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2024年01月18日
令和3年5月公布・商標法・意匠法改正その5 第6章 改正:「輸入」概念の見直し

第6章 改正:「輸入」概念の見直し

このような状況を背景に、2021年の商標法及び意匠法の改正では、以下のとおり、海外事業者が模倣品を郵送等により日本国内に持ち込む行為が「輸入」概念に含まれることになりました。

 

2021年に公布された「特許法等の一部を改正する法律」は、2022年4月1日に施行されました(一部規定は2021年10月1日施行)。改正の重要なポイントは、前項の課題を解決すべく商標法・意匠法において「輸入」の定義を新設あるいは追加したことです。

 

具体的には、商標法では第2条7項で「この法律において、輸入する行為には、外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為が含まれるものとする」と定義されました。また、意匠法では第2条1号で従来「輸入」としか記載されていなかった部分に「輸入(外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為を含む。)」との定義が追加されました。

 

この改正により、個人が個人使用目的で海外から購入したものであっても、海外の業者が「日本国内に他人をして持ち込ませる行為」すなわち輸入の定義に当てはまり、模倣品であれば商標権や意匠権の侵害行為と認められるようになったのです。

 

ちなみに上記の改正は商標権と意匠権だけで、特許権や実用新案権は改正されていないことに注意してください。

 

その他、特許等の審判における口頭審理にウェブ会議システムを導入したり、商標・意匠の国際出願の際に一部の通知が電子化されたりするなど、今回はコロナ禍社会への対応のための改正も行われています。

 

 

・商標法

商標法2条7項が新設され、商標法における「輸入」行為に、「外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為」が含まれると明示されました。

 

・意匠法

意匠法における「輸入」行為を定める意匠法2条2項1号において、「輸入」に「外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為」が含まれると明示されました。

この改正によって、日本国内にいる個人の輸入者が個人使用目的で模倣品を購入した場合でも、海外事業者による模倣品の持込行為は、登録商標の使用行為や登録意匠の実施行為に該当することになり、商標権侵害や意匠権侵害を問うことが可能になりました。

なお、今回の改正では、特許権や実用新案権における同様の改正は行われませんでした。これは、特許権や実用新案権については、商標権侵害や意匠権侵害と異なり、侵害の有無の判断がより困難であること等が考慮されたためです。

 

模倣品対策実務への影響

国内企業が、自社製品の模倣品が輸入されていることに気づいた場合に採り得る手段は、以下のとおりです。

 

・不正競争防止法に基づく請求や知的財産権侵害に基づく差止請求等の民事的措置

・税関当局を含む行政機関による行政摘発

・刑事告訴という刑事的措置

どの措置を講じるべきかは、模倣品が国内に既に入ってきているかどうか、目標(販売停止か、損害賠償か等)をどのように設定するか、産業財産権の取得状況、模倣品の特徴(デッドコピーか、あるいは、模倣品であることが分かるようなものに過ぎないのか等)、模倣品を放置することにより予想される影響(売上減少、レピュテーションリスク等)など、様々な事情を踏まえて判断されます。

 

このうち、民事的措置については、侵害者の特定・証拠収集~警告書送付~差止め等のための裁判手続まで、相当の時間を要することに加え、弁護士費用等の手続費用も必要になります。

他方、裁判所に知的財産権侵害を認めさせるための立証のハードルが相対的に高いだけでなく、仮に立証できたとしても、その損害額が必ずしも大きくなるとは限らず、時間的・経済的コストとの関係で費用倒れに終わる可能性があります。

 

知的財産権者は、民事的措置のほか、税関長に対し、自己の知的財産権を侵害すると認める貨物が輸入されようとする場合は認定手続(関税法69条の12)を執るべきことを申し立てることができます(関税法69条の13)。この申立ての受理後は、多くの場合、輸入者側が知的財産権侵害該当性を争わない限り侵害該当性が認定されるという簡易な手続により進められます。そのため、民事的措置と比べ、侵害認定に時間と費用がかからないため、日本国内に入ってくる模倣品に対して行う措置として有用です。

 

上記改正前は、個人による模倣品輸入は、「業として」に該当しないと一般に考えられていたため、輸入者側から「個人的な使用のための輸入」であるとの反論がなされれば、税関において侵害物品該当性の判断が困難でした。

 

しかし、今回の改正により、日本国内にいる個人輸入者が個人使用目的で模倣品を購入した場合でも、海外にある者が「業として」模倣品を持ち込ませれば、商標権侵害や意匠権の侵害品(関税法69条の11第1項9号)として輸入を差し止めることが可能となります。

 

今後、インターネット取引はさらに拡大していくと考えられ、税関に輸入差止めを求めていくことが模倣品対策の有力な一手になるかもしれません。

なお、今回の改正を踏まえた税関における運用においては、模倣品の持込行為が「業として」なされたものか否かの認定が問題になり得ます。特に持込者が海外にいれば、「業として」の持込行為であることの立証が困難な場合があります。

 

この点、関税率・関税制度の改正に関する要望として、特許庁総務課制度審議室・財務省関税局業務課より、「商標権侵害の該否を決定する税関の認定手続(関税法69条の12)において、海外から模倣品を日本国内に流入させる主体(仕出人)が事業者に該当するのか否かを税関で判別することは実務上困難であるところ、取引の当事者である輸入者に仕出人が事業者に該当しないことを証明する書類の提出を義務付けることとしたい」旨の改正の方向性が示されており(「2022年度関税率・関税制度改正要望事項調査票(新設)」)、「業として」の立証のハードルの問題への対策が採られることが予想されます。

 

新旧対照表

商標法

新法       旧法

第2条(略)

2~6(略)

7 この法律において、輸入する行為には、外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為が含まれるものとする。             (新設)

意匠法

 

新法       旧法

第2条(略)

2 この法律で意匠について「実施」とは、次に掲げる行為をいう。

一 意匠に係る物品の製造、使用、譲渡、貸渡し、輸出若しくは輸入(外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為を含む。以下同じ。)又は譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡又は貸渡しのための展示を含む。以下同じ。)をする行為        第2条(略)

2 この法律で意匠について「実施」とは、次に掲げる行為をいう。

一 意匠に係る物品の製造、使用、譲渡、貸渡し、輸出若しくは輸入又は譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡又は貸渡しのための展示を含む。以下同じ。)をする行為

 

 

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