第7章 「電話勧誘販売」に関する各規定の改正
特定商取引法上、「通信販売」に該当する契約はクーリングオフの対象外とされています。通信販売とは、商品の販売・サービスの提供を行う事業者が消費者に電話をかけさせる等の方法で申込みを受け、契約を締結する取引形態のことをいいます。
クーリングオフとは、あくまでも「不意打ち」的に勧誘を受けることによって熟慮する時間を与えられずに契約してしまった消費者を保護するための制度です。このため、消費者が自発的に電話を掛けることによって契約が締結された場合には、クーリングオフの対象外となるのが原則です。
しかし今回の改正では、これまで「通信販売」に該当するとされていた一部の取引に関して、これを「電話勧誘販売」とみなすことでクーリングオフできるようになりました。
電話勧誘販売とされることになった取引形態【改正点2】
これまでは「通信販売」に該当するとされていたためクーリングオフできなかった契約であっても、契約の締結に至るパターンが主として以下のような場合には特定商取引法上「電話勧誘販売」とみなされることになりました(施行令2条)。
①TV・ラジオコマーシャル、新聞・雑誌などの刊行物、ウェブページなどを利用して商品やサービスを宣伝し、消費者から事業者に対して電話をかけさせること
②広告されていなかった商品・サービスの販売などを消費者に対して勧誘すること
特に①に関しては、「今すぐお電話を!」「このCM放送から30分以内のご注文はさらに割引!」といったCMを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。これからは、たとえ消費者が自ら事業者に対して電話をしてきたとしても、その電話において事業者が広告に無い商品・サービスの勧誘を行った場合には「不意打ち」に該当するため、クーリングオフの対象とすることになったのです。
この改正によって、消費者の保護がより充実したことは間違いありません。しかし、上記改正によってクーリングオフの対象となるのは、テレビやラジオコマーシャル、新聞・雑誌などの刊行物、インターネットを利用した広告など法律が限定的に列挙しているものにとどまるため、抜け道が存在する可能性が否定できません。消費者保護のさらなる拡充が期待されるところだといえるでしょう。
第8章 まとめ
特定商取引法に関する施行規則などが改正・整備されることにより、2023年6月1日からこれまで紙の書面の交付が義務付けられていた一定の書面が電子ファイルなどで提供できるようになります。
また、これまで「通信販売」に該当するためクーリングオフの対象外だった一定の取引形態が「電話勧誘販売」とされることになり、同制度の対象となることが決まっています。近年は法律の改正が相次いでいます。気づかないうちに法律違反を犯し罰則を受けるようなことが無いようにするためにも、法律の改正には常に気を付けておくことが大切です。消費者庁が作成している特定商取引法に関する情報サイトもおすすめです。
この改正により契約書面等の電子交付が可能になり、事業者、消費者双方にとって利便性が向上することが期待されます。他方で、承諾の控え書面については書面による交付を避けられないなど、完全な電子化が図られたものではありません。また、承諾を得る手続きが手間となり得ること、手続き違反がある場合のリスクが小さくないこと等、事業者にとって負担となり得る事情もあります。
そのため、各事業者におかれては、安易に電子交付を導入するのではなく、メリット、デメリットの比較検討を行い、取引類型や取引の実情などを踏まえ、それぞれに適した手続きを選択することが望まれます。
契約書面等の電子交付は本改正により初めて可能になるものであり、実際にどのように運用されるのかは不透明なところもあります。今後、消費者庁からガイドライン等が発出されることが期待されるところであり、また実際の運用の経過を注意してみる必要があります。
なお、施行から2年後には電子交付等に関する規定の見直しも実施されることとなっております(特商法附則6条1項)。事業者・消費者による実際の取り組みの中で課題等が見つかることもあろうかと思われますが、それらについては見直しによりさらに改善されていくことが期待されます。