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2023年10月30日
建築紛争法の内容(2)

建築紛争法の内容(2)

○民事法

○ 建築基礎知識と建築紛争への対処法
 建築関連法規として、建築基準法、都市計画法、宅地造成等規制法、消防法、下水道法、水道法、住宅の品質確保の促進等に関する法律、用途に応じて、医療法、食品衛生法、駐車場法、風営法、高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律などがある。
 建築に関する規格として、上記の法令のほかに、JIS(日本工業規格)、木材等に関するJAS(日本農林規格)、各種の建築関係の学会基準がある。
 上記の法令、規格、基準を満たさないと、瑕疵と認定されやすい。
 瑕疵で相談事例が多いのは、雨漏り・漏水、ひび割れ、剥がれ、欠損、騒音、振動などである。

Ⅱ 請負
1 建築請負契約における危険負担
(1)民法の危険負担
(2)建物建築請負契約と危険負担
(3)請負契約と危険負担の債務者主義の結果の妥当性
(4)目的建築物の所有権の帰属と危険負担
(5)建設業法の規定と建築請負標準約款
(7)公共約款と危険負担
(8)民間連合約款の危険負担
(9)公共約款と民間連合約款との関係
建築請負標準約款は、公共工事、民間工事、下請けの用途別に定めている。
① 公共工事
 建設業法は、公共工事の入札の前提となる経営審査事項などが定めている。
 公共工事の前払金保証事業に関する法律がある。
② 民間工事
 新築住宅に関して、住宅の品質確保の促進等に関する法律、特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律 が適用される。
 住宅の品質確保の促進等に関する法律が適用されない、中古の住宅、あるいは事業用建物に関して、民法や約款が適用される。
③ 下請け工事
建設業法で、下請け工事については、契約書を取り交わさなければならないと定めている。
なお、下請代金支払遅延等防止法は建設業には適用されず、建設業法が下請け業者の保護の規定を定めている。

2 設計、監理
設計や監理の法的性質について、準委任契約か請負契約については、裁判例・学説ともに争いがあり、統一されていない。設計料請求については、国土交通省平成21年告示第15号を参照すべきである。
また、中古建物の買主と設計者である建築士、建築会社との間に契約関係がないため、不法行為に基づく損害賠償請求を認められている(最高裁平成15年11月14日判決)。

3 追加工事・変更工事
 基本となる請負契約に関して、追加工事・変更工事、または、別工事を論じている。
 本工事は、追加工事との関係で要件事実ではないという見解もあるが、学説上の当否はともかく、追加工事一覧表の中で当事者は主張しなければならない。
 追加・変更工事の発注につき、代理権を授与されないかぎり、監理者は請負工事が設計図書のとおりになされているかを照合確認する業務であるから代理権がなく、また、発注者の家族も代理権がない。
また、発注者が下請人に指示しても、契約は発注者と元請負人との契約であるから、原則として、追加・変更工事の指示にはならない。
追加・変更工事により、工事期間が延長となる場合、建築確認と異なる建物ができる場合がある。
 追加・変更工事の算定基準については、東京地方裁判所民事22部(建築部)では、公共工事の積算単価を用いて算定されている。

○ 建築請負契約と事情変更の原則
建築請負標準約款のうち、事情変更の原則の現れとして、インフレ条項、スライド条項が取り上げられている。
実務的には、急激なインフレよりも、労務賃・材料代・運賃などの高騰が考えられるであろう。

