第24章 請負に関する見直し
第1節 はじめに
請負契約とは
請負とは、当事者の一方(請負人)がある仕事を完成することを約し、相手方(注文者)がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを約する契約です(民法632条)。
請負契約とは成果物の完成を依頼するものです。何らかの法律行為の実施を依頼される場合は、委任契約です。
「業務委託契約」という類型の契約をよく聞きます。「請負契約」とは違うのでしょうか?
「業務委託契約」は、企業活動の様々な分野で使われます。しかし、民法には「業務委託契約」という契約類型が定められているわけではありません。実は、「業務委託契約」の内容によって、民法上のどのような性質の契約かが、異なることがあるのです。
請負契約は「仕事の完成(結果)を目的とする契約」です。 つまり、「業務委託契約」というタイトルの契約書であっても、その内容が「仕事の完成を目的とする契約」であるならば、民法上の「請負契約」と考えられます。
たとえば、物の製造やソフトウェアの構築を目的とする場合、「業務委託契約」というタイトルであっても、仕事の完成が目的であれば「請負契約」と扱われます。
第2節 請負人の報酬
請負に関する見直し(①報酬)
(問題の所在)
請負の報酬は、完成した仕事の結果に支払われるものとされ、中途で契約が解除されるなどした場合については、特にルールを設けていない。
他方で、判例は、請負契約が中途で解除された事案においても、注文者が利益を得られる場合には、中途の結果についても、利益の割合に応じた報酬の請求は可能と判断
⇒ 中途の結果について報酬が請求され、紛争に発展するケースは、実際にも少なくないことから、明確なルールが必要
(改正法の内容)
次のいずれかの場合において、中途の結果のうち可分な部分によって注文者が利益を受けるときは、請負人は、その利益の割合に応じて報酬の請求をすることが可能であることを明文化【新§634】
①仕事を完成することができなくなった場合
②請負が仕事の完成前に解除された場合
(注) 仕事を完成することができなかったことについて注文者に帰責事由がある場合には、報酬の全額を請求することが可能【新§536条2項】
請負とは・・・請負人が仕事を完成することを約し、注文者が完成した仕事の結果に報酬を支払うことを約する契約をいう。
請負人に対する割合的報酬のルールが明文化された
【改正の性質】
①従来の判例・一般的な解釈を明文化したもの
請負契約は仕事の「完成」を目的とする契約です。 では、注文者の帰責性(責任)なく、仕事が途中で完成できなくなったり、解除されたりした場合、注文者は、請負代金を支払わなければならないのでしょうか?
旧民法には、これに関する定めはありませんでした。 最高裁判所の判例(昭和56年2月17日集民132号129頁)では、 工事全体が未完成の間に注文者が契約解除をする場合、工事内容が可分で、 注文者が既施工部分の給付に関し利益を有する場合には、特段の事情がない限り、既施工部分については契約解除できない とされました。
この判例をうけて、請負人の仕事が未完成であっても、 仕事の結果のうち可分な部分があり、当該部分の給付により注文者が利益を受ける場合には、 注文者は、契約の解除ができず、報酬請求権も失われない、というのが実務上の運用になっていました。
旧民法の時代も、注文者の帰責性(責任)なく、仕事が途中で完成しなかった場合であっても、注文者はまったく請負代金を支払わなくてよい(請負人は一切、請負代金を請求できない)わけではなかったのです。
そこで、改正では、このような従来の判例を明文化し、
①注文者の帰責性(責任)なく仕事を完成することができなくなったとき
②請負が仕事の完成前に解除されたとき
について、請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって、注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなすこととされました。 また、請負人は、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができます(民法634条)。
第3節 請負人の担保責任
(改正法の内容)
売買の規定を準用して、次のとおり見直し【§559・562等】
目的物が契約の内容に適合しない場合に、請負人が担保責任を負うと規定
その担保責任として、注文者は、①修補等の履行の追完 ②損害賠償請求 ③契約の解除 ④代金減額請求をすることができると規定
請負に関する見直し(②請負人の担保責任の整理)
