第1章 特定商取引法(特商法)とは
特定商取引法とは、事業者と消費者間における契約において、特に消費者が被害にあいやすい取引類型に対して、一定の規制を定めることにより消費者の利益を保護することなどを目的として制定されている法律です。
具体的な取引としては、訪問販売や通信販売、連鎖販売取引、などについて事業者が守らなければならないルールと、クーリング・オフといった消費者を守るためのルールが定められています。
事業者側への規制として、広告表示の規制や書面の交付義務といった規制が取引類型ごとに定められております。
はじめに、対象となる取引類型の代表的な取引内容について確認しておきましょう。
訪問販売とは
消費者の自宅等へ事業者の担当が訪問し、商品やサービスの販売や役務提供を行う契約をする取引が訪問販売です。
訪問販売は、いわゆる無店舗販売の一種で、キャッチセールスやアポイントメントセールスも含まれます。
消費者側は自宅等にいながらも欲しい商品を購入できる利点がある一方で、商品の比較の機会や必要性を検討する余裕を持つことができず、高圧的なセールスによって契約してしまうというリスクが懸念されます。
通信販売とは
新聞や雑誌、インターネットといった媒体を通じて広告を行い、電話や郵便等の通信手段で申し込みを受ける取引が通信販売です。現代では馴染の深い取引類型かと思います。店舗まで足を運ばなくても豊富な品揃えの商品から必要な商品を購入できる利点がございますが、消費者側のリスクとしては、商品の実物を見ないで注文することになるためトラブルにつながりやすい点があげられます。
なお、通信販売は次に紹介する電話勧誘販売を除きます。
電話勧誘販売とは
事業者が消費者との電話を媒介して申し込みを受ける取引が電話勧誘販売です。電話を終えた後に、郵便等で申し込みを行う場合も電話勧誘販売に該当します。対面で申し込みを行わない点で通信販売と同様に捉えられますが、電話勧誘販売ではクーリング・オフ制度があるのに対して、通信販売にはクーリング・オフの制度がなく、事業者側の返品特約に従う形となる点などで大きく異なります。
なお、2023年6月1日の法改正により、電話勧誘販売の対象となる要件が拡大されております。
注意が必要なのが、電話で注文受ける際にアップセルやクロスセルをするといった行為です。これまでも、事業者側からの電話(アウトバウンドコール)によるアップセルやクロスセルは電話勧誘販売の対象として規制されてましたが、今後は電話で受注する際にも注意が必要となります。
連鎖販売取引とは
販売員(会員)となる個人が、次の販売員(会員)を勧誘させる形で販売する組織を連鎖的に拡大する取引が連鎖販売取引です。
俗称として「マルチ商法」として知られております。
近年ではスマホ等のコミュニケーション端末の発展によりSNSなどの交流サイト等で勧誘するといった手法も広がっております。
特商法では、連鎖販売業を行う物が連鎖販売取引についての契約を行う場合には、連鎖販売業の概要を記載した概要書面を渡さなければならないことや、概要書面に記載すべき事項が定められております。
また契約締結後も、遅滞なく契約内容について明示した契約書面を渡さなくてはならないと定めております。
特定継続的役務提供とは
高額な対価を得ることで長期・継続的に役務を提供する取引を特定継続的役務提供といいます。
対象となる役務は7種類ございます。
・エステティック
・美容医療
・語学教室
・家庭教師
・学習塾
・結婚相手紹介サービス
・パソコン教室
それぞれに対し、期間と金額(5万円を超えるもの)に応じ、対象となるサービスを規制しております。
特定継続的役務提供を行う際には、契約締結前に概要書面、契約締結後には契約書面を消費者へ渡さなければなりません。
2023年6月の法改正前までは、これらの書面は紙での交付が義務づけられておりましたが、消費者からの事前の承諾などの要件を満たすことで、電子交付(データでの交付)も認められるようになりました。
業務提供誘引販売取引とは
仕事の提供を口実として、仕事に必要であるとする商品等を購入させる取引が業務提供誘引販売取引です。
例えば、「パソコンを使って直ぐにはじめられる在宅ビジネス」などと広告しパソコンを購入させるといったケースや、「健康寝具のモニター募集」といった形でモニターに使用する寝具を購入させるといったケースです。
訪問購入とは
消費者の自宅へ訪問し商品やサービスを販売するのが訪問販売に対して、訪問購入とは、消費者の自宅へ不用品等を買い取るとして訪問し、貴金属や着物などを買い取っていく取引をいいます。
不用品を処分でき対価が得られるなら問題ないと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、訪問購入では、ブランド品などを安価で買い叩かれたり、意図しない商品を買い取られたりといったトラブルにつながるケースがございます。
対象となる取引類型ごとに、
広告表示規制
書面の交付義務などの行政規制
クーリング・オフや不実告知等があった際の取消権
など民事上のルールを定めることで、消費者保護を図っています。