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2023年09月24日
民法(債権法)の平成29年改正その6 第7章 約款(定型約款)に関する規定の新設

第7章 約款(定型約款)に関する規定の新設

第1節 要約

約款(定型約款)に関する規定の新設

-重要な実質改正事項-

約120年間の社会経済の変化への対応(実質的なルールの改正)

約款とは、大量の同種取引を迅速・効率的に行う等のために作成された定型的な内容の取引条項

契約内容の画一性を維持することができないと、取引の安定性を阻害

例えば、鉄道やバスの運送約款、電気・ガスの供給約款、保険約款、インターネットサイトの利用規約など、多様な取引で広範に活用されている。

民法の原則によれば契約の当事者は契約の内容を認識しなければ契約に拘束されないが、約款を用いた取引をする多くの顧客は約款に記載された個別の条項を認識していないのが通常

民法の原則によれば、契約の内容を事後的に変更するには、個別に相手方の承諾を得ることが必要だが、承諾を得られないこともあり得る。

どのような場合に個別の条項が契約内容となるのか不明確

約款に関する規定を新設

旧法

現代社会においては、大量の取引を迅速に行うため、詳細で画一的な取引条件等を定めた約款を用いることが必要不可欠だが、民法には約款に関する規定がない。

解釈によって対応せざるを得ないが、いまだ確立した解釈もないため、法的に不安定

約款中に「この約款は当社の都合で変更することがあります。」との条項を設ける実務もあるが、その有効性については見解が分かれている。

約款(定型約款)に関する規定の新設

改正法の内容

・ 対象とする約款(定型約款)の定義

  • ある特定の者が不特定多数の者を相手方とする取引で、

② 内容の全部または一部が画一的であることが当事者双方にとって合理的なもの

を 「定型取引」と定義した上、 この定型取引において、

  • 契約の内容とすることを目的として、その特定の者により準備された条項の総体

 

問題の所在

「約款」という用語は、現在も企業の契約実務や学界において広く用いられている。

もっとも、その意味についての理解は千差万別

約款に関する規定を新設するに当たり、改正の趣旨を踏まえた定義等が必要

【該 当】 鉄道・バスの運送約款、電気・ガスの供給約款、保険約款、インターネットサイトの利用規約 等

【非該当】 一般的な事業者間取引で用いられる一方当事者の準備した契約書のひな型、労働契約のひな形 等

これらは、相手方の個性に着目して締結されるため、「不特定多数の者を相手方とする取引」(要件①)とはいえず、「定型約款」とはいえません。

 

【新§548条の2第1項】

・ 「定型約款」という名称

従来の様々あった「約款」概念と切り離して、規律の対象を抽出したことを明らかにするための名称

大量取引が行われるケースにおいて取引の安定等を図る観点から新たなルールを設けるのは、約款によって画一的な取引をすることが事業者側・顧客側双方にとって合理的であると客観的に評価することができる場合に限定する必要がある。

新設規定の対象となる約款(定型約款)の定義

改正法の内容

・ 定型約款が契約の内容となるための要件(組入要件)

次の場合は、定型約款の条項の内容を相手方が認識していなくても合意したものとみなし、契約内容となることを明確化※

 

問題の所在

民法の原則によれば契約の当事者は契約の内容を認識しなければ契約に拘束されない。

約款(定型約款)に関する規定の新設

・ 「定型約款」については、細部まで読んでいなくても、その内容を契約内容とする旨の合意があるのであれば、顧客を契約に拘束しても不都合は少ない。

・ 明示の合意がない場合であっても、定型約款を契約内容とする旨が顧客に「表示」された状態で取引行為が行われているのであれば、同様に不都合は少ない。

ただし、相手方への「表示」が困難な取引類型(電車・バスの運送契約等)については、「公表」で足りる旨の特則が個別の業法に設けられている。

顧客の利益を一方的に害するような条項は契約内容とならないようにする余地を認めることが必要

【新§548条の2】

(定型約款の合意)

第548条の2 定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部または一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。以下同じ。)を行うことの合意(次条(548条の3)において「定型取引合意」という。)をした者は、次に掲げる場合には、定型約款(定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体をいう。以下同じ。)の個別の条項についても合意をしたものとみなす。

⑴定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。

⑵定型約款を準備した者(以下「定型約款準備者」という。)があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき。

2(略)

 