○ 建築請負における瑕疵担保責任と債務不履行責任
請負人の損害賠償責任に関する民法の規定は、債務不履行・担保責任の特則であると解するのが、学説上の通説である。
請負に関して、民法は、請負人の報酬請求権の要件事実を、代金支払い約束、仕事の完成と引き渡し(ただし、引渡しが必要でない場合がある。)を要件としている。
 建築請負の完成に関して、裁判例は、以下のとおり解しており、東京地方裁判所民事第22部(建築部)の見解でもある。
工事の最後の工程を終えない場合は工事の未完成に該当し、請負人は、当事者間に特約がある場合、または、仕事が可分で、かつ出来高部分だけでも有用性がある場合に、出来高報酬請求権があるが、報酬のすべてを請求できない。
最後の工程まで一応終了している場合には、請負人は報酬請求権があり、注文者は瑕疵担保責任を追及できる。
 工事未完成の場合、履行遅滞に該当する事案もあると私見では思われる。催告がないと解除できないとも考えられるが、建築契約には工期が記載しているので、雨が長期間降って工事できなかった場合、あるいは役所の工事中止命令等のような場合等の例外を除けば、催告をしなくても、確定期限を過ぎていれば、履行遅滞ではなかろうか。期限を過ぎた上で、催告解除もできる。または、最高裁判決によれば、履行遅滞の場合、解除しなくても、損害賠償できる場合がある。

○ 建築紛争における損害額の認定状況
建築工事の項目を見れば明らかなとおり、単価は多額ではない。そのため、瑕疵が多岐にわたると、個々の瑕疵に対する労力・費用・時間が見合わない場合もある。ただし、建築紛争は専門性が高いので、弁護士は、事件の数をこなせば、専門性を高めて、労力を節約できる。
建築紛争では、損害賠償費目をコツコツと積み上げてしていくため、むしろ請求者が瑕疵を特定し、瑕疵たる理由付け、補修・建て替えの費用を見積もり、それに対して建築業者・売主の側で個別・具体的に認否・反論し、裁判所が認定していくという方式である。
したがって、やり方は違うが、施工について、見積もり、その査定の作業に近い。しかも、そもそも、なぜ瑕疵なのかという難しい作業が前提としてあるため、建築士の鑑定が必要であり、余計に難しい。当事者双方の主張が並行線のまま、裁判所が果たして瑕疵として認定してくれるか、瑕疵である場合に金額はいくらかという問題となる。
なお、交通事故では人身損害、慰謝料、物損であるのに対して、建築紛争では不動産の交換価値または使用価値、補修等費用の物的損害、または、慰謝料が問題となるため、建築紛争と交通事故とでは重なる損害費目は物損・補修費・登録費用・税・慰謝料などである
東京地方裁判所民事22部(建築集中部)で定着している瑕疵等一覧表の方式、建築基準法令、過去の裁判例で瑕疵と認められた先例のほうが重要である。
契約とは違う建築材料を用いたことが瑕疵と認めた最高裁判決では、損害額として、材料代差額等の結局330万円しか認められなかった。この事件では、最高裁・差し戻し控訴審まで合計4審級の裁判をやって長時間がかかり、建築士の鑑定費用や弁護士費用などを考えると、損害賠償額が多くないと、経済的に見合わないということになりかねない。
・交換価値の下落分
補修しても補いきれない交換価値の下落分について、損害賠償額となるとする裁判例が多い。

損害費目
・建て替え、補修の工事費用
・仲介業者の仲介手数料
・各種費用の消費税
・建築士などの調査費用
建築士は時間給(一説によると、東京周辺では、往復の移動時間を含めて1時間当たり8千円+消費税)で調査費用を請求するため、多額になる可能性があるが、裁判例は損害賠償額が認められる場合に限定して、調査費用を認めている。建築士の調査結果に間違いがあるかどうかも、裁判例では重視されている。裁判所で認められなかった調査費用は施主の自腹になる。
・補修工事のために居住者の移転が必要な場合の移転費用、移転先の家賃、諸費用
・逸失利益として、賃貸物件について、使用できなかった期間に得べかりし家賃
・契約解除が認められる場合には、新しい物件の登記費用
・既に支払った火災保険料
・ローンの利息
・弁護士費用

・慰謝料
慰謝料については、私見では、以下のとおり、考えるべきである。
原則として、建築紛争は物的損害のため、物の交換価値・使用価値が補填されれば、慰謝料は認められない。
例外的に、例えば、雨漏り等により転居・仮住まいを余儀なくされた等により精神的損害が生じた場合であって、瑕疵が請負人の不法行為により生じた場合には、損害賠償請求できる。

