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2023年11月01日
オンラインゲームで不正が可能なソフトウェアを販売することが,偽計業務妨害幇助罪に該当するとした事例

オンラインゲームで不正が可能なソフトウェアを販売することが,偽計業務妨害幇助罪に該当するとした事例

 

 

              偽計業務妨害幇助,不正指令電磁的記録作成等被告事件

【事件番号】      東京高等裁判所判決/令和元年(う)第929号

【判決日付】      令和元年12月17日

【判示事項】      1(1)偽計業務妨害罪における偽計とは,欺罔,計略,策略等,威力以外の不正の手段であって,悪戯の程度を越えるものと解され,偽計を用いたといえるためには,人の意思に対して働き掛けることは必ずしも必要ではないとした事例

           (2)オンラインゲームで不正が可能なソフトウェアを販売することが,偽計業務妨害幇助罪に該当するとした事例

             2 不正指令電磁的記録に当たるといえるためには,プログラムに悪用の可能性があるというだけでは足りず,当該プログラムが,実行者の意図に反する動作をさせる指令を与えると客観的,一般的に想定される必要があるとし,1つの用途として,他人の携帯電話機を遠隔操作して,LINEメッセージ,通話履歴などをインターネット回線を通じて特定のサーバコンピュータへ送信させ,閲覧することを可能にするソフトウェアが,不正指令電磁的記録に該当するとした事例

【判決要旨】      1 本件は,被告人が代表取締役を務めるコンピュータのソフトウェア開発会社Aにおいて開発・販売したソフトウェア「ゴーストルーター」及び「アンドロイドアナライザー」が問題となった事案である。

             2 ゴーストルーターは,様々なオンラインゲームで不正行為(チート行為)ができ,特に,「パズル&ドラゴンズ」を携帯電話機等で遊戯する際,課金機会を減少させることができるといった不正行為を宣伝して販売された。パズル&ドラゴンズは,基本的には無料で遊戯できるが,より有利にゲームを進めるためには課金をしてゲーム中で使用するアイテム等を購入する必要がある。課金機会が増えれば,料金が多くかかることとなるが,ゴーストルーターを使用することにより,課金機会を減らすことができるという販売促進活動を行っていた。ゲーム運営会社は,無料にしてゲーム参加者の裾野を広げ,課金によって利益を出していたのであり,不正行為によって課金機会が減れば,利益が減り,経営が成り立たなくなる可能性もある。本件では,ゴーストルーター購入者が,同ソフトを使用して,パズル&ドラゴンズを遊戯し,その際,課金機会を減少させて遊戯したことから,課金機会の減少を捉えて,購入者であり,遊戯をした者について,偽計業務妨害罪に問擬し,ゴーストルーターを販売・提供した被告人は,これを幇助したとして,偽計業務妨害幇助罪に問われた。

             弁護人は,偽計業務妨害罪における偽計とは,人の意思に働き掛け,困惑させ,又は判断を誤らせることを意味するから,偽計業務妨害罪が成立するためには,人の意思に対して働き掛けることが必要であるが,本件では,ゲーム運営会社のサーバコンピュータと遊戯者との間の通信のやり取りをしたに過ぎず,人の意思に対して働き掛けてはいないのであるから,偽計による業務妨害は成立しない旨主張した。 

しかし,控訴審は,偽計業務妨害罪における偽計とは,欺罔,計略,策略等,威力以外の不正の手段であって,悪戯の程度を越えるものと解され,偽計を用いたといえるためには,人の意思に対して働き掛けることは必ずしも必要ではないとして,弁護人の主張を斥けた。

             また,弁護人は,ゴーストルーターがパズル&ドラゴンズ専用のソフトウェアではなく,汎用性のあるものであって,購入者全員がパズル&ドラゴンズに利用するとは限らないとして,ゴーストルーターの販売は,外形的には中立的な行為であるとし,このような中立的な行為による幇助行為については,Winny事件の最高裁決定(最決平成23年12月19日)に依拠し,ゴーストルーター購入者が業務妨害行為に利用する一般的可能性があるというだけでは足りず,ゴーストルーター購入者のうち例外的とはいえない範囲の者がゴーストルーターを業務妨害行為に利用する場合でなければならず,本件では,例外的とはいえない範囲の者がゴーストルーターを偽計業務妨害に利用する蓋然性が高いとは認められず,ソフトウェアの提供は,幇助には該当しない旨主張した。

しかし,控訴審は,ゴーストルーターは,パズル&ドラゴンズに限らず,オンラインゲームにおいて不正な行為をするためのソフトとして開発され,開発会社の利益のために販売されたのであるから,このようなソフトウェアは,Winnyとは異なり,価値中立的なソフトウェアとはいえず,Winnyと同列に扱うことはできず,Winnyのように幇助の範囲を限定する必要はなく,不正行為に用いられることを認識,認容しながらこれを販売した以上,偽計業務妨害幇助罪の成立は妨げられないとした。

