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2024年01月04日
丸山ワクチン事件

丸山ワクチン事件

 

 

              損害賠償請求事件

【事件番号】      東京地方裁判所判決/昭和54年(ワ)第10719号

【判決日付】      昭和63年10月31日

【判示事項】      一、悪性脳腫瘍患者に対する免疫療法剤を丸山ワクチンからピシバニールへと変更した医師の措置につき診療契約上の債務不履行ないし不法行為上の故意過失が認められないとされた事例

             二、患者ないしその親権者の知る権利、自己決定権及び治療に対する期待権の侵害が認められないとされた事例

【参照条文】      民法415

             民法709

             民法715

【掲載誌】        判例タイムズ686号187頁

             判例時報1296号77頁

 

 

丸山ワクチン(まるやまワクチン)は、日本医科大学皮膚科教授だった丸山千里が開発した薬剤である。無色透明の皮下注射液で、主成分は、ヒト型結核菌から抽出されたリポアラビノマンナン(英語版)という多糖体と核酸、脂質である。1944年、丸山によって皮膚結核の治療のために開発され、その後、肺結核、ハンセン病の治療にも用いられた。支持者たちは末期のがん患者に効果があると主張しているが、日本医科大学もゼリア新薬も未だに薬効を証明していない。

 

1976年11月に、ゼリア新薬工業が厚生省に「抗悪性腫瘍剤」としての承認申請を行うが、薬効を証明するデータが提出されていないので1981年8月に厚生省が不承認とした。ただし、「引き続き研究継続をする」とし、異例の有償治験薬として患者に供給することを認め、現在に至る。2019年12月末までに、41万1500人のがん患者が丸山ワクチンを使用している。

 

 

事案の概要

 Xらの長女Aは訴外B病院で悪性脳腫瘍と診断されてその切除手術を受けたが、その後腫瘍が再度増大したので、XらはAに丸山ワクチンによる治療を受けさせたいと希望し、Aを丸山ワクチンの開発者である丸山千里博士が名誉教授を勤めるY2の付属病院(以下「本件病院」という。)の脳神経外科に転院させた。

同科では主任教授であるY2の指導のもとにY3及びY4がAの主治医として治療にあたったが、入院当初から丸山ワクチンが投与されたほか、二度にわたる外科手術、放射線療法、化学療法が施行された(なお、Aの腫瘍は組織学的検査の結果、肉腫の一種である血管周被細胞腫と判定された。)。 入院約4か月後、Y2らはAへの治療方針を再検討し、丸山ワクチンの投与を中止して他の免疫療法剤であるピシバニールの投与を開始したが、Xらの要望により約1か月後には丸山ワクチン投与が再開された。

しかし、Aの病状は好転せず、その後他院でも治療を受けたものの本件病院退院約3か月後に死亡するに至った。

そこで、Xらは、Aの脳腫瘍は丸山ワクチン投与により消失し、又は改善していたのに、Yらの右薬剤変更によって再度悪化したものであると主張し、また、予備的に右薬剤変更措置はXらの自己決定権或いは治療に対する期待権を侵害するものであると主張してAの逸失利益や慰謝料等の賠償を求めた。

 これに対し、本判決は、本件病院入院中のAの病状に関する事実関係、殊にXらが主張の根拠とするCTスキャン所見、臨床症状について詳細に検討し、Xらの主張する丸山ワクチン中断前の時点での腫瘍の消失ないし縮小は、これらの所見からは認めることができず、むしろ右変更措置当時のAの状態は、右各所見やAの腫瘍の悪性度等からみて、近い将来の再悪化の懸念は否定し難い状態にあったと認められるとした。

そして、治療法の選択の判断に関する債務不履行ないし不法行為上の故意過失は、当該判断が当時の学術上の見解や臨床上の知見に照らし治療法として一般に受容されていたところに従って行われたものであるか否かという観点から考察すべきであり、治療法の変更措置の適否についても基本的には右基準が妥当するが、その際、治療開始後に判明した当該患者に個別的な諸事情が考慮すべき重要な要素となることがあるにすぎないと判示し、本件においては、右CTスキャン所見と臨床症状に加え、本件当時の丸山ワクチンとピシバニールに関する医学界の一般的見解、Y2らの臨床経験、患者の免疫状態を反映すると考えられているツベルクリン反応の結果が陰性であったこと等からみて、Y2らの判断は妥当なもので債務不履行ないし不法行為上の故意過失は認められないとした。

また、知る権利、自己決定権、期待権についても、本件の事実関係のもとにおいてはそれらの侵害は認められないとした。

 

 

民法

(債務不履行による損害賠償)

第四百十五条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

2 前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。

一 債務の履行が不能であるとき。

二 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。

三 債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。

 

(不法行為による損害賠償)

第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 

(使用者等の責任)

第七百十五条 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。

3 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

 

 

 

       主   文

 

 一 原告らの請求をいずれも棄却する。

 二 訴訟費用は原告らの負担とする。

 

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