・過失相殺、寄与度
 注文者の指図について、民法636条が問題となる。請負業者は民法636条本文で免責されると誤解していることが多い。しかし、建築は専門性が高いから、裁判例は、民法636条本文だけで、請負人を全面的に免責することを認めていない。
 施主の指図は過失相殺の対象となる場合がある。
 地震・天災などは、損害発生についての寄与として、考慮される。

・損益相殺
建て替え・補修によって建物の耐用年数が延びたことによる利益を控除すべきとする裁判例がある。
また、建て替え前の使用収益(家賃相当額)を控除すべきとする裁判例がある。
物損の交換価値と使用価値の関係について、大審院の富喜丸事件を参照。

○ 住宅の瑕疵の調査・修補方法
 住宅・マンション等に関して、不具合事象から見た瑕疵、部位別の瑕疵、瑕疵の調査・調査の手順・修繕について、ひび割れ・雨漏り・漏水・傾斜等が生じる場合がある。

○ 売買の瑕疵担保責任
売買契約の場合、買主は、無過失責任である瑕疵担保責任(民法570条)として、損害賠償請求権、契約目的が達成できない場合の契約解除権がある。判例の立場は、一般的に、賠償の内容は信頼利益であると解されているが、裁判例は、事案に応じた損害賠償請求の範囲・金額を認めている。ただし、一般的に、売買の瑕疵担保責任として、弁護士費用・慰謝料の請求をすることは難しいため、別に、不法行為に基づく損害賠償請求をする。
「瑕疵を知ったとき」とは、瑕疵担保責任に基づく解除の意思表示や具体的損害額とその算定根拠を示せる程度の損害賠償請求を行うか否かの判断をなし得る程度に瑕疵の内容・程度を知った時点」である(最高裁平成4年10月20日判決)。
判例によれば、瑕疵担保責任は、裁判外の意思表示で足りる(最高裁平成4年10月20日判決)。瑕疵担保責任に基づく請求権は、損害賠償請求権、形成権である解除権であっても、引渡時から10年の除斥期間にかかる(最高裁平成13年11月27日判決)。

○ 請負の担保責任
請負契約の場合、注文主は、瑕疵修補請求権、損害賠償請求権、契約解除権がある。民法の請負契約の瑕疵担保責任の規定は、賠償の内容は履行利益であり、債務不履行責任の特別規定である。なお、売買の瑕疵担保責任と異なり、「隠れたる瑕疵」である必要はない。瑕疵修補に代わる損害賠償請求権は目的物の引渡時から期限の定めのない債務として弁済期にある(最高裁昭和54年3月20日判決)。修補請求権、それに代わる損害賠償請求権は10年の除斥期間にかかるが、民法508条の類推適用により、請負人の請負代金請求権と注文者の損害賠償請求権とは、除斥期間経過後も相殺できる(最高裁昭和51年3月4日判決)。

・相殺、同時履行の抗弁
請負人の残代金請求権と施主の補修請求権は同時履行関係にあるが、請負人・施主のいずれからも、相殺でき、相殺後の残代金に対する遅延損害金は相殺の意思表示をした日の翌日から発生する(最高裁平成9・7・15)。
したがって、請負残代金請求権が残る可能性がある事案では、建築紛争が長引くと、遅延損害金のため、施主に不利になる。そのため、同時履行の抗弁を主張したほうがよい場合がある。
請負代金債権と損害賠償請求権が相殺された場合、相殺適状時に遡って相殺されるから、相殺された対等額に対する相殺適状時までの遅延損害金は発生しない。相殺の意思表示をしていなくても、結果の妥当性を考えて、裁判所が当事者の合理的意思解釈として、相殺されたと同じ処理をすることはあり得るであろう。なぜなら、相殺されないと、自らの債権に遅延損害金が付くばかりでなく、相手方の債権にも遅延損害金が付くからである。もとより、このような場合には、裁判所は、当事者に相殺の意思表示をすることを釈明し、促すべきであろう。
 反訴提起した債権を本訴で予備的に相殺の抗弁を主張することは、最高裁判例で認められている。