             なお,原審は,ゴーストルーターがパズル&ドラゴンズ専用のソフトウェアではなく,汎用性のあるものであって,購入者全員がパズル&ドラゴンズに利用するとは限らないとして,Winny事件の最高裁決定に依拠し,ゴーストルーター購入者が業務妨害行為に利用する一般的可能性があるというだけでは足りず,ゴーストルーター購入者のうち例外的とはいえない範囲の者がゴーストルーターを業務妨害行為に利用する場合でなければならず,本件では,例外的とはいえない範囲の者がゴーストルーターを偽計業務妨害に利用する蓋然性が高いとして,処罰範囲を限定して解釈したが,控訴審は,ゴーストルーターは,パズル&ドラゴンズをはじめとするオンラインゲームのチートツール以外に利用する者がいるとは考え難いのであって,ゴーストルーターがWinnyと同様の価値中立ソフトといえないことは明らかであって,原審のように処罰範囲を限定する必要はないと判示した。

             3 アンドロイドアナライザーは,アンドロイドOSが稼働する電子計算機である携帯電話機にインストールすれば,遠隔操作で,同携帯電話機に記録されたLINEメッセージ,通話履歴,SMSメッセージ,電話帳データ,端末位置情報,動画・静止画等をインターネット回線を通じて特定のサーバコンピュータに送信する指令等を与えるソフトウェアであり,他人の携帯電話機にインストールすれば,携帯電話機の持ち主に知られることなく,遠隔操作で,携帯電話機に記録されたLINEメッセージ,通話履歴等を閲覧することが可能であり,浮気調査用として使用することが可能なソフトウェアである。

弁護人は,不正指令電磁的記録作成罪にいう,人の意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録とは,一般人が知らないうちにインストールして動作するような機能を有するソフトウェア,当該機能の存在を秘匿しているため,一般人であれば当該機能が含まれることを知らずに動作させてしまうようなソフトウェア,意図に反して実行すること以外の用途が想定されないソフトウェアに限られると解すべきであり,アンドロイドアナライザーは,いわゆるコンピュータウィルスのように,一般人が知らないうちにインストールされるものではなく,携帯電話機内のデータの送信機能は秘匿されておらず,浮気調査以外の用途も想定され,購入者がすべて浮気調査のために他人の携帯電話機にインストールするとは限らないことから,不正指令電磁的記録には該当しないと主張した。

しかし,控訴審は,不正指令電磁的記録作成等罪の構成要件の文言に照らして,法が,弁護人主張のような場合に不正指令電磁的記録の範囲を限定しているとは解されず,原判決が,不正指令電磁的記録に当たるといえるためには,プログラムに悪用の可能性があるというだけでは足りず,当該プログラムが,実行者の意図に反する動作をさせる指令を与えると客観的,一般的に想定される必要があると説示して,不正指令電磁的記録に該当する場合を限定する解釈を採っているところ,このような解釈は,電子計算機のプログラムが,電子計算機に対し,使用者の意図に沿うべき動作をせず,又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与えるものではないという,社会一般の信頼を保護しようという同罪の立法趣旨に照らして,相当であるとして是認した上,アンドロイドアナライザーは,主に浮気調査目的に使用する者を顧客と見込んで販売促進活動をしてきたのであるから,浮気調査目的で購入する者に提供されることが客観的に想定され,購入者が,浮気調査目的のため,第三者の合意を得ずに,当該第三者が使用するアンドロイド端末にアンドロイドアナライザーをインストールして,当該第三者が知らないうちに実行することが一般に想定され,それがインストールされたアンドロイド端末の使用者のうち例外的とはいえない範囲の者が,実行する意思がない状態でそれを実行させられることが想定されるから,アンドロイドアナライザーは,実行者の意図に反する動作をさせる指令を与えると客観的,一般的に想定されることから,不正指令電磁的記録に該当するとして,弁護人の主張を斥けた。

【参照条文】      刑法233

             刑法62-1

             刑法168の2-1

【掲載誌】        高等裁判所刑事裁判速報集令和元年362頁

 

 

刑法

(幇ほう助)

第六十二条 正犯を幇ほう助した者は、従犯とする。

2 従犯を教唆した者には、従犯の刑を科する。

 

信用毀損及び業務妨害)

第二百三十三条 虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

 

(不正指令電磁的記録作成等)

第百六十八条の二 正当な理由がないのに、人の電子計算機における実行の用に供する目的で、次に掲げる電磁的記録その他の記録を作成し、又は提供した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

一 人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録

二 前号に掲げるもののほか、同号の不正な指令を記述した電磁的記録その他の記録

2 正当な理由がないのに、前項第一号に掲げる電磁的記録を人の電子計算機における実行の用に供した者も、同項と同様とする。

3 前項の罪の未遂は、罰する。

 

 

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