第12章 債務者の責任財産の保全のための制度
第1節 はじめに
債務者の責任財産の保全のための制度
責任財産を保全する必要性
債務者が金銭債務を履行しない場合・・・
債務者が、自己の有する権利を行使しない場合(例1)
自己の財産を流出させる場合(例2)
には、債権回収が困難になるおそれ → 責任財産の保全のための方策が必要
債権者は、勝訴判決などの債務名義(強制執行の根拠となる文書)を得た上、債務者の財産(=責任財産)に対して強制執行をして、債権回収をすることができる。
請負業者(債務者)に融資している銀行は、返済がされないときは、債務者の責任財産(工場の土地建物、未収債権など)に強制執行をすることができる。
銀行(代位債権者)→請負業者(債務者)
貸金債権(被保全債権)
〈例〉
例1:債務超過に陥った請負業者(債務者)が注文者からの請負代金の回収を怠っている場合
例2:債務超過に陥った請負業者(債務者)が、所有する不動産を配偶者に無償で譲渡(贈与)し所有権移転登記をした場合
この事態に対処するため
債権者代位の制度
詐害行為取消の制度
第2節 債権者代位権に関する見直し
債権者代位権に関する見直し
問題の所在
債権者が他人である債務者の財産管理に介入する制度であるにもかかわらず、旧法423条は骨格を定めているのみ。
→具体的なルールは判例によって形成されている。
次のようなルール等を創設
改正法の内容
債権者が自己の債権を保全するために必要があるときは、債務者の第三者に対する権利を債務者に代わって行使(代位行使)することができる制度
金銭債権等を代位行使する場合には、債権者は自己への支払等を求めることができる。【新§423条の3】
債権者の権利行使後も被代位権利についての債務者の処分は妨げられない。 【新§423-5】
債権者が訴えをもって代位行使をするときは、債務者に訴訟告知をしなければならない。 【新§423条の6】
※訴訟告知:訴訟が提起されたことを利害関係のある第三者に告知する裁判上の手続をいう。
債権者代位権とは、債務超過に陥った請負業者(債務者)が注文者(第三債務者)からの請負代金の回収を怠っている場合に、その請負業者に融資している銀行(債権者)は、注文者に対する請負代金債権を代位行使することができる。 債権者代位権の行使
銀行(債権者)→請負業者(債務者)→注文者(第三債務者)
貸金債権(被保全債権) 請負代金債権(被代位権利)
債務者や第三債務者の利益保護等も考慮して、ルールの明確化・合理化を図る必要がある。
【参照条文(旧法)】
第423条 債権者は、自己の債権を保全するため、債務者に属する権利を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利は、この限りでない。
2 債権者は、その債権の期限が到来しない間は、裁判上の代位によらなければ、前項の権利を行使することができない。ただし、保存行為は、この限りでない。
〈例〉
銀行が、注文者を被告として、銀行に対して請負代金を支払うよう求める訴えを提起
問題の所在
債権者が他人(債務者)がした行為の取消し等を裁判上請求するという強力な制度であり、複雑な利害調整を要するにもかかわらず、旧法424条以下の3か条で骨格を定めているのみ。
→具体的なルールは判例によって形成されている。
第3節 詐害行為取消権
改正法の内容
債務者が債権者を害することを知ってした行為(詐害行為)について、債権者がその取消し等を裁判所に請求することができる制度
〈例〉
詐害行為取消権とは、債務超過に陥った請負業者(債務者)が、自己が所有する建物を配偶者に無償で譲渡し(贈与)、所有権移転登記をした場合に、請負業者に融資している銀行(債権者)は、贈与契約の取消しと所有権移転登記の抹消を裁判所に請求することができる。
詐害行為取消権の行使
建物を贈与し、登記を移転
(詐害行為)
銀行(債権者)→請負業者(債務者)
貸金債権(被保全債権)
銀行(債権者)→配偶者(受益者)
貸金債権(被保全債権)
関係当事者の利益調整も考慮しつつ、ルールの明確化・合理化を図る必要がある。
詐害行為取消権に関する見直し
債権者は、債務者がした行為の取消しとともに逸出財産の返還(返還が困難であるときは価額の償還)を請求することができる。 【新§424条の6】
詐害行為取消しの訴えにおいては、受益者を被告とし、債務者には訴訟告知をすることを要する。 【新§424条の7】
詐害行為取消権の要件(詐害行為性、詐害意思等)についても、類似する制度(破産法の否認権等)との整合性をとりつつ、具体的に明確化する。 【新§424条の2~ § 424条の4】