第2部 コーポレートガバナンスに関する改正
第3章 監査等委員会設置会社の新設
(1) 監査等委員会設置会社の新設
新たな機関設計として、3名以上の取締役から成り、そのうち過半数は社外取締役である監査等委員会を置く、監査等委員会設置会社が創設されました(2条第11の2、331条第3項、第6項)。監査等委員会設置会社は、社外取締役を積極的に活用すること及び取締役会による業務執行者の監督を強化することを目的としており、定款で定めることにより、株式会社であれば設置することができます(326条第2項)。
監査等委員会設置会社では、監査等委員会、取締役会及び会計監査人の設置が必須とされていますが、監査役は設置することができません(会327条第1項、第4項、第5項)。そして、監査等委員会は取締役の業務執行を監督する立場にあるため、監査等委員である取締役は業務を執行することはできません(会331条第3項)。また、監査等委員は株主総会において、取締役の選任等について意見を述べることができるとされています(342条の2第1項・第4項)。
なお、常勤の監査等委員を設置した場合には、事業報告においてその旨を記載することになります(施行規則第121条10号)。
上場会社における従来の主な機関設計は①監査役会設置会社及び②委員会等設置会社の2パターンでしたが、改正後の主な機関設計は、①監査役会設置会社、②指名委員会等設置会社(従来の委員会等設置会社から名称変更されました)及び③監査等委員会等設置会社の3パターンになります。
(2) 社外取締役等の要件の見直し
改正会社法においては、社外取締役及び社外監査役になれない者の人的な範囲を拡大(会社、子会社だけでなく、親会社や兄弟会社の業務執行者等、会社の業務執行者等の近親者を追加)する一方で、過去に取締役等であった場合の期間制限が設けられました。社外取締役等の具体的な要件は以下のとおりです。
① 社外取締役(2条15号)
イ 会社または子会社の業務執行取締役等(※)ではなく、就任前10年間その会社または子会社の業務執行取締役等でなかったこと
ロ 就任前10年以内にその会社または子会社の取締役、会計参与又は監査役であった者(業務執行取締役等は除く)については、その就任前10年間業務執行取締役等でなかったこと
ハ 現在親会社の取締役、使用人等でないこと
ニ 現在親会社の子会社等(兄弟会社)の業務執行取締役等でないこと
ホ 当該会社の取締役等の配偶者または2親等以内の親族でないこと
※ 業務執行取締役等とは、(ⅰ) 代表取締役、(ⅱ)代表取締役以外の取締役であり取締役会の決議によって選定された取締役会設置会社の業務を執行する取締役、(ⅲ)当該株式会社の業務を執行したその他の取締役、をいいます。
② 社外監査役(会2条16号)
イ 就任前10年間その会社または子会社の取締役等でなかったこと
ロ 就任前10年以内にその会社または子会社の監査役であった者については、その就任前10年間業務執行取締役等でなかったこと
ハ 現在親会社の取締役、監査役等でないこと
ニ 現在親会社の子会社等(兄弟会社)の業務執行取締役等でないこと
ホ 当該会社の取締役等の配偶者または2親等以内の親族でないこと
(3) 社外取締役を置くことが相当でない理由の開示
社外取締役の設置はコーポレート・ガバナンスを強化するという観点からも重視されている事項です。改正会社法では、社外取締役を置いていない場合、定時株主総会において「社外取締役を置くことが相当でない理由」を説明しなければならないとされており(327条の2)、具体的には事業報告に「社外取締役を置くことが相当でない理由」を記載することになります(施行規則124条第2項)。また、社外取締役の候補者を含まない取締役の選任議案を株主総会に提出するときは、株主総会参考資料に「社外取締役を置くことが相当でない理由」を記載することになります(施行規則74条の2第1項)。
(4) 会計監査人の独立性の強化
従来、会計監査人の選解任等の議案は取締役又は取締役会が提出するものとされていましたが、会計監査人の独立性をより強化するという観点から、監査役等が議案を提出するものとされました(会344条第1項)。ただし、会計監査人の報酬等については引き続き取締役または取締役会が決定します。
会計監査人の選解任等に関する議案の内容の決定権を有する機関を,取締役又は取締役会から監査役又は監査役会に変更することとして,会計監査人の独立性を強化しています。
株主総会に提出する会計監査人の選任及び解任並びに会計監査人を再任しないことに関する議案の内容は、監査役又は監査役会が決定する。(第344条関係)
改正による変更点は以下のとおりです。
|
改正前 |
改正後 |
会計監査人の報酬等の決定 |
取締役または取締役会 (監査役は同意権を有する)
|
