第18章 危険負担に関する見直し
危険負担に関する見直し
危険負担とは、双務契約(売買等)の一方の債務が債務者の責めに帰すべき事由によらないで履行不能となった場合に、その債務の債権者の負う反対給付債務がどのような影響を受けるのかを定める制度
問題の所在
旧法
原則 ⇒ 債務者主義(旧法§536条1項)=債権者の負う反対給付債務は消滅する。
例外 ⇒ 債権者主義(旧法§534等)=債権者の負う反対給付債務が存続する。
① 特定物に関する物権の設定または移転を目的とする双務契約等について債務者の責めに帰すべき事由によらないで目的物が滅失または損傷した場合
② 債権者の責めに帰すべき事由によって履行不能となった場合
地震で焼失
①について債権者主義を採用すると、例えば、建物の売買契約の締結直後にその建物が地震によって滅失した場合にも買主は代金を支払う義務を負うこととなるが、この結論は債権者に過大なリスクを負わせるものであって不当ではないか。
債権者主義とは?
このとき、 消滅しなかった他方の債務(代金の支払い債務)は消滅しない、という考え方を「債権者主義」といいます。 消滅した債務(目的物の引渡し債務)の債権者が危険を負担するという意味です。 この場合、買主は、陶器(目的物)を入手できないにもかかわらず、代金を支払わなければなりません。
債務者主義とは?
他方で、消滅しなかった他方の債務(代金の支払い債務)も消滅する、という考え方を「債務者主義」といいます。 消滅した債務(目的物の引渡し債務)の債務者が危険を負担するという意味です。 この場合、買主も、代金を支払う必要はありません。
まとめると、債権者主義と債務者主義は、それぞれ次のような意味となります。
債権者主義と債務者主義とは?
債権者主義
消滅しなかった他方の債務は消滅せず、債権者が危険を負担する。
債務者主義
消滅しなかった他方の債務も消滅し、債務者が危険を負担する。
改正法の内容
債権者主義を廃止した
危険負担の効果として、反対給付債務の履行拒絶権が与えられた。
代金支払債務あり?
※ 併せて、契約解除の要件に関する見直しに伴い、効果を反対給付債務の消滅から反対給付債務の履行拒絶権に改める。
【新§536】
(債務者の危険負担等)
第536条
1 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
2(略)
※ 買主が目的物の引渡しを受けた後に目的物が滅失・損傷したときは、買主は代金の支払(反対給付の履行)を拒めない。【新§567条1項】
今回の改正では、危険の移転時期が「引渡し時」であることが明文化されました。
(目的物の滅失等についての危険の移転)
第567条 売主が買主に目的物(売買の目的として特定したものに限る。以下この条において同じ。)を引き渡した場合において、その引渡しがあった時以後にその目的物が当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失し、または損傷したときは、買主は、その滅失または損傷を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求および契約の解除をすることができない。この場合において、買主は、代金の支払を拒むことができない。
2(略)