定型約款の定義

① 定型約款を契約の内容とする旨の合意があった場合

② (取引に際して)定型約款を契約の内容とする旨をあらかじめ相手方に「表示」していた場合※※

(定型取引の特質に照らして)相手方の利益を一方的に害する契約条項であって信義則(民法1条2項)に反する内容の条項については、合意したとはみなさない(契約内容とならない)ことを明確化

※ただし、定型取引を行う合意の前に相手方から定型約款の内容を示すよう請求があった場合に、定型約款準備者が正当な事由なくその請求を拒んだ場合には、定型約款の条項の内容は契約内容とならない。【新§548条の3】

 

(定型約款の内容の表示)

第548条の3 定型取引を行い、または行おうとする定型約款準備者は、 定型取引合意の前または定型取引合意の後相当の期間内に相手方から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方法でその定型約款の内容を示さなければならない。ただし、定型約款準備者が既に相手方に対して定型約款を記載した書面を交付し、またはこれを記録した電磁的記録を提供していたときは、この限りでない。

2 定型約款準備者が定型取引合意の前において前項の請求を拒んだときは、前条の規定は、適用しない。ただし、一時的な通信障害が発生した場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。

 

なお、次のようなケースでは、開示義務はありません(同ただし書)。

・取引相手から開示請求される前に、定型約款を記載した書面を交付した場合

・WEB上で約款内容を提供した場合

 

一度、取引相手に対して、定型約款の内容にアクセスできる機会を与えれば、再度、開示する必要はないということです。

 

【定型取引合意の後相当の期間内】とは?

期間の起算点や長さは、個別に判断されることになりますが、一般的な消滅時効期間が5年であることから、最終の取引時から5年程度は表示請求に応じる必要があると考えられています。

 

【相当な方法】とは?

次のような方法が想定されています。

・取引相手に定型約款を面前で示す方法

・定型約款を書面または電子メール等で送付する方法

・定型約款が掲載されているウェブサイトを案内する方法

 

第2節 公表によるみなし合意

公表によるみなし合意

鉄道・バス等による旅客運送取引や、高速道路等の利用取引においては、上記①②のような合意・表示をすることが困難となります。 そこで、これらの取引については、個別の業法に特則が定められています。 すなわち、相手方に対する表示を要せず、 定型約款を契約の内容とする旨の「公表」をすれば、 当事者が定型約款の個々の条項についても合意したものとみなされます。 たとえば、次のような業法に特則が定められています。

・鉄道営業法

・軌道法

・海上運送法

・道路運送法

・航空法

・道路整備特別措置法

・電気通信業法

 

第3節 不当条項の取扱い

不当条項の取扱い

(例) 売買契約において、本来の目的となっていた商品に加えて、想定外の別の商品の購入を義務付ける不当な(不意打ち的)抱合せ販売条項など

・ 契約の内容とすることが不適当な内容の契約条項(不当条項)の取扱い

定型約款が契約内容となる要件

顧客は定型約款の条項の細部まで読まないことが通常であるが、不当な条項が混入している場合もある。

※※

不当条項が契約の内容とならない要件

① 相手方の権利を制限し、または相手方の義務を加重する条項であること

② 定型取引の態様・実情や、取引上の社会通念に照らして、信義則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められること

 

たとえば、次のような条項があげられます。

 

具体例

 

相手方である顧客に対して過大な違約罰を定める条項

定型約款準備者の故意または重過失による損害賠償責任を免責する旨の条項

想定外の別の商品の購入を義務づける不意打ち的抱合せ販売条項

 

じつは、消費者契約法には、不当条項に関する民法と似たような書きぶりの規定があります(消費者法10条)。 民法と消費者契約法のそれぞれの条文を比べてみてください。

 

【民法】

(定型約款の合意)

第548条の2 (略)

2 前項の規定にかかわらず、同項の条項のうち、 相手方の権利を制限し、または相手方の義務を加重する条項であって、 その定型取引の態様およびその実情ならびに取引上の社会通念に照らして 第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるもの については、合意をしなかったものとみなす。

 

【消費者契約法】

(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)

第10条 消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込みまたはその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して 消費者の権利を制限しまたは消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの は、無効とする。

 

消費者契約法の定めには、「その定型取引の態様およびその実情ならびに取引上の社会通念に照らして」という文言がないことに気づきましたか? 民法の定型約款では、「契約の内容を具体的に認識しなくとも、個別の条項につき合意したものとみなす」という定型約款の特殊性を踏まえ、 取引全体にかかわる事情や取引通念も考慮されるのです。

