第8 自筆証書遺言の保管
1,改正前
従来の相続法によると「自筆証書遺言」は自ら保管しなければならないため、災害や不注意により滅失・紛失したり、隠匿や改ざんされる恐れもありましたが、今回の改正相続法により、自筆証書遺言を法務局で保管してもらうことで、そのようなリスクを回避することが可能になりました。
また、法務局で保管している遺言については、偽造、変造等のリスクがないため、家庭裁判所での遺言検認の手続きが不要になりました。
この保管制度を利用した自筆証書遺言は、家庭裁判所での検認手続が不要になることも大きなメリットです。
検認手続とは、遺言の内容等を相続人に知らせ、家庭裁判所で遺言書等の形状を確認して偽造、変造などを防止するために行われるものですが、保管制度を利用した場合は、この検認手続を省略することができます。
検認手続では、申立書と必要書類を合わせて家庭裁判所に提出しなければならないなど、煩雑な作業が必要で、また、手続きには数ヶ月の期間がかかります。
自筆証書遺言の保管制度について、利用の有無を比較すると次のとおりになります。
2,制度の概要
法務局における自筆証書遺言の保管制度の創設
自筆証書遺言を作成した方は,法務大臣の指定する法務局に遺言書の保管を申請することができます。
遺言者の死亡後に,相続人や受遺者らは,全国にある遺言書保管所において,遺言書が保管されているかどうかを調べること(「遺言書保管事実証明書」の交付請求),遺言書の写しの交付を請求すること(「遺言書情報証明書」の交付請求)ができ,また,遺言書を保管している遺言書保管所において遺言書を閲覧することもできます。
遺言書
法務局(遺言書保管所)
法務局の事務官(遺言書保管官)
原本保管 画像データ化
本人確認
遺言書の方式の適合性
(署名、押印、日付の有無等)を外形的に確認等
死亡後、通知
相続人
遺言書の写し
検認不要
※遺言書保管所に保管されている遺言書については,家庭裁判所の検認が不要となります。
※遺言書の閲覧や遺言書情報証明書の交付がされると,遺言書保管官は,他の相続人等に対し,遺言書を保管している旨を通知します。
保管申請は遺言者自らが行わなければなりません
保管申請は、遺言者自らが「遺言保管所=法務大臣が指定した法務局」に自筆証書遺言を持ち込み、申請しなければなりません。遺言者自身が作成した遺言書に間違いないか確認するため、本人確認もその場で行われます。
なお、遺言者の気が変わったとき、内容を変更したいときなど、一定の手続きを経ればいつでも遺言書の返還を求めることができます。
遺言書はデータ管理されるため、いつでも閲覧請求できる
遺言保管所では、遺言書原本が災害などによって滅失するリスクに備えて、データ化して保管されるので、遺言者は、いつでも遺言書情報の閲覧を請求することができます。
なお、閲覧の請求には遺言者自身が出頭する必要があり、その場で本人確認が行われます。
関係相続人等から情報開示請求ができる
遺言書の保管申請を行った遺言者が死亡した後、その相続人等は遺言書に関する情報がまとめられた「遺言書情報証明書」の交付請求を行うことができます。
遺言の有無、内容を秘匿しておきたい遺言者の気持ちに配慮され、関係相続人からの交付請求は、遺言者の死亡後でないとできないことになっています。
交付請求ができる関係相続人とは、主に以下のとおりです。
①遺言者の相続人
②遺言に受遺者として記載された者またはその相続人
③遺言で遺言執行者として指定された者
3,施行日
作成した自筆証書遺言を法務局に保管してもらえる自筆洋書遺言書保管制度も2020年7月10日より施行されました。