交通事故・相続・債権回収でお困りの方はお気軽にご相談下さい

法律相談のご予約・お問い合わせはこちらまで03−6904−7423
新着情報
2024年02月14日
特定商取引法の令和3年改正その4 第5章 特商法の改正による契約書面等の電子化のポイント

第5章 特商法の改正による契約書面等の電子化のポイント

 

消費者トラブルが起こりやすい商取引において、事業者に対する不正行為の取り締まりや消費者保護を目的とする特定商取引法(特商法)。改正特定商取引法における交付書面の電子化に関する規定により、2023年6月1日以降、事業者が消費者に対して交付すべき契約書面等を、メールなどの電磁的方法により提供することが可能となります。

本記事では、改正特定商取引法に基づく契約書面等の電子化について、要件や注意点などをわかりやすく解説します。

 

 

改正特定商取引法により、契約書面等の電子化が可能に

特定商取引法の対象取引を行う事業者は、消費者に対して契約に関する事項を記載した書面(=契約書面等)を交付する義務を負います。

 

従来は、契約書面等の交付は紙の書面に限定されていました(「通信販売」を除く)。しかし、2023年6月1日に施行される改正特定商取引法により、上記の各取引にかかる契約書面等の電子化が、一定の条件下において認められます(改正特定商取引法4条2項、13条2項、18条2項、20条2項、37条3項、42条4項、55条3項、58条の7第2項)。同改正は、利便性や感染症対策などの観点から、業界内で高まっていた要望に応えるものです。

 

特定商取引法に基づく契約書面等を電子化するためには、データファイルをPDF等でメール送信する方法や、電子署名サービスを利用する方法などが考えられます。

 

さらに、事業者が申込者から電子化の承諾を得る際には、政令・主務省令で定められる手続きを踏まなければなりません(改正特定商取引法施行令4条、改正特定商取引法施行規則10条など)。

 

例えば、訪問販売の場合、電子化の承諾を取得する際には以下の手続きが必要です。

 

①申込者に対して、以下の事項を説明すること

電磁的方法による交付を承諾しなければ、書面が交付されること

電磁的方法により提供される事項は、申込者にとって重要なものであること

データが受信端末等に記録された時点で契約書面等が到達し、その日から起算して8日が経過すると、クーリングオフができなくなること

電磁的方法による交付を受けられるのは、一定の要件を満たす電子計算機を日常的に使用し、自ら操作できる者に限られること

※上記の各説明については、申込者が理解できるように平易な表現を用いなければなりません(改正特定商取引法施行規則10条2項)。

 

②申込者に対して、以下の事項を確認すること

申込者が、一定の要件を満たす電子計算機を日常的に使用し、自ら操作できること

申込者が閲覧に用いる電子計算機につき、サイバーセキュリティが確保されていること

申込者が、契約事項の申込者が指定する者(家族など)に対するメール送信を希望する場合は、その者のメールアドレスを確認すること

※上記の各確認を行う際には、申込者が日常的に使用する電子計算機を自ら操作し、事業者のWebページ等を利用する方法により行わなければなりません(同条4項)。

 

特定商取引法の契約書面等を電子化する際の注意点

特定商取引法に基づく契約書面等を電子化する際には、以下の2点に注意する必要があります。

 

取引類型ごとの記載事項を網羅する

申込者の承諾取得手続きを厳守する

 

 

  1. 取引類型ごとの記載事項を網羅する

特定商取引法では、対象取引の類型に応じて、契約書面等に記載すべき事項が定められています。

 

記載事項が1つでも漏れていれば、正規の契約書面等と認められない可能性があります。電磁的方法によって契約書面等を交付する際にも、書面交付の場合と同様に、法律上の記載事項が漏れていないかどうかを十分確認しましょう。

 

  1. 申込者の承諾取得手続きを厳守する

契約書面等を電磁的方法によって交付する際には、特定商取引法および関連法令の規定に従い、申込者の承諾を得なければなりません。

 

