第7章 当事者間での自主的な相隣関係問題解決ルールの明確化
今回の改正では、民法209条以下のいわゆる「相隣関係」に係る規定も大幅に改められている。これらの規定は立法当時の社会生活関係を背景に、隣地所有者等の間で生じる日常的な土地の利用関係を調整するために設けられているものであるが、19世紀末の制定以来、抜本的な改正がなされていなかったこともあって、規定する内容の不明確さや不十分さが指摘されていた。
そのため、改正法では、承諾なく隣地を使用できる行為の拡充や手続要件の明確化(改正民法209条)や、新たな権利の創設(電気、ガス等の継続的給付を受けるための設備の設置権、改正民法213条の2)、隣地が所有者不明になっていることも想定した竹木の枝の切除に関する規定の大幅補充(改正民法233条)注9などを行っている。
冒頭の事例2のような問題の解決を図るため、法制審部会の審議の終盤まで本格的に検討されていた「土地所有者が、瑕疵がある他の土地に立ち入り、損害の発生を防止するための必要な工事をすることができる」ことを明文化する案は最終的に改正に取り入れられなかったが注10、それでも改正法のもとでは、事例2のB社が、裁判所の手続によらず自ら隣地に立ち入って境界障壁を築造したり、樹木の枝を切除したりすることまでは可能となる。
そして、新たな規定を活用して隣地との日常的な調整を適正に行いつつ、上記2.の管理制度等を活用することで、朽廃した土地上の建物の存在等、より抜本的な対策が必要なリスク要因も、未然に排除することができるようになることが期待される。
以上、今回は「土地の利用の円滑化を図る方策」について、企業実務への影響を意識しつつ紹介した。次回は今改正のもう一つの柱である「所有者不明土地の発生を予防する方策」について概説する。