○ 請負・売買の担保責任の時効等の特則
住宅の品質確保の促進等に関する法律87条・88条は、新築の住宅の請負契約(増改築を含まない)または売買契約につき、政令で定める構造耐力上の主要部分・雨水の浸入を防止する部分については、引渡時から10年間、担保責任を負い、これに反する特約は無効であると規定する。
宅地建物取引業法40条は、宅地建物取引業者が自ら売主で、かつ買主が宅地建物取引業者ではない場合には、引渡時から2年以上とする特約の場合を除き、隠れたる瑕疵を発見した時から1年以内に、瑕疵担保責任を請求することができ(民法570条・566条3項)、これに反する特約は無効であると定めている。

○ 瑕疵担保責任等の免責特約の効力
住宅の品質確保の促進等に関する法律、宅地建物取引業法、特定商取引法、あるいは消費者契約法の類推等が全て適用されない場合には、特約・約款により、担保責任の期間を短縮する、あるいは排除することは可能であると解されている。

○ その他の建築関係者に対する損害賠償請求
不動産仲介業者に対して、仲介契約関係にある場合、故意・過失を要件として(例えば、説明義務違反)、債務不履行責任に基づく損害賠償請求をできる場合がある。
契約関係にある場合、故意・過失を要件として(例えば、説明義務違反)、債務不履行責任に基づく損害賠償請求をできる場合がある。
契約のある場合もない場合も、故意・過失を要件として、不法行為に基づく損害賠償請求ができる。例えば、建売住宅・中古住宅で契約関係にない建築士に対する不法行為に基づく損害賠償請求ができる(最高裁平成15年11月14日判決)。
従前は製造物責任法等の適用されない建築物については施工業者に対する損害賠償請求はできないと解されていた。しかし、現在では、中古住宅の買主は、契約関係にない施工業者に対して、不法行為に基づく損害賠償請求ができると解される裁判例も見受けられる。
 建築関係者の責任が競合した場合、複数の建築関係者の責任は、二重てん補を許すものではないから、不真正連帯債務であると解されている。

○ 特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律
 住宅の品質確保の促進等に関する法律について、新築住宅の売買・請負について、引渡し10年以内に、住宅のうち構造耐力上主要な部分または雨水の浸入を防止する部分について、瑕疵の損害賠償額・補修費用の履行を確保するのが、住宅の品質確保の促進等に関する法律である。
・特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律
 特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律 は、特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律の履行確保の方法として、保険か供託のいずれかを強制している。
・保険の場合
 保険事故があった場合には、損害賠償額・補修費用(以下、損害賠償額と略す)から免責金額10万円を控除した残額の8割が、施工会社が倒産した場合100%が、保険法人から、消費者に直接支払われる。
 保険法人は、瑕疵に該当するか、損害賠償額がいくらかを精査して、支払金額を決める。
 損害賠償額には、調査費用、仮住居移転費用も含まれる。
 実務的には、建築士の調査費用を節約でき、損害賠償額を合理的に算定できるメリットがある。
・供託の場合
 供託については、戸数が多いと1戸当たりの負担が多いが、戸数が多いと1戸当たりの負担額が減り、かつ、建築紛争が起こらない限り、10年後に供託金を取り戻せるので、大手の建築会社にとってメリットがある。しかし、供託はまとめて半年分供託するので、この空白期間に建築会社が倒産した場合には深刻な問題が生じる。また、完成引渡後の瑕疵の損害賠償債権は一般破産債権と考えられるので、わずかな配当しか受けられない可能性が強い。