申込者の承諾が得られない場合や、申込者が電子交付に適さない場合(PCやスマートフォンに習熟していないなど)には、契約書面等を電子交付することは違法となります。また、事業者に義務付けられる説明・確認のプロセスを省略してしまうことも、同様に違法となります。

 

契約書面等を電子交付する際には、特定商取引法・関連法令に定められる承諾取得手続きを厳守しましょう。

 

ルールに違反した場合のリスク

契約書面等を電子化する際、事業者が特定商取引法上の要件・手続き等に違反した場合には、以下のリスクを負うことになります。

 

契約が取り消される可能性がある

クーリングオフ期間が進行しない

消費者庁の行政処分を受ける

 

  1. 契約が取り消される可能性がある

契約書面等に記載すべき事項に漏れがあった場合、事業者は申込者に対して、契約上の重要事項を故意に告げなかったと判断されかねません。この場合、申込者の側から契約を取り消されるおそれがあるので注意が必要です(特定商取引法9条の3第1項第2号など)。

 

  1. クーリングオフ期間が進行しない

特定商取引法では、契約の類型ごとに8日間または20日間のクーリングオフ期間が設定されています。クーリングオフ期間は、契約書面等が申込者に到達した日を初日として進行します。契約書面等がメールなどの電磁的方法によって交付された場合、到達日(=クーリングオフ期間の初日)は、申込者の使用する電子計算機に備えられたファイルへの記録がされた日です(特定商取引法4条3項など)。

 

しかし、契約書面等において法定の記載事項が漏れている場合、正規の契約書面等の交付として認められないため、クーリングオフ期間が進行しません。この場合はどんなに期間が経過しても、申込者の一存により、事業者の費用負担で契約が解除されてしまうので要注意です。

 

  1. 消費者庁の行政処分を受ける

消費者庁は、対象取引に係る契約書面等を適切に交付しない事業者に対して、消費者の利益保護等の観点から必要な措置を指示することができます(特定商取引法7条など)。消費者庁による指示は公表されるため、事業者としての評判に悪影響が生じかねません。

 

さらに、悪質なケースでは2年以内の業務停止処分や、役員等に対する業務禁止処分が行われるおそれがあります。これらの行政処分を受けた場合、事業の継続が困難となる可能性が高いので注意が必要です。

 

従来の取り扱い

改正前特商法の下では、訪問販売など一定の取引を行う場合で、消費者から契約の申し込みを受けたときや契約を締結したときなどに、その内容を記載した書面を消費者に対して交付する義務を負っていました。この交付は、書面(紙)の交付によって行われることとされ、メールでデータを送信するといった電子交付は許容されていませんでした。

 

なお、改正前特商法の下でも、通信販売に関して、前払い式の通信販売での承諾等の通知を行う際について、データの送信等によることが許容されていました(改正前特商法13条2項)。もっとも、書面を交付する代わりにデータの提供によることが許容されているのはこの場合に限定されていました。

 

改正法の下での対応

それが、この改正により、従来は書面(紙)での交付が義務づけられていた契約書面等に記載すべき事項について、

 

メールでデータを送信する

ウェブサイト上で閲覧・ダウンロードしてもらう

などの方法により提供できるようになります。

 

ただし、データによる提供(以下「電子交付」ともいいます)を行う場合は、消費者から事前の承諾を得る必要があります。また、電子交付の方法にも一定の制限があります。

 

以下では、それらの点を中心に、契約書面等の電子化に関する改正の内容の詳細を説明します。

 

電子化の対象となる書面

まず、電子交付が可能となる書面は、以下のとおりです。

 

① 申込書面(訪問販売、電話勧誘取引、訪問購入)

② 契約書面(通信販売以外の全ての取引)

③ 概要書面(連鎖販売取引、特定継続的役務提供、業務提供誘因販売取引)

 

こうした書面に記載すべき事項について、電子交付が可能になります。

 

なお、これらの書面の電子化については、おおむね共通した規定が定められています。そこで、以下では訪問販売の場合を想定して説明します。その他の取引類型については後記「他の取引類型について」において、各取引類型に対応する規定を整理しましたので、そちらを参照ください。

 

