の情報提供義務(債権者の義務)

・主債務者の履行状況に関する情報提供義務(債権者の義務)

 

以下、保証人に対する情報提供義務についてそれぞれ解説します。

 

保証契約締結時の情報提供義務(主債務者の義務)

 

主債務者は、個人に保証人となってもらう場合、主債務者の財産状況について情報を提供しなければなりません(民法465条の10第1項、3項)。主債務者の財産状況とは、主債務者が返済できず、自らが保証しなければならないリスクがどの程度あるのかというものです。 改正により、保証人は、主債務者の財産状況を十分に把握したうえで、保証人となるかどうかを慎重に判断することができるようになりました。

 

保証契約締結時の情報提供義務(主債務者の義務)

主債務者が、提供すべき情報は、次の3つです。

 

主債務者が提供すべき情報

① 財産および収支の状況

② 主債務以外の債務の有無、その債務の額、その債務の履行状況

③ 担保として提供するものがあればその内容

 

そして、保証人は、次の要件をみたすときに、保証契約を取り消すことができます(新民法465条の10第2項)。

 

保証契約の取消の要件

①主債務者が情報提供を怠ったために保証契約が締結されたこと

②情報提供がされなかったことを債権者が知り、または知ることができたこと

 

主債務者が期限の利益を喪失した場合の情報提供義務(債権者の義務)

 

保証人が個人である場合、主債務者が期限の利益を喪失したときは、債権者は保証人に対しその喪失を知った時から2か月以内にその旨を通知しなければならない、というルールが新設されます(民法458条の3)。 2か月以内に通知をしなかったときは、債権者は、期限の利益が喪失された時からその後に通知をするまでに生じた遅延損害金を保証人に請求することはできません。

 

主債務者が期限の利益を喪失した場合の情報提供義務(債権者の義務)

たとえば、債権者が、期限の利益が喪失されたことを知ったときから2ヶ月以内に、保証人に何も連絡をとらず、3ヶ月たってようやく連絡したとします。 この場合は、期限の利益が喪失されてから3ヶ月分の遅延損害金を請求することはできなくなってしまいます。

期限の利益とは、設定された期限まで支払いを猶予してもらえる債務者の利益のことを言います。 たとえば、「100万円を10か月後までに返す」という約束をした場合、6か月後まで支払いを猶予してもらえるということが期限の利益です。

 

また、「100万円を毎月10万円ずつ返済する」という分割払いの約束をした場合も、毎月10万円ずつ支払いをすればよく、債権者は一括で100万円を返すよう求めることはできません。これも債務者にとっては支払いを猶予してもらえるため期限の利益となります。

 

多くの契約では、期限の利益について、次のような特約が付されています。

 

(期限の利益の喪失)

分割払いを認めるが、1回でも支払いを怠れば直ちに一括払いの義務を負う。

 

たとえば、100万円の10回払いが認められていた場合、毎回10万円ずつ返済していれば問題ありません。 しかし、1回でも返済を怠った場合は、残額を一括で支払わなければならなくなります。そして、毎回きちんと支払いをしていれば発生しなかった遅延損害金も発生します。

 

保証人の負担額は主債務者が支払いを滞らせた後に発生する遅延損害金によってどんどん膨らみます。 改正前は、分割払いの支払いを滞らせて期限の利益を喪失した場合に、膨大な遅延損害金が発生し、保証人がこの遅延損害金についても返済しなければならないというケースが問題となりました。 このようなケースは、保証人が、主債務者が期限の利益を喪失させているということを早期に知ることができれば、直ちに立替払いをして遅延損害金が発生しないように防御できます。

 

保証人の負担額が膨大とならないように、2年以内に通知するルールになったのです。

期限の利益が喪失された後は、すぐに支払いを済ませないと、遅延損害金が膨らんでしまいますから、保証人に早く知らせてあげよう、という趣旨となります。

主債務の履行状況に関する情報提供義務(債権者の義務)

 

債権者は、保証人が個人・法人であるかを問わず、保証人に履行状況に関する情報提供をしなければならない、というルールが新設されます(民法458の2)。このルールは、事業上の債務の保証だけでなく、すべての保証にあてはまります。

 

主債務の履行状況に関する情報提供義務(債権者の義務)

保証人にとって、主債務の履行状況(支払いが滞っていないか等)は重要な関心事です。しかし、従前は何ら規定がなく、主債務者のプライバシーとの関係で情報提供されないことがあったため改正されました。

 

債権者は、保証人から請求があったときは、主債務の元本、利息および違約金等に関して、次の情報を提供しなければなりません。債権者は主債務者の同意を得ずに保証人に対して情報提供できます。

 

保証人に対する情報提供

① 不履行の有無(きちんと支払いができているか否か) ② 残額 ③ 残額のうち支払期限が到来しているものはあるか、あればその金額

 

連帯保証人への請求が主債務者に影響しない

今回の改正では、債権者が連帯保証人に対して請求をしても、主たる債務の時効の完成は猶予されないことになりました(民法458条)。 そのため、そのまま主たる債務者に対して何も請求しなければ、主債務者は、時効が完成して返済の義務を免れます。

 

改正前は、債権者が連帯保証人に対して請求すれば、この効果は債権者にもおよびました。すなわち、主債務者にとっても時効が完成せずに猶予されました。

 しかし、現実には、主たる債務者と連帯保証人が見ず知らずの関係であることがあり、連帯保証に対して請求しても、そのことを主債務者がまったく関知していない事態がありました。

そこで、主債務者に対して、連帯保証人への時効の完成猶予の効果を及ぼすのは酷であるという配慮から改正されました。

 

債権者が連帯保証人に対して履行の請求をしても主債務者に影響を及ぼさないため、主債務者との関係では時効が完成することになります。このようなルールは、主債務者にとって有利なものです。

そこで、債権者としては、主債務者が行方不明になり、とりあえず連帯保証人に対する請求で時効の完成を止めたいというようなケースにそなえて、次のような条項を定めるのがよいとする見解も一部にはあります。

しかし、履行の請求が相対的効力しか有しないのが改正法ですので、下記の条項は無効と解されます。

 

記載例

(連帯保証人に対する履行の請求)

連帯保証人に対する履行の請求は、主債務者に対しても、その効力を生じるものとする。

 

 

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