第1節 要約
意思表示とは、一定の法律効果の発生を欲する旨の意思の表明
⇒当事者の意思表示の合致によって契約は成立する。
売買契約の申込み・承諾(Ex.「20万円でパソコンを買う・売る」)
意思表示に問題があるケース
民法は5つのケースを列挙して規定している
内 容 事 例 改正の有無
心裡留保
(§93)
わざと、真意と異なる意思を表明した場合
退職をする意思はなかったが、反省の意を強調する趣旨で、退職届を提出した
○(第三者保護規定の新設等)
通謀虚偽表示
(§94)
相手方と示しあわせて真意と異なる意思を表明した場合
財産を債権者から隠すために、土地について架空の売買契約をする
なし
錯誤(§95)
間違って真意と異なる意思を表明した場合
売買代金として¥10000000(1000万円)と記載すべきところ¥1000000(100万
円)と記載した契約書を作成してしまった
(売主に錯誤)
◎(次頁以降参照) 真意どおりに意思を表明しているが、その真意が何らかの誤解に基づいていた場合(動機の錯誤)
土地の譲渡に伴って自らが納税義務を負うのに、相手方が納税義務を負うと誤
解し、土地を譲渡した(売主に錯誤)
詐欺(§96)
だまされて、意思を表明した場合 だまされて、二束三文の壺を高値で買わされた
○(第三者保護の要件の見直し等)
強迫(§96) 強迫されて、意思を表明した場合 強迫されて、不必要な土地を買わされた
なし
錯誤に関する見直し(要件の明確化)①
改正法の内容
① 意思表示が錯誤に基づくものであること(判例①の要件に対応)
② 錯誤が法律行為の目的および取引上の社会通念に照らして重要なものであること(判例②の要件に対応)
③ 動機の錯誤については、動機である事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていること(判例③の要件に対応)
※ 例えば、離婚に伴う財産分与として土地等を譲渡する場合において、分与をする者の側に課税されないことがその財産分与の前提とされていることが表示されているようなときに、認められる(最判平成元年9月14日)
問題の所在
旧法95条は 「法律行為の要素」に錯誤があることが必要であると規定。
判例はこの要件について、次のように判断。
① 表意者が錯誤がなければその意思表示をしなかったであろうと認められることが必要(主観的因果性)
② 通常人であっても錯誤がなければその意思表示をしなかったであろうと認められることが必要(客観的重要性)
③ ⅰ)間違って真意と異なる意思を表明した場合(表示の錯誤)とⅱ)真意どおりに意思を表明しているが、その真意が何らかの誤解に基づいていた場合(動機の錯誤)とを区別し、動機の錯誤については、上記①、②の要件に加えて、その動機が意思表示の内容として表示されていることが必要。
⇒旧法95条の文言と判例の考えは必ずしも一致しない。意思表示の効力を否定する要件を明確化することが必要ではないか。
(改正法)
第95条
1 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的および取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2 前項第2号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
3、4(略)
(旧法条文)
第95条 意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。
錯誤に関する見直し(効果を「取消し」に変更)②
(旧法)
旧法95条は、錯誤による意思表示は無効としている。 行使権者 期間制限
無効 制限なし なし
取消し 誤解した者
(相手方は不可)
5年
改正法の内容
改正法は、錯誤の効果を「無効」から「取消し」に改める。
(旧法条文)
(取消権者)
第120条
1 (略)
2 詐欺または強迫によって取り消すことができる行為は、瑕疵ある意思表示をした者またはその代理人もしくは承継人に限り、取り消すことができる。
(取消権の期間の制限)
第126条 取消権は、追認をすることができる時から5年間行使しないときは、 時効によって消滅する。行為の時から20年を経過したときも、同様とする。
〈無効と取消しについての一般的理解〉
問題の所在
ⅰ)判例は、錯誤を理由とする意思表示の無効は、誤解をしていた表意者のみが主張でき、相手方は主張できないと判示
⇒通常の無効とは異なる扱い
(例えば、売買契約において買主に錯誤があるケースでは、買主は無効を主張できるが、売主は無効を主張できない。)
ⅱ)詐欺があった場合は、意思表示の効力を否定することができるのは5年間
⇒錯誤があった場合に期間制限を設けないのは、バランスを欠く
(例えば、売買契約において詐欺があったケースでは、5年間しかその売買契約の効力を否定できないが、錯誤があったケースでは、 5年を経過した後も、売買規約の効力を否定できる。)民法の一般的理解では、
➀無効は誰でも主張することができ、
① 無効を主張することができる期間に制限はない。