また、電話勧誘販売における承諾通知(特商法20条1項)についても、従来は書面による必要がありましたが、電子交付が可能になりました。ただし、上記①~③の書面とはやや位置づけが異なります。こちらについても、「他の取引類型について」でご紹介するにとどめることとします。

 

電子交付を行う場合のルール1|事前の承諾

電子交付を行う場合には、消費者の承諾を得る必要があります(特商法4条2項、5条3項)。

この承諾の手続きは、電子交付を行う書面(申込書面、契約書面、概要書面)ごとに必要になります。

 

以下、消費者の承諾を得る手続きなどを説明します。

 

  • 提供の種類および内容の提示

まず、事業者から消費者に対し、承諾を得る前に、あらかじめ電子交付を行う場合の提供の種類および内容を提示する必要があります(特商令4条1項)。

 

この「提供の種類および内容」とは、具体的には次の事項を指します(特商規9条各号)。

 

事業者が用いる電磁的方法の種類

② ファイルへの記録の方式

 

①は、後記「実施可能な電子交付の方法」のとおり、事業者が実施し得る電子交付の方法にはいくつか種類がありますが、そのうちどの方法によるのかを明示する必要があるということです。

 

②については、提供するデータに関し、PDFファイルやWordファイルなどといったデータの形式、使用するソフトウェアの種類や名称、対応可能なバージョン等を明示することになります。なお、閲覧のために特殊なソフトウェアを要するような方式とするのは避けるべきでしょう。

 

  • 重要事項の説明

また、上記の提供の種類および内容の提示と併せて、重要事項について説明する必要があります(特商規10条1項)。消費者の承諾が真意であることを確保する趣旨の手続きです。

 

 説明すべき重要事項は次のとおりです(同項各号)。

 

① 消費者の承諾がない限り、原則として書面が交付されること

② 電子交付される記録が契約内容を示した重要事項であること

③ (申込書面または契約書面が電子交付される場合)消費者の使用するパソコン等にデータが記録されたときにその提供があったものとみなされ、その日から起算して8日を経過した場合にはクーリング・オフができなくなること

④ 日常的にパソコン等を使用し、またデータの提供を受けるためにパソコン等を自ら操作することができる者に限り、電子交付を受けることができること

 

③について、クーリング・オフとは無関係である概要書面の電子交付の場合は対象外とされています。

 

また、④に関して、消費者が使用するパソコン等は、画面のサイズが4.5インチ以上のものである必要があり、その点についても説明する必要があります。

 

これら①~④の事項について、事業者は、消費者が理解できるように平易な表現を用いて説明する必要があります(同条2項)。

 

そのため、例えば④について、条文上の規定(「閲覧するために必要な電子計算機は、その映像面の最大径をセンチメートル単位で表した数値を2・54で除して…」といった内容)をそのまま読み上げるようなものでは、消費者にとって分かりやすい説明には該当しません。

 

「4.5インチ以上の画面サイズを有するスマートフォン、コンピューター等の機器を日常的に使用し、その機器を自ら操作して、ファイルを保存できますか。そのような方でなければ、契約書面を電子メールで受け取ることはできません。」などと分かりやすい表現で説明することが求められます。

 

  • 適合性の確認

また、消費者に上記の説明をした上で、電磁的方法による提供を受ける者として適切かを確認する必要があります(特商規10条3項)。

 

確認すべき事項は次のとおりです(同項各号)。

 

① 消費者が電子交付されたデータを閲覧するために必要な操作を自ら行うことができ、かつ、その閲覧のために必要なパソコン等(メールでの送信による場合には、メールアドレスを含む)を日常的に使用していること

② 消費者が閲覧のために必要なサイバーセキュリティを確保していること

③ 電子交付される事項について、消費者があらかじめ指定する者に対してもメールにより送信する意思の有無と、希望する場合にはその者のメールアドレス

 

②については、消費者の使用するパソコン等のOSや、電子交付されるデータを閲覧するためのアプリについて、ソフトウェアメーカーのサポート(アップデートプログラムの配信等)が終了していない場合を指すとされています。必ずしも最新版にアップデートしている必要はありませんが、脆弱性の対応のためのパッチ配信等のサポートが受けられるバージョンであることが必要です。