担保責任の追及
(旧法・旧法§634・635)
建築請負における建物など仕事の目的物に「瑕疵」があった場合に請負人が担保責任を負うと規定
その担保責任として、注文者は、①修補の請求、②損害賠償請求、③契約の解除をすることができると規定
(問題の所在)
「瑕疵」という用語については、「契約の内容に適合していないこと」を意味するものと解釈されていることを踏まえ、規定を見直すべき。
改正法においては、売買における売主の担保責任について、代金減額請求をすることができることを明記するなど整理。売買と請負とで担保責任の在り方が大きく異なるのは合理性が乏しい。
建物の建築を依頼され、請負人が建物を完成させたが、その建物に不具合が発見された事例
目的物に欠陥がある場合における担保責任の内容
|
売 買 |
請 負 |
||
|
旧法 |
改正法 |
旧法 |
改正法 |
修理・代替物等の請求 |
× |
○ |
修理については、○ |
○ |
損害賠償 |
○ |
○ |
○ |
○ |
契約解除 |
○ |
○ |
○(建物等に制限あり) |
○ |
代金減額 |
× |
○ |
× |
○ |
請負人の担保責任のルールを見直した(瑕疵担保責任から契約不適合責任へ)
【改正の性質】
①従来の判例・一般的な解釈を明文化したもの
請負人の担保責任に関する主要改正ポイントは、次の3点です。
・「瑕疵担保責任」という概念を廃止し「契約不適合責任」に変更する
・注文者の権利が追加され、履行の追完請求・代金の減額請求・損害賠償請求・解除が認められる
・注文者の権利行使期間が延長される
旧民法には、請負人の担保責任(請負人が仕事の完成に対して負う義務の一つ)について、請負契約独自のルールが定められていました(旧民法634条、同635条)。 改正により、このような請負契約独自のルールは廃止され、売買契約の売主の担保責任のルールが準用されることになりました(民法559条)。
これにより、旧民法で「瑕疵」「瑕疵担保責任」と呼ばれていた用語は無くなりました。 そして、請負人は、仕事の目的物が「種類、品質または数量に関して契約の内容に適合しない」(民法562条1項参照)場合に担保責任を負うことになりました。
これからは、請負人の責任を「瑕疵担保責任」とは呼ばない。
これからは、請負人の責任を「瑕疵担保責任」とは呼びません。
また、注文者の権利が追加され、履行の追完請求・代金の減額請求・損害賠償請求・解除が認められます。
注文者の権利が追加される
さらに、注文者が権利を行使できる期間も延長されました。
注文者が権利を行使できる期間も延長
第4節 請負に関する見直し(その他)
請負に関する見直し(③その他)
(旧法)
土地工作物(建物等)の建築請負では、深刻な瑕疵があっても注文者は契約解除をすることができない(旧法§635但書)。
←社会経済上の損失の大きさを考慮したものといわれている。
(改正法の内容)
建物等の建築請負における注文者の解除権を制限する規定を削除
建物等の建築請負における
解除権の制限の見直し
注文者の権利の期間制限の見直し
(旧法)
請負人の担保責任の追及には、旧法、以下の期間制限
原則 目的物の引渡し等から1年以内の権利行使が必要
例外 ①建物等の建築請負では引渡しから5年以内、
②その建物等が石造、金属造等の場合は引渡しから10年以内
(改正法の内容)
契約に適合しないことを知ってから1年以内にその旨の通知が必要と改める。建物等の例外的取扱いは廃止。
第5節 解除の要件を見直した(全契約類型に共通)
解除の要件を見直した(全契約類型に共通)
【改正の性質】
②従来、解釈に争いがあった条項を明文化したもの/従来の条項・判例・一般的な解釈を変更したもの
この改正ポイントは、請負契約のみならず、すべての契約類型に共通するものです。 主な改正ポイントは、次の3点です。
・解除の要件から「債務者の帰責性」を削除した
・催告解除の要件が明確になった
・無催告解除の要件を整理した
第6節 注文者の破産手続の開始による、請負人からの解除を制限した
注文者の破産手続の開始による、請負人からの解除を制限した。
【改正の性質】
②従来、解釈に争いがあった条項を明文化したもの/従来の条項・判例・一般的な解釈を変更したもの
旧民法の下では、注文者が破産手続開始の決定を受けたときは、請負人は、仕事が完成したかどうかを問わず、契約を解除することができました(旧民法642条)。 改正により、注文者が破産手続開始の決定を受けた場合における請負人からの契約解除について、「仕事を完成しない間に限り契約の解除をすることができる」という制限が加えられます(民法642条1項ただし書)。