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2023年10月25日
消費者契約法の平成28年・30年改正その5 第6章 取消権を行使した消費者の返還義務

第6章 取消権を行使した消費者の返還義務

民法(平成29年改正前)第121条の2第1項の規定にかかわらず、消費者契約に基づく債務の履行として給付を受けた消費者は、消費者契約法の規定により当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消した場合において、給付を受けた当時その意思表示が取り消すことができるものであることを知らなかったときは、当該消費者契約によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負うこととした。(第6条の2関係)

 

新設された取消権を行使した消費者の返還義務の範囲の規定とは

 不当勧誘による取消権を行使した場合の消費者の返還義務の範囲につき、民法703条を適用すれば足りるとの考えから、これまでは、消費者契約法に特段の規定は設けられていませんでした。

 もっとも、今般、改正法により、その返還範囲について、現に利益を受けている限度とする旨の規定が新設されました(改正法6条の2)。なお、この規定は、改正民法が成立した際に、同改正法と同じ日に施行することとされています(附則1条2号)。

 

(取消権を行使した消費者の返還義務)

第6条の2 民法第121条の2第1項の規定にかかわらず、消費者契約に基づく債務の履行として給付を受けた消費者は、第4条第1項から第4項までの規定により当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消した場合において、給付を受けた当時その意思表示が取り消すことができるものであることを知らなかったときは、当該消費者契約によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。

 

規定により消費者の返還義務はどう変わるのか

 上記規定は、民法改正案121条の2が、有償契約が無効・取消しとなった場合の返還義務の範囲につき、「原状に復させる義務を負う」としていることを踏まえて新設されたものです。

 例えば、以下のような事例(第22回消費者契約法専門調査会資料1より引用)を想定します。

 

(事例4)

消費者が、事業者から、ダイエットサプリメント5箱を1箱1万円(合計5万円)で購入したが、2箱(2万円分)を費消した後になって、事業者による勧誘の際に、当該ダイエットサプリメントに含まれる成分の副作用に関する不実告知があったことが判明したので、消費者が取消権を行使した(当該ダイエットサプリメントの費消により、他の出費が節約されたという事情はなく、また、当該ダイエットサプリメントには、1箱1万円の客観的価値があるものとする。)。

 この事案において、民法改正案121条の2が適用されると、事業者は、消費者に対し、ダイエットサプリメント2箱の客観的価値(2万円)の返還請求権を有することになります。

 

 そして、事業者としては、当該返還請求権と消費者が有する代金(5万円)返還請求権とを対当額で相殺すると考えられますが、その結果、消費者は、不実告知を理由に当該消費者契約を取り消したにもかかわらず、費消したサプリメント2箱の対価(2万円)を支払ったのと同様の結果となってしまいます。

 これでは、取消権を認めた趣旨が没却される結果となりかねませんので、このような事態を防ぐべく、改正法では、不当勧誘による取消権を行使した場合の消費者の返還義務の範囲につき、現に利益を受けている限度とされました。 改正法にしたがえば、事例4の場合において、消費者はダイエットサプリメント3箱分を返還すれば足り、費消したダイエットサプリメント2箱の客観的価値(2万円)を返還する必要はないことになります。

 ただし、この規定は、民法改正に対応するため新設されたもので、善意の消費者の返還義務の範囲が現存利益に限定されている現状に比して、事業者側の負担が特段大きくなるというものではありません。

 

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