 

また、③に関しては、後記「消費者が指定する者への同報送信」のとおり、消費者が希望する場合には、事業者は、消費者に対して電子交付する際に、消費者の家族など第三者にも同じ内容を送信する必要があります。そのため、その送信の希望等を確認するものになります。

 

上記事項の確認の方法については、消費者が日常的に使用するパソコン等を自ら操作して、事業者のWebページ上での手続きにより確認する等の方法によって行うこととされており(同条4項)、口頭や書面により確認することでは足りません。

 

例えば、消費者が、自ら使用するパソコン等で事業者の専用ウェブサイトにアクセスし、電子交付に必要な連絡先等の情報を入力する方法や、SMSによる認証手続きを経ることなどが考えられます。こうした手順を踏むことにより、消費者がパソコン等の操作を自ら行うことができることが裏付けられるほか、通信アクセスの際のバックグラウンドで行われる通信を介して消費者が使用するパソコン等のOSの情報を得ることで、適合性を確認することになります。

 

④書面等による承諾の取得

上記の説明および確認を経て、消費者から承諾を得ることになりますが、その承諾は書面等によって行われる必要があり(特商令4条1項)、口頭による承諾では足りません。

 

ここでいう「書面等」とは、

 

書面(紙)の交付

メール、SMS等を送信する方法

事業者のウェブサイト等での手続きにより承諾する方法

承諾する旨を記録したUSBフラッシュメモリ等の電磁的記録媒体を交付する方法

を指します(特商規11条1項)。

 

事業者のウェブサイト等で手続きを行う場合、そのウェブサイトに、前記「①提供の種類および内容の提示」記載の事項を記載し、消費者に閲覧させることを要します。

 

なお、書面の交付以外の方法による場合には、消費者からデータの提供を受けた事業者において印刷可能なものである必要があります(同条2項)。

 

この書面等には、①消費者の氏名と、②重要事項の説明の内容を理解したことを記入する必要があります(同10条5項前段)。そして、この記入については、消費者の認識が明らかにならない方法を用いてはならないとされています(同項後段)。

 

例えば、「□承諾を取得するに当たっての説明を受けました。」「□契約書面等に記載すべき事項を電磁的方法により提供することを承諾します。」といったチェックボックス方式や、承諾した場合に「次に進む」などのボタンを押してもらう方式など、簡便な方法では足りないと考えられます。

 

具体的にどのような方法が許容されるかについてはガイドラインにも明示がなく、今後、実務の積み重ねや消費者庁のガイドラインの改定により具体化されることが期待されます。現時点では、例えば、氏名等の入力とともに、入力フォームに「承諾を取得するに当たっての説明を受けました。書面で交付すべき事項について、電磁的方法による提供を希望します。」などと、消費者の意向、希望する内容を記入してもらうことなどが考えられます。

 

なお、説明内容を理解していることに疑義がある場合には、有効な承諾と扱われず、契約書面等の電子交付が認められない(電子交付を行ったとしても有効なものとして取り扱われない)恐れがあります。

 

そのため、事業者側において、承諾の際の記入内容を踏まえて、適切に承諾の取得が行われているか(消費者が重要事項の説明を理解しているか等)を判断することが望ましいでしょう。

 

⑤承諾を得たことを証する書面(控え書面)の交付

上記の説明・確認の手続きを経て承諾を得た場合、事業者は、消費者に対し、電磁的方法による提供を行うまでに、その承諾を得たことを証する書面(控え書面)を交付する必要があります(特商規10条7項)。承諾を書面で得た場合には、その書面の写しも交付することになっています。

 

事業者が交付すべき書面には、具体的にどのような方法で電子交付を受けることを承諾したのかを明らかにする内容とすることが考えられます。例えば、以下のような記載をすることが考えられます。

 

「お客様が契約書面の交付に代えて、当社ウェブサイトにアクセスしてファイルをダウンロードすることにより契約書面の記載事項の提供を受けることについて承諾したため、当社は●●を販売する売買契約について、お客様にファイルをダウンロードしてもらうこととしました。  ●年●月●日   株式会社●●」

