第21章 不利益事実の不告知の要件緩和(4条2項)
誤認取消の1類型である不利益事実の不告知の要件が緩和されました。改正前は、事業者が消費者に有利な事実を告げ、かつ、不利益な事実を「故意に」告げなかった場合にのみ誤認取消が認められていたところ、2018年改正法では、「故意」を「故意又は重過失」と改正することで、消費者の立証の困難さを緩和し、消費者被害の救済範囲の拡大を図りました。
1 不利益事実の不告知の要件の緩和
(1)「重大な過失」の追加
旧法4条2項は、消費者は、事業者が故意に不利益事実の不告知を行ったことにより誤認をし、それによって当該消費者契約の申込みまたはその承諾の意思表示をした時は、これを取り消すことができるものとしています。しかし、現実には、消費者が事業者の故意を立証することは困難です。そこで改正法では、事業者に重大な過失があった場合でも取り消し得ることとしました。
(2)「重大な過失」の意味
「重大な過失」とは、わずかの注意をすれば容易に有害な結果を予見し、回避することができたのに、漫然と看過したというような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態をいいます。
例えば、宅建業者である事業者が、日照良好と説明しつつ、隣地にマンションが建つことを告げずにマンションを販売した際に、隣地のマンションの建設計画に関する説明会が当該事業者も参加可能な形で実施されていたような場合がこれに該当します。
⑵ 「不利益事実の不告知」の要件緩和
「不利益事実の不告知」による取消権は、事業者が一定の事項に関して消費者の利益になるような説明をしながら、それに付随する不利益な事実を説明しなかったような場合に認められる取消権です。例えば、南側に新しい高層マンションの建築計画があることを知りながら、日当たりが良いなどといって分譲マンションの購入を勧めるような場合がそれにあたります。旧法ではこの「不利益事実の不告知」による取消が認められるためには「不利益事実の不告知」につき事業者に故意があったことが必要とされており、このことが取消権の行使を妨げているとの指摘がなされていました。
そこで、改正法では、事業者の故意に加えて重過失があった場合にも取消権の行使ができるものとされました。この改正により、「不利益事実の不告知」の活用がより進むことが期待されています(改正法4条2項)。