道路法、河川法、海岸法
テーマ:不動産に関する行政法規
『重要判例とともに読み解く 個別行政法』
○国土整備法
「道路法、河川法、海岸法」
公共用物である道路と河川を対比しつつ、管理者(国家賠償法3条)、使用許可、安全性(国家賠償法2条1項)について、人工公物としての道路、自然公物である河川を論じている。
なお、海岸法に関する最高裁判例も引用されている。
占有許可と裁量
最高裁平成19・12・7
1 海岸法37条の4の規定に基づく一般公共海岸区域の占用の許可の申請があった場合において,当該占用が当該一般公共海岸区域の用途又は目的を妨げないときであっても,海岸管理者は,同法の目的等を勘案した裁量判断として占用の許可をしないことが相当であれば,占用の許可をしないことができる。
2 採石業等を目的とする会社が,岩石の採取計画の認可を受けた採石場に近接する一般公共海岸区域に岩石搬出用の桟橋を設けるため,海岸法37条の4の規定に基づいて,上記一般公共海岸区域の管理者である県知事に対し,その占用の許可の申請をした場合において,上記会社が上記桟橋を設けて上記一般公共海岸区域を占用してもその用途又は目的を妨げないこと,上記占用の許可がされなければ上記採石場において採石業を行うことが相当に困難になることがうかがわれること,その他上記申請をめぐる判示の事情の下では,県知事から権限の委任を受けた県土木事務所長がした上記占用の許可をしない旨の処分は,裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものとして違法となる。
公法上の法律関係確認訴訟の訴えの利益
最高裁平成1・7・4
土地の所有者から河川管理者に対し、当該土地につき河川法上の処分をしてはならない義務があることの確認ないし河川法上の処分権限がないことの確認、及び、当該土地が同法にいう河川区域でないことの確認を求める訴えは、いずれも河川法75条に基づく監督処分その他の不利益処分をまってこれに関する訴訟等において事後的に争ったのでは回復しがたい重大な損害を被るおそれがある等特段の事情がないときは、その利益を欠き不適法である。
道路と公営造物責任(国家賠償法2条1項)
最高裁平成7・7・7(国道43号線訴訟)
一般国道等の道路の周辺住民がその供用に伴う自動車騒音等により被害を受けている場合において、右道路の周辺住民が現に受け、将来も受ける蓋然性の高い被害の内容が、睡眠妨害、会話、電話による通話、家族の団らん、テレビ・ラジオの聴取等に対する妨害及びこれらの悪循環による精神的苦痛等のいわゆる生活妨害にとどまるのに対し、右道路が地域間交通や産業経済活動に対してその内容及び量においてかけがえのない多大な便益を提供しているなど判示の事情の存するときは、右道路の周辺住民による自動車騒音等の一定の値を超える侵入の差止請求を認容すべき違法性があるとはいえない
最高裁同
一 一般国道等の道路の周辺住民がその供用に伴う自動車騒音にほぼ一日中暴露されている場合、右道路の周辺地域を交通量によって3地域に道路構造によって4区画に分類した上、右道路端からの遠近や右道路への見通しの程度に基づき、周辺住民を合計19のグループに分け、鑑定の結果を基本にして、右グループごとに上限と下限の等価騒音レベルによる数値を抽出し、その幅のある数値をもって同一のグループに属する各住民が日常暴露された原則的な屋外騒音レベルと推認することに違法はない。
二 一般国道等の道路の周辺住民がその供用に伴う自動車騒音等により睡眠妨害、会話、電話による通話、家族の団らん、テレビ・ラジオの聴取等に対する妨害及びこれらの悪循環による精神的苦痛等の被害を受けている場合において、右道路は産業物資流通のための地域間交通に相当の寄与をしているが、右道路が地域住民の日常生活の維持存続に不可欠とまではいうことのできないいわゆる幹線道路であって、周辺住民が右道路の存在によってある程度の利益を受けているとしても、その利益とこれによって被る被害との間に、後者の増大に必然的に前者の増大が伴うというような彼此相補の関係はないなど判示の事情の存するときは、右被害は社会生活上受忍すべき限度を超え、右道路の設置又は管理には瑕疵があるというべきである。