 

なお、契約書面に関する電磁的方法による提供の承諾については、原則として、控え書面を電子交付することはできません。したがって、契約書面を電子交付する場合であっても、少なくとも控え書面については書面(紙)の交付を行うことが避けられません。

 

他方、(連鎖販売取引等に関する)概要書面や、オンライン完結型の特定継続的役務提供等に関する契約書面について電子交付の承諾を得た場合は、控え書面を電子交付することができます(同83条7項ただし書、99条8項、124条7項ただし書)。

 

また、電子交付の承諾を得た書面について電子交付を行うまでに、控え書面の交付を行う必要があります。承諾を得てすぐに電磁的方法による提供を行うと、この手続きに違反することになる恐れがありますので注意が必要です。

 

⑥承諾の撤回/再承諾

消費者が一度、契約書面等の電子交付を承諾した場合であっても、その後に、電子交付を受けない旨の申し出を行うことで、承諾を撤回できます。承諾の撤回があった場合は、電子交付を行うことができません(特商令4条2項本文)。

 

承諾の有効性に疑義が生じないよう、承諾の撤回を行う場合も書面等(書面の交付のほか、メールの送付、ウェブサイト上での手続き、USBフラッシュメモリの送付等)により行う必要があります。

 

なお、承諾が撤回された後、再度承諾があった場合には、電子交付を行うことができます(同項ただし書)。

 

 

もっとも、このような場合には、再度の承諾が真意によるものなのか、また適合性に問題がないか疑義が生じることも考えられますので、承諾と撤回が繰り返されるようなケースでは、電磁的方法による提供を行うことが適切かどうか、慎重な対応をすべきでしょう。

 

禁止行為

上記のとおり、電子交付の導入に伴い、事業者が消費者に対して説明や確認を行い、その上で消費者から承諾を得ることとされましたが、その関係で、新たに以下の禁止行為が規定されました(特商規18条9号)。

 

① 電子交付を希望しない消費者に対して、電子交付の手続きを進める行為

② 消費者の判断に影響を及ぼすこととなるものについて、事実でないことを告げる行為

③ 威迫して困惑させる行為

④ 財産上の利益を供与する行為

⑤ (電子交付ではなく)書面の交付をするのに費用の徴収等の不利益を与える行為

⑥ 適合性の確認に際して不正の手段により不当な影響を与える行為

⑦ 適合性の確認をせず、または確認ができない消費者に対して電子交付する行為

⑧ 不正の手段により消費者の承諾を代行し、または電子交付される事項の受領を代行する行為

⑨ 消費者の意に反して承諾させ、または電子交付される事項を受領させる行為

 

詳細は消費者庁「契約書面等に記載すべき事項の電磁的方法による提供に係るガイドライン」の15ページ以下を確認ください。例えば、「契約書面は紙で受け取りたい」などとの意思を表示した消費者に対して、事業者が電子交付の手続き(必要事項の説明や適合性の確認等を含みます。)を進める場合は①に該当します。また、(原則として紙での契約書面の交付が義務であり、紙での交付に対応しているはずであるにもかかわらず、)「当社では紙での契約書面の交付をしていない。」などと告げる場合には②に該当します。

 

多くの事業者においては、通常、これらの禁止事項の規定は問題とならないと思われますが、注意を要するのが④・⑤と、⑥です。

 

④によれば、電子交付に際して財産上の利益を与えてはならないことになります。そのため、電子交付の導入促進の目的等で、電子交付を選択した消費者に対するキャッシュバック、景品の提供、ポイント付与などを行うことは禁止されます。

 

また、⑤によれば、書面の交付を行うにあたって、電子交付の場合と比較して不利益を与えてはいけないことになります。そのため、書面の交付の場合にのみ、郵送料、手数料等の名目を問わず、追加の費用を消費者に負担させることはできません。

 