取締役または取締役会 (従来とおり監査役は同意権を有する) |
会計監査人の選任・解任・不再任の決定 |
取締役または取締役会 |
監査役(監査役会) 監査委員会 監査等委員会
|
なお、改正に伴い、監査役等が会計監査人の候補者とした理由について、株主参考書類に記載することになりました(施行規則77条第3号)。
監査等委員会設置会社
(1) 監査等委員会の設置
① 株式会社は、定款の定めによって、監査等委員会を置くことができる。(第326条第2項関係)
② 監査等委員会設置会社には、取締役会及び会計監査人を置かなければならない。監査等委員会設置会社は、監査役を置いてはならない。指名委員会等設置会社は、監査等委員会を置いてはならない。(第327条第1項第3号・第4項~第6項関係)
(2) 監査等委員である取締役の選任等
① 監査等委員である取締役は、それ以外の取締役とは区別して、株主総会の決議によって選任しなければならない。(第309条第2項第7号、第329条第2項、第342条の2第1項~第3項、第344条の2関係)
② 監査等委員である取締役は、3人以上で、その過半数は、社外取締役でなければならない。監査等委員は、監査等委員会設置会社又はその子会社の業務執行者等を兼ねることができない。(第331条第3項・第6項関係)
③ 監査等委員会設置会社においては、取締役の任期は、監査等委員である取締役については選任後2年以内に、それ以外の取締役については選任後1年以内にそれぞれ終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。(第332条第3項・第4項関係)
(3) 監査等委員会の権限等
① 監査等委員会は、次に掲げる職務を行う。(第399条の2関係)
ア 取締役及び会計参与の職務の執行の監査及び監査報告の作成
イ 株主総会に提出する会計監査人の選任及び解任並びに会計監査人を再任しないことに関する議案の内容の決定
② 監査等委員会が選定する監査等委員は、いつでも、取締役及び会計参与並びに支配人その他の使用人に対し、その職務の執行に関する事項の報告を求め、又は監査等委員会設置会社の業務及び財産の状況の調査をすることができる。(第399条の3関係)
③ 監査等委員は、取締役による法令違反等があると認めるときは、遅滞なく、その旨を取締役会に報告しなければならない。(第399条の4関係)
④ 監査等委員は、取締役が株主総会に提出しようとする議案、書類その他法務省令で定めるものについて法令違反等があると認めるときは、その旨を株主総会に報告しなければならない。(第399条の5関係)
⑤ 監査等委員は、取締役が法令違反等の行為をする場合等において、当該行為によって当該監査等委員会設置会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、当該取締役に対し、当該行為をやめることを請求することができる。(第399条の6関係)
⑥ 監査等委員会が選定する監査等委員は、株主総会において、監査等委員である取締役以外の取締役の選解任等について監査等委員会の意見を述べることができる。(第342条の2第4項関係)
⑦ 監査等委員会が選定する監査等委員は、株主総会において、監査等委員である取締役以外の取締役の報酬等について監査等委員会の意見を述べることができる。(第361条第6項関係)
⑧ 取締役(監査等委員であるものを除く。)との間の利益相反取引について、監査等委員会の承認を受けたときは、取締役の任務懈怠の推定規定は適用しない。(第423条第4項関係)
(4) 監査等委員会の運営
招集権者、招集手続等の監査等委員会の運営について、指名委員会等設置会社の監査委員会の運営に関する規定に相当する規定を置く。(第399条の8~第399条の12関係)
(5) 監査等委員会設置会社の取締役会の権限等
① 監査等委員会設置会社の取締役会は、次に掲げる職務を行う。(第399条の13第1項~第3項関係)
ア 経営の基本方針その他監査等委員会設置会社の業務執行の決定
イ 取締役の職務の執行の監督
ウ 代表取締役の選定及び解職
② 監査等委員会設置会社の取締役会は、原則として、重要な業務執行の決定を取締役に委任することができない。取締役の過半数が社外取締役である場合又は定款の定めがある場合には、一定の事項を除き、重要な業務執行の決定を取締役に委任することができる。(第399条の13第4項~第6項関係)
③ 取締役会の招集権者の定めがある場合であっても、監査等委員会が選定する監査等委員は、取締役会を招集することができる。(第399条の14関係)
(6) その他の規定の整備
監査等委員会設置会社制度の創設に伴い、改正前の「委員会設置会社」の呼称を「指名委員会等設置会社」とする。(第2条第12号等関係)