第3章 相続法の平成30年改正
第1 はじめに
2018 年(平成30年)7 月に,相続法制の見直しを内容とする「民法および家事事件手続法の一部を改正する法律」と,法務局において遺言書を保管するサービスを行うこと等を内容とする「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が成立しました。同年7月13日公布。
民法には,人が死亡した場合に,その人(被相続人)の財産がどのように承継されるかなどに関する基本的なルールが定められており,この部分は「相続法」などと呼ばれています。
この相続法については,1980 年(昭和55年)に改正されて以来,大きな見直しがされてきませんでした。
一方,この間,我が国における平均寿命は延び,社会の高齢化が進展するなどの社会経済の変化が生じており,今回の改正では,このような変化に対応するために,相続法に関するルールを大きく見直しています。
超高齢社会といわれる現在の社会状況に対応するため、相続法が約40年ぶりに大きく見直されました。
改正相続法の多くは令和元年7月1日から施行されています。
相続法の改正といっても、新しく制度が創設されたり、これまでの取扱いが見直されるなど、様々な形で改正は行われています。
第2 相続法改正の概要
まずは、改正された相続法の全体像を知ってもらうため、改正された分野と改正のポイントを説明いたします。
改正された6つの分野とは
今回の相続法の見直しでは、配偶者居住権の新設をはじめ、自筆証書遺言の方式緩和など、多岐にわたる改正項目が盛り込まれています。
注目すべき改正ポイントはどのようなものなのか、まずは全体像を確認しましょう。
【改正された6つの分野】
注目すべき改正ポイント
具体的には,
被相続人の死亡により残された配偶者の生活への配慮等の観点から,
①配偶者の居住権を保護するための方策
・配偶者居住権の新設
〈ポイント〉
この権利の創設により、居住建物について柔軟な遺産分割を行えるようになりました。また、配偶者相続人がこの権利を取得することで、生涯無償で居住建物に住むことができるので、老後も安心して暮らすことができます。
・配偶者短期居住権の新設
〈ポイント〉
この権利により、配偶者相続人は相続開始から少なくとも6ヶ月間は無償で居住建物に住むことができ、その間、居住権が保護されます。
②遺産分割等に関する見直し
・特別受益の持戻し免除の意思表示の推定
〈ポイント〉
この規定により、長年連れ添った夫婦間で、居住用不動産の生前贈与等を行っても、相続発生後に持戻し計算がされないため、居住用建物を確保しやすくなりました。
・預貯金の仮払い制度の創設
〈ポイント〉
相続発生により預金口座が凍結され、葬儀費用や介護費用の支払いに困ってしまうケースがありましたが、改正法により、遺産分割協議の成立前でも家庭裁判所の関与なく、一定額の預金引き出しができるようになりました。
遺言の利用を促進し,相続をめぐる紛争を防止する観点から,
③遺言制度に関する見直し
・自筆証書遺言の方式の緩和
〈ポイント〉
改正法により、全文自署の要件が緩和され、遺言内容の一部をパソコン等で作成できるようになりました。これにより、字が上手く書けなかったり、多くの文字を書くことに大変な労力がかかる高齢者などでも、遺言書が作成しやくすくなりました。
・自筆証書遺言の保管制度の創設
〈ポイント〉
改正前は、自ら遺言書の保管をしなければならなかったので、焼失、盗難、紛失、変造等の様々なリスクがありましが、本制度により、法務局で保管してもらえるようになったので、そのようなリスクを回避できるようになりました。
④遺留分制度の見直し
・遺留分減殺請求の効力の見直し
〈ポイント〉
改正前は、遺留分減殺請求は現物返還が原則だったため、相続した不動産や株式などが共有状態となり、円滑な承継の障害になっていましたが、改正法により、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することが原則とされたため、そのような問題が生じる可能性が少なくなりました。
・遺留分の算定方法の見直し
〈ポイント〉
相続トラブルの争点になりやすかった遺留分の算定について、算定基準が明確になり、遺留分侵害額の予測がしやすくなりました。また、基準が明確になることで、生前贈与などが計画的に行えるようになります。
⑤相続の効力等に関する見直し
・権利取得の対抗要件の見直
〈ポイント〉
法定相続分を超える部分について、登記や登録などの手続きをしていなければ、第三者に権利を主張できないことになったので、相続開始後は、登記等の手続きを速やかに行った方がよいと言えます。
・相続債権者の立場を明確化
〈ポイント〉
従来から判例の見解により、債権者は遺言や遺産分割協議で決められた相続の割合に縛られないとされていましたが、改正法により、そのような債権者の立場が明確になりました。
⑥相続人以外の貢献を考慮するための方策
・相続人以外の者の貢献を考慮する規定の新設
〈ポイント〉
改正前は、相続人以外の者(例えば長男の妻)が療養看護などの貢献をいくら行っても、寄与分は認められませんでしたが、改正法により、相続人に対して、貢献に応じた金銭の支払いを請求することができるようになりました。