⑥については、適合性の確認は消費者が使用するパソコン等により行う必要がありますが、事業者のパソコン等を使用させて承諾を得ることは、消費者に不当な影響を与えるものとして⑥に該当するとされています。事業者が対面で説明を行い、そのまま事業者の使用する端末上で承諾手続きを行うことはできませんので注意ください。

 

これらの禁止行為に違反して電子交付が行われた場合、電子交付についての承諾が無効とされ、書面交付義務違反となる恐れがあるので、注意が必要です。

 

電子交付を行う場合のルール2|電磁的方法による提供

上記のとおり、消費者から承諾があった場合には、事業者は、契約書面等に記載すべき事項について、電子交付を行うことができます(特商法4条2項、5条3項)。

 

 

以下では、主に、どのような方法によることができるのかといった点を説明します。

 

実施可能な電子交付の方法

事業者が電子交付として実施可能な方法は、次のとおりです(特商規8条1項各号)。

 

① メール等でのデータの送信による方法

② 事業者のウェブサイト等に掲載し、消費者が閲覧できるようにする方法

③ USBフラッシュドライブ、CD-Rなどの記録媒体にデータを保存し、同媒体を交付する方法

 

①については、メールの件名表示に重要な通知であることを記載し、本文にも重要性を認識できる説明を記載するなど、消費者が見落とすことのないような工夫をすることが求められます。

 

事業者により送信を取り消したり、クーリング・オフの期間に満たない閲覧期間を設定して、閲覧期間の経過を理由に消費者が電子交付された事項を閲覧したりすることができないような場合は、①に該当しないとされています(別途、②に該当し得ることになります)。

 

②については、例えば、事業者が消費者に対して、ID・パスワードや、注文番号のような識別番号を付与し、事業者のウェブサイト上でその情報を入力することで、当該消費者に対して提供すべき事項を閲覧できるようにする方法などが考えられます。この方法による場合には、事業者は、電子交付するデータのダウンロード元(まだ事業者がアップロードしていない場合には、予定されるダウンロード元)を消費者に対して通知する必要があります(同条2項3号)。

 

③については、電磁的記録による提供ではあるのですが、記録媒体を消費者に交付することになります。そのため、書面の交付と比較してそれほど手間が軽減されるものではないように思われます。

 

電子交付の適合基準(提供するデータの仕様等)

上記①~③の3つの方法については、いずれも、

 

ⅰ)データを出力して書面に印刷できるものであること

ⅱ)データの改変が行われていないかを確認できる措置が取られていること

 

といった適合基準が定められています(特商規8条2項1号、2号)。

 

ⅰ)については、印刷することで特商法4条1項に規定する書面と同じ内容の紙媒体が得られることを指します。そのため、電子交付するデータを印刷した場合に、赤字・赤枠囲みや文字を8ポイント以上とするなどの形式面での基準(特商規6条、7条)を満たすようにすることが求められます。

 

ⅱ)の関係では、事業者と消費者の双方が、電子交付されたデータを保有することとして、両者を比較することで改変されたことが判別できる措置などが考えられます。

 

電子交付するデータの表示内容

以上の方法により契約書面等を電子交付できますが、電子交付に当たっては、事業者は、消費者がその提供事項を明瞭に読むことができるように表示しなければならないとされています(同条3項)。

 

前記「電子交付の適合基準(提供するデータの仕様等)」のとおり、電子交付するデータを印刷した場合に、赤字・赤枠囲みや文字を8ポイント以上とするなどの形式面での基準(特商規6条、7条)を満たすようにすることが求められることから、電子交付された事項も画面上で同様の要件を満たすようにするべきでしょう。

 

「明瞭に読むことができる」とはいえない場合は、例えば、

 

赤地に赤字を表示するといったような場合

印刷して8ポイントを下回るような極端に小さな文字で表示するような場合

極端に大きな文字で表示することにより、一画面に一文が入らないように表示するような場合

などが想定されます。

 

 

 

「契約書面等に記載すべき事項の電磁的方法による提供に係るガイドライン」22~23ページ

文字の大きさに関しては、文字が大きすぎても「明瞭に読むことができる」場合に当たらないとされていますので、単に8ポイントより大きければよいというものではありません。消費者が使用するパソコン等における実際の表示を想定する必要があります。