三 一般国道等の道路の供用に伴う自動車騒音によるいわゆる生活妨害を被害の中心とし、多数の被害者から全員に共通する限度において各自の被害につき一律の額の慰謝料が請求された場合について、受忍限度を超える被害を受けた者とそうでない者とを識別するため、被害者の居住地における屋外等価騒音レベルを主要な基準とし、右道路端と居住地との距離を補助的な基準としたのは、侵害行為の態様及び被害の内容との関連性を考慮したものとして不合理ではなく、この基準の設定に違法はない。
河川水害と公営造物責任(国家賠償法2条1項)
最高裁昭和59・1・26(大東水害訴訟、未改修河川の場合、「改修計画にしたがった過渡的な安全性」論)
一 河川の管理についての瑕疵の有無は、過去に発生した水害の規模発生の頻度、発生原因、被害の性質降雨状況、流域の地形その他の自然的条件、土地の利用状況その他の社会的条件、改修を要する緊急性の有無及びその程度等諸般の事情を総合的に考慮し、河川管理における財政的、技術的及び社会的諸制約のもとでの同種・同規模の河川の管理の一般水準及び社会通念に照らして是認しうる安全性を備えていると認められるかどうかを基準として判断すべきである。
二 改修計画に基づいて現に改修中である河川については、右計画が、全体として、過去の水害の発生状況その他諸般の事情を総合的に考慮し、河川管理の一般水準及び社会通念に照らして、格別不合理なものと認められないときは、その後の事情の変動により未改修部分につき水害発生の危険性が特に顕著となり、早期の改修工事を施行しなければならないと認めるべき特段の事由が生じない限り、当該河川の管理に瑕疵があるということはできない。
最高裁平成2・12・13(長良川水害訴訟、改修済み河川の場合)
一 工事実施基本計画に準拠して新規の改修、整備の必要がないものとされた河川における河川管理の瑕疵の有無は、同計画に定める規模の洪水における流水の通常の作用から予測される災害の発生を防止するに足りる安全性を備えているかどうかによって判断すべきである。
二 河川の改修、整備がされた後に水害発生の危険の予測が可能となった場合における河川管理の瑕疵の有無は、過去に発生した水害の規模、発生の頻度、発生原因、被害の性質、降雨状況、流域の地形その他の自然的条件、土地の利用状況その他の社会的条件、改修を要する緊急性の有無及びその程度等諸般の事情並びに河川管理における財政的、技術的、社会的諸制約をその事案に即して考慮した上、右危険の予測が可能となった時点から当該水害発生時までに右危険に対する対策を講じなかったことが河川管理の瑕疵に該当するかどうかによって判断すべきである。
三 河道内に許可工作物の存在する河川部分における河川管理の瑕疵の有無は,当該河川部分の全体について、判断すべきである。
損失補償
最高裁大法廷昭和43・11・27(河川砂利採取事件)
一 河川附近地制限令第4条第2号、第10条は、憲法第29条第3項に違反しない。
二 財産上の犠牲が単に一般的に当然に受認すべきものとされる制限の範囲をこえ、特別の犠牲を課したものである場合には、これについて損失補償に関する規定がなくても、直接憲法第29条第3項を根拠にして、補償請求をする余地がないではない。
最高裁昭和58・2・18(ガソリンスタンド損失補償事件)
道路法70条1項の定める損失の補償の対象は、道路工事の施行による土地の形状の変更を直接の原因として生じた隣接地の用益又は管理上の障害を除去するためにやむをえない必要があってした通路、溝、垣、柵その他これに類する工作物の新築、増築、修繕・移転又は切土・盛土の工事に起因する損失に限られる。
道路工事の施行の結果、危険物の保管場所(ガソリンスタンドの地下貯蔵タンク)等につき保安物件(地下道)との間に一定の離隔距離を保持すべきことを内容とする技術上の基準を定めた警察法規に違反する状態を生じ、危険物保有者(ガソリンスタンド事業者)が右の基準に適合するように工作物(地下貯蔵タンク)の移転等を余儀なくされたことによって被った損失は、右補償の対象には属しない。