・リフォーム工事
 リフォーム工事については、リフォーム工事瑕疵保険加入は任意であるが、消費者としては、保険加入業者を選ぶべきである。また、特定商取引法に基づくクーリング・オフで救済される場合もある。要件として、①営業所以外で契約し、②特定商取引法の法定書面受領後8日以内にクーリング・オフの通知を発送したことが必要である。クーリング・オフされると、業者には、無償で原状回復工事等を請求できる(特定商取引法9条6項7項)。業者は消費者に損害賠償できない(特定商取引法9条3項)。その他、業者には、行為規制(特定商取引法3条~6条、省令7条)があり、違反すると、主務大臣に行政処分を要請したり、罰則の規定がある行為類型の場合には罰則が適用される。
・中古住宅の転売
 中古または、住宅の転売について、保険加入は任意である。住宅の品質確保の促進等に関する法律では対象が新築住宅の施主、買主であり、転売すると、次の買主は保護を受けられない。そのため新築引渡し10年以内ならば保険の対象となる特約で、新築の際に無料で任意に保険加入できる。マンションの場合、原則として1棟である。
・私見として残された問題
 事業者間の新築住宅、中古住宅、リフォーム工事、住宅の品質確保の促進等に関する法律の対象ではない部分の瑕疵については、依然として、問題が残されている。事業者間以外については、損害賠償額が多額ではない場合が多く、調査費用等との兼ね合いで、むしろ難しい場合もある。

○ シックハウス
 特定の有害な化学物質が拡散する建築材料・接着剤等(特定建材)については、日本農林規格法(JAS法)、日本工業規格法(JIS法)、建築基準法28条の2・同法施行令20条の4等の改正により規制されるようになった。
 住宅の品質確保の促進等に関する法律では、特定建材については、住宅性能表示制度に基づく「住宅性能評価書」(同法6条)に表示される。
シックハウスについて、瑕疵に該当するかが問題となるが、裁判例はまだ確立していないようであるが、私見では、有害物質が建築基準法令の基準を超える場合には瑕疵に当たると考える。
 シックハウスで、建築基準法令に適合していても、有害物質が出ていれば、部材ではなく、施工の問題と考えられる。あるいは、違う部材を用いている可能性がある。これは、建築基準法に適合していても、建物に雨漏りがあれば瑕疵と考えるのと同じ問題である。ただ、シックハウスの原因自体が未だよくわかっていないし、雨漏りと違って、目に見えにくいから難しいのであるから、有害物質の測定方法を工夫するなどして、瑕疵を特定すればよいのではないか。

○ 修補と建替え
 請負契約について、民法634条ただし書にかかわらず、最高裁平成14年9月24日判決では、建替え相当額の損害賠償請求が認められている。

Ⅲ 請負代金債権を巡る担保物権の交錯
 請負代金債権に成立し得る担保物権として、以下のものが考えられる。
・特別の先取特権(不動産工事の先取特権は登記が対抗要件、動産売買の先取特権)
・一般の先取特権
・債権質(確定日付のある第三債務者への通知または承諾、あるいは、動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律に基づく登録)
・譲渡担保権(債権質と同様の対抗要件のほか、担保権者の占有)
・商事留置権または民事留置権(担保権者の占有)
・なお、修補請負代金が目的物の価値を増して現存している場合には、不当利得返還請求をすることができ、目的物を占有している場合には、留置権の被保全権利となり、第三者に対抗できる。


Ⅳ 借地権付建物の売買または競売
 借地権が存在する場合で、地主が承諾しない場合には、借地借家法等に基づく借地権譲渡の地主の承諾に代わる許可を借地非訟手続で申立てる。
 売買の場合、借地権が存在しない場合には、買主は売主に対して、民法570条に基づく瑕疵担保責任を追及できる。
競売・強制競売については、借地権が存在しない場合には、買受人は、民事執行法により、代金納付前であれば売却不許可決定の申立て、売却決定後であれば、売却許可決定の取消の申立てをする。配当後であれば、配当を受けた債権者等に対する不当利得返還請求をすることができる。


