第1章 刑事訴訟法の平成28年改正の概要
(1)取調べの可視化
裁判員裁判対象事件等一定の重大事件については、警察および検察は逮捕・勾留されている被疑者の取調べを行うときは、その全過程を録音・録画することが義務付けられます。そして公判段階で被告人の供述の任意性が争われた場合には取調べを録音・録画した記録媒体の証拠調べを請求しなくてはなりません。従来任意性が争われた場合には通常、取調べを行った捜査官の証人尋問が行われていましたが、より明確な立証が可能となると考えられます。
(2)合意制度(司法取引)の導入
一定の薬物銃器犯罪、経済犯罪を対象として弁護人の同意を条件に検察官が被疑者・被告人と取引をすることが可能となります。被疑者・被告人が他人の犯罪事実を明らかにするために供述や証言等をする代わりに、検察官が不起訴や求刑の軽減等を行う合意を行います。裁判所で自己に不利益な証言をする代わりに裁判所の決定で免責することも可能となります。
(3)通信傍受の拡大
これまで薬物・銃器犯罪に限定されていた通信傍受の対象事件に殺人、略取・誘拐、詐欺、窃盗、児童ポルノ事件を追加します。あらかじめ役割の分担に従って行動する人の結合体により行われると疑うに足りる状況を要件として通信の傍受を行うことができます。昨今増加の一途をたどる振り込め詐欺等を念頭に置いていると思われます。また通信傍受の実施の適正確保のため暗号技術等を用いることになります。