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2023年10月11日
民法(債権法)の平成29年改正その21 第22章 消費貸借の成立要件の見直し

第22章 消費貸借の成立要件の見直し

第1節 消費貸借の成立要件の見直し

消費貸借の成立要件の見直し

消費貸借の合意

契約成立

改正法

消費貸借の合意→契約成立

(書面を要件として)

※借主は金銭交付まで解除可

 

改正法の内容【いずれも新§587条の2】

書面によることを要件として、合意のみで消費貸借の成立を認める。

借主は、金銭の交付を受ける前は、いつでも契約を解除できる。

→ 借主に借りる義務を負わせない趣旨

その場合に貸主に損害が発生するときは、貸主は賠償請求できるが、限定的な場面でのみ請求は可能

例:相当の調達コストがかかる高額融資のケース

→ 消費者ローンなど少額多数の融資では、借主の契約解除による損害なし

 

【関連】 要物契約の諾成化

現在は要物契約とされている使用貸借と寄託についても、目的物交付前に契約を成立させる(拘束力を認める)ニーズがあり、合意のみで成立する諾成契約に改める。【新§593、657】

 

問題の所在

旧法587条によれば、金銭の借入について貸主と借主が合意をしても、実際に金銭が交付されるまで契約は成立しない(要物契約)。

借主は、金銭を交付せよという請求ができない。

例:住宅ローンを利用して不動産を購入する場合

判例上、合意のみによる消費貸借の成立も認められている(諾成的消費貸借)が、区別があいまいで不安定

 

第2節 利息のルールが明文化された

利息のルールが明文化された

【改正の性質】

 ①従来の判例・一般的な解釈を明文化したもの

旧民法には、消費貸借は、無利息が原則と定められていました(旧民法587条)。しかしながら、現実には、多くの消費貸借は、特約で利息を請求するのが慣行となっていました。 今回の改正では、金銭消費貸借契約の利息の取扱いを明らかにするため、次の2つのルールが明文化されました。

 

① 貸主は、特約がなければ借主に利息の請求をすることができない(民法589条1項)

② 利息の支払いの特約があるときは、貸主は、借主が金銭を受け取った日以後の利息を請求することができる(同条2項)

 

なお、改正前と同様に、商人間において金銭の消費貸借をしたときは、特約がなくとも、貸主は、当然に法定利息を請求することができます(商法513条1項)。

 

借主は、金銭を受け取る前であれば、一方的に解除することができるようになった

【改正の性質】

 ②従来、解釈に争いがあった条項を明文化したもの/従来の条項・判例・一般的な解釈を変更したもの

 

「当事者の合意のみで契約を成立させることができる」で解説したとおり、諾成的金銭消費貸借契約(合意のみで成立する金銭消費貸借契約)の場合、貸主が金銭を交付する前に、契約が成立します。しかしながら、借主としては、契約を締結した後に、お金を借りる必要がなくなることがあります。 このようなケースのときに、借主が、金銭を受け取り、返還の義務を課せられるのは不合理です。 とくに、利息付の金銭消費貸借契約であるときは、借主は、借りる必要のない金銭について、利息まで支払わなければならず不利益です。

 

そこで、改正により、 諾成的金銭消費貸借契約(合意のみで成立する金銭消費貸借契約)の場合、借主は金銭の交付を受けるまでは、一方的に契約を解除することができる ようになりました(民法587条の2第2項前段)。

 

もっとも、借主による解除権を自由に認めてしまうと、高額融資のため相当の調達コストをかけていたり、 利息付の場合、得られるはずの利息の支払が得られなくなったりするようなケースで、貸主が多額の損害を被るおそれがあります。 そのため、改正では、貸主は、借主が契約を解除したことによって損害を受けたときは、借主に対して、その賠償を請求することができると定めています(民法587条の2第2項後段)。

 

ただし、このような貸主による損害賠償の請求は、かなりハードルが高いものと考えられます。 たとえば、貸主が、相当なコストをかけて金銭を調達していたとしても、他の借主が見つかれば、その借主に貸し付けて、利息分の回収も可能になります。 そうすると、貸主には損害が生じていないということになります。 貸主が借主に損害賠償請求するためには、 実際に損害が発生していること、 借主の解除と損害との間に因果関係があることを具体的に立証しなければなりません。

 

第3節 金銭交付前に一方当事者が倒産したときは、契約が終了する

金銭交付前に一方当事者が倒産したときは、契約が終了する

【改正の性質】

 ②従来、解釈に争いがあった条項を明文化したもの/従来の条項・判例・一般的な解釈を変更したもの

 

改正により、諾成的金銭消費貸借契約(合意のみで成立する金銭消費貸借契約)が成立した後、貸主が金銭を交付する前に、貸主または借主の一方に破産手続きが開始された場合、その契約は当然に効力を失うものとされました(民法587条の2第3項)。

 

貸主は、借主の資力が悪化したという理由だけで、お金を貸す義務から解放されるわけではありません。

諾成的金銭消費貸借契約が成立したら、貸主は、借主が破産手続開始決定を受けない限り、お金を貸してあげなければなりません。

 

第4節 借主は、期限前にいつでも返済できるようになった

借主は、期限前にいつでも返済できるようになった

【改正の性質】

 ②従来、解釈に争いがあった条項を明文化したもの/従来の条項・判例・一般的な解釈を変更したもの

 

借主としては、利息の支払いを押さえるために、できる限り、返済の期限よりも早く借金を返済したいと考えることがあります。 しかしながら、改正前の民法では、期限前の返済について定めはありませんでした。そのため、

・利息付きの金銭消費貸借契約の期限前返済の可否

・返済期限までの利息の支払の要否

について議論がありました。

 

改正により、期限前の返済のルールを明確にし、借主は、いつでも返済できるようになりました(民法591条2項)。 他方で、貸主からすると、期限前に返済されると、その後に得られるはずであった利益が得られない、という不都合が生じます。 そこで、改正の際には、この点が考慮され、貸主は、期限前に返済されたことによって損害を被ったときは、 その賠償を借主に請求することができます(民法591条第3項)。

 

第591条 (略)

2 借主は、返還の時期の定めの有無にかかわらず、いつでも返還をすることができる。

3 当事者が返還の時期を定めた場合において、貸主は、借主がその時期の前に返還をしたことによって損害を受けたときは、借主に対し、その賠償を請求することができる。

 

貸主は、このような損害賠償を請求するためには、貸付前の解除の場合と同様に、

・具体的に損害が発生したこと

・その損害が借主の期限前返済と因果関係があること

を立証しなければなりません。

 

結局、貸主から借主への損害賠償請求は、相当ハードルが高いということになります。

とくに、貸主が金融業者であれば、返済された金銭を別の借主に貸し付けて、利息を稼ぐこともできます。そのため、損害が発生していないと評価される可能性があります。

 

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