Ⅴ 紛争解決
1 建築関係訴訟の審理の特色
・建築関係訴訟の特質及び問題点
・専門訴訟としての建築関係訴訟への取組
・建築関係訴訟の審理の実際
 建築関係訴訟では、一覧表形式で作成を求められるのは、追加・変更工事、瑕疵、時系列(事実経過)であるが、事案に応じて、争点となっている部分について必要なものを作成することになる。例えば、事実経過については、短期間で工事が済むようなものについては、作成を求められず、準備書面への記載で足りる。もっとも、代理人が手控えとして、予め準備しておく方がベターな場合もある。
 提訴前の証拠保全は利用されるが、提訴前の照会の制度はあまり活用されていない。当事者であれば、質問事項をファックスや電子メールで質問する方が穏当であろう。代理人の場合、配達証明付き内容証明郵便で質問書を送付するからであろう。
なお、建築紛争は、図面・計算式等で説明することが多いので、それについては、別途、他の文献等で補う必要がある。
 東京と大阪の地方裁判所(本庁)のそれぞれの建築部の運用は、ほぼ同様である。
 なお、商事調停の「調停委員会の定める調停条項の制度」は、実務上あまり利用されていない。

2 建築工事に関する仮処分
生活環境をめぐる紛争に関する仮処分として、日照被害(人格権に基づく準物権的請求権説)、騒音、採光・通風の阻害、風害、プライバシー侵害、眺望阻害、景観利益などを理由とする。
日照阻害については、建築基準法の日影規制、北側斜線等の規制を遵守していれば、おおむね受忍限度内と判断される。
ただし、建築工事に伴う建設車両の出入り、騒音等については、建築基準法が定めておらず、民法の不法行為に基づく損害賠償請求であるから、「迷惑料」的な金銭解決を求められることもある。
敷地利用権(借地借家法など)、相隣関係、通行権などがある。これらは、民法などの規定が根拠で、被保全権利の有無が比較的明確である。

3 住宅紛争に関する弁護士会のADR
 弁護士会またはその他ADR機関に設置されている「住宅紛争審査会」は、住宅の品質確保の促進等に関する法律に基づく「建設住宅性能評価書」(同法5条以下)が交付された新築住宅の建築請負契約または売買契約に関する紛争について限定されている(同法63条1項)。また、特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律 により、保険が適用される場合または供託されている場合も、対象である。
 消費者は、無料で弁護士、建築士の相談を1年以内に同一事件で3回まで受けることができる。
 保険付き住宅について、申立て費用1万円および実費で解決できる裁判外の手続の建築紛争紛争処理制度がついている。ただし、裁判をすることはできる。
その他の住宅紛争は、一般のあっせん、調停、仲裁等の手続による。

4 行政による建築紛争の予防と調整
 建築確認が建設主事だけでなく指定確認検査機関も行えるようになったこと、建築確認を受理しないで行政指導することは行政手続法に違反すること等の理由から、行政による建築紛争の予防については、工事現場に建築計画の標識を設置し、周辺住民に対する説明会を開催し、説明をして、資料を配布すれば足りるようになった。
 「中高層建築物の建築に関わる紛争の予防と調整に関する条例」に基づくあっせん、調停については、建築基準法等の行政法規を遵守していれば、それ以上の行政機関の介入がないので、そもそも建築主等は応じないことも多い。あっせん等の手続が行われる場合には、建築工事期間との兼ね合いから、短期間でなされる。
日照被害等の補償・慰謝料等の金銭的解決については、行政機関は、一切関与しない。仮に行政ADRで和解が成立しても、民法上の和解であって、裁判と同様の効力(特に強制執行力)はない。


Ⅵ 保険
 住宅保険については、
・特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律により、瑕疵担保責任を履行するための保険
・住宅総合保険
 住宅の火災保険と家財についての火災・盗難等の保険である。
・借家人賠償責任保険
 失火を起こした借家人は、家主に対する債務不履行責任(賃貸借契約の保管義務違反)を免れない。このような場合の借家人は、軽過失の失火については免責される旨を規定する失火責任法によって免責されない。
・地震保険特約
 税法の改正により、地震保険特約が普及している。

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