 

 

第4節 定型約款の変更

改正法の内容

次の場合には、定型約款準備者が一方的に定型約款を変更することにより、契約の内容を変更することが可能であることを明確化 (→ 既存の契約についても契約内容が変更される。)

問題の所在

長期にわたって継続する取引では、法令の変更や経済情勢・経営環境の変化に対応して、定型約款の内容を事後的に変更する必要が生ずる。

民法の原則によれば、契約内容を事後的に変更するには、個別に相手方の承諾を得る必要があるが、多数の顧客と個別に変更についての合意をすることは困難

① 変更が相手方の一般の利益に適合する場合

または

② 変更が契約の目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無およびその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的な場合

例) 保険法の制定(平成20年)に伴う保険約款の変更

【新§548条の4第1項】

約款中に「この約款は当社の都合で変更することがあります。」などの条項を設ける実務もあるが、この条項が有効か否かは見解が分かれている。

定型約款の変更要件

犯罪による収益の移転防止に関する法律の改正(平成23年)に伴う預金規定の変更

電気料金値上げによる電気供給約款の変更

クレジットカードのポイント制度改定に関する約款の変更など

 

実際に同意がなくとも変更を可能とする必要がある一方で、相手方(顧客)の利益保護の観点から、合理的な場合に限定する必要もある。

「その他の変更に係る事情」:相手方に与える不利益の内容・程度、不利益の軽減措置の内容など

 

要件②(民法548条の4第1項2号)は、2つの要件が含まれています。

 

定型約款の変更が、 契約をした目的に反せず、かつ、 変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無およびその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。

 

「契約をした目的に反しない」とは

契約目的(「契約をした目的」)とは、契約当事者の主観的なもの(認識しているもの)ではありません。すなわち、一方当事者が、「これが契約目的だ」と思っているだけでは足りず、相手方とコミュニケーションをとって、お互いに「これが契約目的ですね」と共有したものでなければなりません。 そのため、契約条件の重大な部分を変更すると、契約目的に反するものと解されるおそれがあります。

 

「変更が合理的」とは

「変更の必要性」「変更内容の相当性」「変更する旨の規定の有無」などの事情を考慮して判断します。 定型約款を「変更する旨の規定」とは、たとえば、次のような定めです。

 

「この約款は、当社の裁量により、変更することがあります」

 

なお、このように定めなければ絶対に約款を変更することができない、というわけではありません。このような定めの有無は、あくまで、合理性を判断するときの1つの考慮要素にすぎません。

 

もっとも、

・定型約款の変更を将来的に行う可能性があること

・実際に変更するときの条件と手続き

を約款に具体的に定めておき、約款を変更するときに、定めた条件と手続きのとおり約款を変更すれば、「変更の合理性」が認められやすくなります。

 

また、その他考慮される事情(「その他の変更に係る事情」)には、次のようなものがあります。

 

・変更によって取引相手が受ける不利益の内容や程度

・このような不利益を軽減させる措置がとられているか

 

たとえば、

・取引相手に解除権を与えているか

・変更の効力発生までに、どの程度の猶予期間を設けているか

といった事項が考慮されます。

 

定型約款を変更するための手続き

定型約款を変更することができる要件(民法548条の4)をみたしたとしても、次の2つの手続きを行わなければ、定型約款を変更することはできません(民法548条の4第2項)。

 

定型約款を変更することができる要件

① 約款の変更の効力が発生する時期を定めること

② 次の事項をインターネットの利用その他適切な方法により周知すること

・定型約款を変更する旨

・変更後の定型約款の内容

・変更後の定型約款の効力発生時期

 

変更内容が、相手方の一般の利益に適合しない場合は、効力発生時期までに、これらを周知しなければ、約款変更の効力が発生しません(民法548条の4第3項)。

 

(定型約款の変更)

第548条の4(略)

⑴(略)

⑵定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無およびその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき

2 定型約款準備者は、前項の規定による定型約款の変更をするときは、 その効力発生時期を定め、かつ、 定型約款を変更する旨および変更後の定型約款の内容ならびにその効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければならない。

3 第1項第2号の規定による定型約款の変更は、前項の効力発生時期が到来するまでに同項の規定による周知をしなければ、その効力を生じない。

4 (略)

 

 

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