相続財産の種類―土地の売主の相続『租税判例百選 第6版』75事件
テーマ:相続税法
最2小判昭和61年12月5日
相続税更正処分取消請求事件
【判示事項】 一、農地の売買契約締結後農業委員会の許可前に買主が死亡した場合における相続税の課税財産
二、農地の買主の死亡により相続人が取得した当該農地の所有権移転請求権等の相続税の課税財産としての価額
【判決要旨】 一、農地の売買契約締結後農業委員会の許可前に買主が死亡した場合における相続税の課税財産は、右売買契約に基づき買主たる被相続人が売主に対して取得した当該農地の所有権移転請求権等の債権的権利である.
二、農地の買主の死亡により相続人が取得した当該農地の所有権移転請求権等の相続税の課税財産としての価額は、売買契約による当該農地の取得価額相当額と評価すべきである。
【参照条文】 相続税法2-1
民法896
相続税法22
【掲載誌】 訟務月報33巻8号2154頁
最高裁判所裁判集民事149号263頁
判例タイムズ631号119頁
金融・商事判例768号40頁
判例時報1225号56頁
本件は、相続税更正処分等の取消訴訟であるが、農地の買主が契約締結後農業委員会の許可を受ける前に死亡し相続が開始した場合において、相続税の課税財産は当該農地と解すべきか、あるいは所有権移転請求権等売買契約上の権利と解すべきか、また、その評価をどうすべきか、といった点が争われた。
すなわち、Xの父親は、訴外会社との間で本件農地を代金1916万4000円(仲介手数料48万7470円)で買い受ける契約を締結し、手付金200万円を支払ったが、農業委員会の許可前に死亡し、Xが相続した。
Xは、その後残代金を支払い農地法上の許可を受けて本件農地の所有権を取得したが、相続税の申告に当たり、本件農地の「相続税財産評価に関する基本通達」(昭和39年直資56号、直審(資)17号、以下「評価通達」という。)により評価額299万1360円を財産とし、未払代金及び未払仲介手数料合計1765万1470円を債務として申告をしたところ、Yはこれを否認し、手付金200万円のみが相続財産に計上されるべきであるとして更正等をした。
そこで、Xがこれを違法として取消訴訟を提起した。
一審判決(判例時報980号43頁。
評釈として、清永敬次・判例評論267号13頁、佐藤康・税務広報29巻3号158頁などがある。)及び原判決は、本件の課税財産は、農地法上の許可前にあっては、本件農地そのものではなく、売買契約により被相続人の取得した所有権移転請求権等の債権的権利であるとし、その評価は、当該農地の取得価額が通常の取引価額に比して著しく高額又は低額であるなど特段の事情のない限り、右取得価額に一致するとして、本件農地の取得価額に相当する1965万1470円であるとした。
本判決は、Xの上告に対し、原審の判断を正当としたものである。