第7章 司法取引の対象となる特定犯罪とは
特定の犯罪という言葉のとおり、すべての犯罪に対して制度が適応されるわけではありません。初めて導入されるという点を考慮し、下記の要件を満たす犯罪に限定するとされています。
協力行為者にメリットを与えてでも適正に処罰する必要が高いこと
司法取引制度の利用に適していること
被疑者や国民の理解を得られやすい犯罪に限定すること(例えば殺人は除くなど)
詳しい犯罪は「刑事訴訟法等の一部を改正する法律」の第350条の2第2項に記載がありますが、組織犯罪に対応する目的が強い今回の司法取引において、企業に関係が深いものを一部ご紹介します。
刑法犯
公務の作用を妨害する罪
強制執行妨害目的損壊(刑法第96条の2)
強制執行妨害(刑法第96条の3) など
文書偽造の罪
公文書偽造等(刑法第155条)
公正証書原本不実記載等(刑法第157条)
偽造公文書行使(刑法第158条)
私文書偽造等(刑法第159条) など
汚職の罪
増収路(刑法第197条〜197条の4、刑法第198条) など
財産犯罪
詐欺(刑法第256条)
電子計算機使用詐欺(刑法第246条の2)
背任(刑法第247条) など
特別法犯
租税法違反、独占禁止法違反、金融商品取引法違反 など
上記はあくまでも現時点で適用対象とされている犯罪ですので、今後の法改正により対象が増減する可能性も十分にあります。
贈収賄や脱税等の財政経済関係犯罪
今回の司法取引制度によって対象とされる犯罪の1つに「財政経済関係犯罪」というものがあります。
租税に関する法律、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和二十二年法律第五十四号)又は金融商品取引法(昭和二十三年法律第二十五号)の罪その他の財政経済関係犯罪として政令で定めるもの
引用元:刑事訴訟法等の一部を改正する法律第350条の2第3項
法律上「財政経済関係犯罪」がどのような犯罪を指すのかは明記されていませんが、法務省が発行している犯罪白書(平成29年版)では下記の犯罪として紹介されています。※法務省では「財政経済犯罪」との表記がされています。
税法違反の一例
所得税法違反、法人税法違反、相続税法違反、消費税法違反、地方税法違反
経済犯罪の一例
強制執行妨害、公契約関係競売入札妨害,談合、破産法違反、会社法違反、独占禁止法違反、金融商品取引法違反、出資法違反、貸金業法違反
知的財産関連犯罪の一例
商標法違反、著作権法違反、特許法違反、実用新案法違反、意匠法違反
参考:平成29年版 犯罪白書|法務省
税法違反(脱税)は、偽りその他不正な行為により納税を免れる犯罪です。所得税法第238条第1項に該当します。企業ぐるみで行う財政経済関係犯罪は、捜査がしにくく、相当な捜査時間、人件費がかかります。
そこで、司法取引を導入すれば、企業社員から有力な情報を得て、組織ぐるみの犯罪にメスを入れられるというわけです。
薬物銃器等の組織犯罪
司法取引制度では、銃刀法違反や、覚せい剤取締法違反といった銃器、薬物犯罪も対象です。その背景には、警察庁の取締りによって、暴力団の資金源である、飲食店などで不法に金銭を要求する「みかじめ料」が減少し、資金源が覚せい剤密売に流れているという事情も存在します。
このような薬物犯罪や、銃器取り扱いなどは、組織的な犯罪グループが関わっていることが多く、上層部を特定することが困難な背景も関係しています。
司法取引制度によって、組織的犯罪グループの構成員や内部事情を把握できる期待が高まります。