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2023年12月18日
刑事訴訟法の司法取引その3 第3章 司法取引制度と刑事免責制度について  

第3章 司法取引制度と刑事免責制度について

 2018年(平成30年)6月1日から、2016年(平成28年)に改正された刑事訴訟法の一部が施行されることとなり、新たに司法取引制度と刑事免責制度が導入されました(その他、国選弁護対象事件の拡大という改正点もありますが、今回は省略します)。

企業犯罪の摘発に主眼を置いているとも思われる日本版「司法取引」の規定が新設されております。今回は改正概要と司法取引規定について見ていきたいと思います。

 

 まず司法取引制度ですが、「司法取引」という単語からは、“(アメリカ流の)自分が罪を犯したことを認める代わりに減刑を求める”といったものを想像しがちですが、今回日本で導入された司法取引制度は、これとは異なります。

具体的には、“被疑者・被告人が、他人の犯罪についての捜査・公判に協力することと引き換えに、弁護人の同意のもと、検察官が協力した被疑者・被告人に恩典を付与することを合意する”という内容です。自分の罪を認めるのではなく、標的者の事件の捜査・公判に協力することと引き換えに恩恵を受けることから、捜査公判協力型司法取引と表現されることがあります。

なお、合意の主体は協力者たる被疑者・被告人と検察官であり、かつ、弁護人の同意が必要とされています。

 この司法取引は、どのような事件でも可能というわけではなく、刑事訴訟法が「特定犯罪」と規定する犯罪に限って認められます(刑事訴訟法350条の2第2項)。該当する犯罪を逐一挙げることはしませんが、生命・身体に対する犯罪では適用されず、組織的犯罪や財政経済犯罪に適用されることが多いというイメージです。

これらの「特定犯罪」に関して、協力者が、①標的者の刑事事件について被疑者・参考人としての取調べで真実の供述をする、②標的者の刑事事件の証人尋問で真実の供述をする、③標的者の刑事事件について証拠提出その他の証拠収集に必要な協力をする、という内容の協力をすることと引き換えに、協力者の刑事事件の検察官が、協力者の事件に関して(ア)不起訴処分や(イ)公訴取消、(ウ)特定の訴因や罰条での起訴とその維持等を行うことを合意するというものです。

このような司法取引制度については、例えば合意権限のない司法警察職員が、協力者に対して司法取引の「提案」を行った場合に、協力者が検察官と合意をしたつもりになって標的者の刑事事件の捜査・公判に協力をするといったことがないように、協力者の弁護人は、制度の正確な情報を教示することが必要となります。また、協力者の協力内容が虚偽であることが判明した場合等には、合意は解消されることになりますが、その真実性の見極めも必要になります。更に、標的者の弁護人の立場としては、司法取引によって標的者に不利な証言が出てくることになりますので、その証拠評価を慎重に行わなければならないでしょう。

もっとも、最終的な判決内容は裁判所が決めるわけですし、検察官が上記の(ア)から(ウ)等の恩典を与えたとしても、裁判所がそれに拘束される訳ではありません。ですから、弁護人に就任している被疑者・被告人に対して司法取引の余地がある場合は、その辺りのデメリットついても説明を行った上で、司法取引に応じるかどうかを相談する必要がありそうです。

 

 次に、刑事免責制度は、証人から刑事訴訟法で認められる証言拒絶権を剥奪して、事実上証言を強制させる(宣誓拒絶罪や証言拒否罪、偽証罪の適用範囲とする)代わりに、そこで得られた証言内容や、その証言を基にして得られた派生証拠については、当該証人の刑事事件において証拠として使用することを禁止するというものです。証言拒絶権とは、「何人も、自己が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受ける虞のある証言を拒むことができる。」という形で法律に規定があり(法146条)、憲法38条1項の自己負罪拒否特権に由来する重要な権利ですが、これを制限するというものです。

 この刑事免責制度は、検察官が裁判所に対して証人の証言拒絶権を剥奪する条件で尋問を行うことを請求し、裁判所がこれを認める決定を行うという形でなされるものですから、司法取引のように、被疑者・被告人と検察官が合意をするといった形で活用されるものではありません。また、司法取引のように、「特定犯罪」に限り認められるものでもありませんから、今後も検察の側から利用される頻度は高くなると思われます。

 なお、刑事免責制度の適用があったとしても、証言をした人物が必ず無罪となるわけではなく、他の証拠から有罪認定が可能な場合は有罪判決を受けることがあります(実際に、刑事免責が初適用された事件では、証言を行った人物は自身の事件で有罪判決を受けているようです)。また証言内容は自身の刑事事件において有罪の証拠としては使用されませんが、民事事件における利用は制限されないということに注意が必要です。

弁護人としての立場で考えると、例えば自分が担当する事件の被疑者・被告人との間で、弁護方針として黙秘を貫いている場合に、他人の事件の証人として呼ばれ、刑事免責の適用を受けるといった場合には、そこでの証言を強制されることになりますので、対応に工夫が必要になるなという点が気になるところです。

 

 以上のような司法取引制度や刑事免責制度については、法律の条文上も若干複雑な部分がありますので、刑事弁護を業務内容としている弁護士にとっては、日々研鑽を積み重ねていかなければならないところです。

 

今回の改正の目玉とも言うべき合意制度についてもう少し詳しく見ていきます。改正刑事訴訟法350条の2各項によりますと、①特定の犯罪において②「他人の刑事事件」に関し③取調べで供述、公判等で証言、証拠の提出等を行い④それに対して不起訴、公訴取消、特定の訴因・罰条の加減、略式・即決手続に付する等の合意をすることができます。この合意をするに当たっては、それにより得られる情報、証拠の重要性、犯罪への関連性、犯罪の重大性等を考慮して必要性を判断することになります。またこの合意をするためには弁護人の同意も必要となります(350条の3第1項)。そして対象となる特定の犯罪とは、汚職や横領等の刑法犯(350条の2第2項1号)、組織犯罪処罰法違反(同2号)の他に租税法、独禁法、金商法が挙げられております(同3号)。3号の企業犯罪に関しては「その他・・・政令で定めるもの」として今後も随時追加されていくことが予定されております。

 

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