18才の女性バスガイド見習が同じ会社の同僚運転手と情交し中絶手術を受けたのに対し、上司が懲戒解雇事由にあたるとの間違った判断を告げて女性バスガイドに退職願を求めたことは、強迫に該当するとした事例
広島高等裁判所松江支部判決昭和48年10月26日~石見交通事件
解雇無効確認、謝罪広告、損害賠償請求事件
石見交通事件
【判示事項】 18才の女性バスガイド見習が同じ会社の同僚運転手と情交し中絶手術を受けたのに対し、上司が懲戒解雇事由にあたるとの間違った判断を告げてガイドに退職願を求めたことは、強迫に該当するとした事例
【参照条文】 民法96
【掲載誌】 高等裁判所民事判例集26巻4号431頁
判例タイムズ303号178頁
判例時報728号54頁
労働判例193号66頁
主 文
1、原判決のうち、控訴人に対し金員の支払いを命じた部分を次のとおり変更する。
控訴人は被控訴人に対し金10万円及びこれに対する昭和43年4月7日から支払いずみに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
被控訴人のその余の請求を棄却する。
2、その余の本件控訴を棄却する。
●【解説】
バス会社の見習者たるバスガイドが同寮内の独身運転手と情交関係を結び、懐妊、中絶したので、会社の営業所長は他の従業員に対する影響を恐れ、「本件は懲戒解雇事由にあたるが、将来のことを考え任意退職してもらいたい。」とガイドに迫り、退職願を提出させた。ガイドはバス会社に雇傭関係の確認と強迫による慰藉料の支払いを求めた、第1審判決(松江地益田支判昭和44・11・18労民集20・6・1527、判批小西・ジュリ469・272)は確認と慰藉料30万円のみを認容したので、バス会社から控訴を提起した。
これに対する控訴判決が本件である。
右退職申出による合意解約が営業所長の迫強による意思表示になるか否かが本件の争点である。
強迫というためには、本件が懲戒解雇事由に当らないのに当ると称すること、換言すれば、違法な害悪の告知を前提としている。
そこでガイドに「素行不良又は不正不義の行為をして著しく従業員としての体面を汚し又は会社の名誉を損つたとき」との懲戒雇解事由が存するか否かが問題となった。
本判決はバスガイドのような接客業務において本件情交の懲戒解雇該当性につき否定し、強迫成立、合意解的の無効による雇用関係の確認と慰藉料10万円支払のみを認容した。
本判決は労働者の勤務時間外の行為につき懲戒権の及ぶ範囲を示した1事例として参考となろう。