 

到達時期

契約書面等が交付された時期は、クーリング・オフの起算日に影響するため非常に重要です。電子交付を行う場合、消費者の使用するパソコン等に情報が記録されたときに消費者に到達したものとみなされ(特商法4条3項)、その到達した日がクーリング・オフの起算日になります。

 

ウェブサイトを閲覧する方法による場合には、消費者がパソコン等にデータをダウンロードしたときに到達したものとされ、事業者がウェブサイトにアップロードしたとき(消費者が閲覧することが可能になったとき)ではないので注意が必要です。

 

なお、USBフラッシュドライブ、CD-Rなどの記録媒体にデータを保存し、同媒体を交付する方法については、書面の交付と同様、その記録媒体が消費者に交付されたときに提供があったことになります(特商規13条参照)。

 

適切な提供実施の確認

事業者が電子交付を行った場合、事業者は、消費者に対し、提供したデータが消費者の使用するパソコン等に記録されたかどうか、また、閲覧に支障がないかどうかを確認することとされています(特商令4条3項)。

 

その確認の手段は特に限定されていませんが、後日の紛争を予防する観点から、何らかの記録が残る方法で行うことが望ましいでしょう。

 

確認の方法については、単にデータが開けるかを確認するのではなく、消費者のパソコン等に確実に電子交付されたデータが保存されたかどうかに関して、ダウンロード等の作業が必要な場合にその操作が行われたことを確認することが考えられます。また、閲覧することができる状態に置かれたことを確認するために、提供した記載事項の一部を回答してもらうことが考えられます。

 

消費者が指定する者への同報送信

適合性の確認の際に、消費者が、提供を受ける事項について、消費者が指定する者に対しても送信することを希望した場合、事業者は、その指定された者に対して、消費者への提供と同時にメールにより同内容の事項を提供しなければなりません(特商規10条6項)。

 

消費者が家族等にも契約内容等を把握してもらうなどの必要性から、このような取り扱いとなっています。

 

メールの送信による場合には、指定を受けた者を含めてメールを送信することが考えられます。ウェブサイトにアップロードする方法による場合は、消費者によるダウンロードの実行に合わせて指定を受けた者に対するメールを送信する方法が考えられます。

 

書面交付義務違反のリスク

上記のとおり、適切な説明、確認を行った上で、消費者の承諾を得れば、事業者は、消費者に対し、書面の交付に代えて電子交付を行うことができます。

 

ただし、承諾を得るために必要な手続きを適切に履践していない場合や、禁止行為に違反した場合、電子交付の適合基準を満たさない場合等には、書面が交付されていないものと扱われることとなり、クーリング・オフの期間が経過しないなどの民事上のリスクのほか、書面交付義務に違反することになる恐れがあります。

 

書面の交付義務違反については、6カ月以下の懲役または100万円以下の罰金、またはその併科という刑事罰が規定されています(特商法71条1号)。承諾を得る手続き等における禁止行為違反についても同様です(特商法71条2号)。

 

電子交付のための手続きに時間を要して、電子交付がなかなか完了しないような場合には、消費者の真意の承諾や適合性に疑義が生じるにとどまらず、書面の交付に関する時間的制限(特商法4条1項柱書の「直ちに」や、5条1項柱書の「遅滞なく」など)に違反することにもなりかねません。

 

そのため、何らかの理由により電子交付が完了しない場合には、時間的制限内に、原則どおり、書面(紙)の交付を実施すべきでしょう。

 

他の取引類型について

以上の説明は、主として訪問販売を基にしましたが、他の取引類型においても同様の規定がされています。そのため、基本的には訪問取引における規定と同じ取り扱いをすることになります。

 

ただし、上記のとおり、概要書面の電子交付の場合等には、承諾の控え書面についても電子交付が可能であるなど、一部に異なる取り扱いをすることができる、または異なる取り扱いをすべき場合がありますので、注意ください。

 

top

法律相談のご予約・お問い合わせはこちらまで03−6904−7423