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2024年02月23日
特許法の令和3律改正その5 第6章 3|特許権侵害訴訟における第三者意見募集制度の導入

第6章 3|特許権侵害訴訟における第三者意見募集制度の導入

 

特許権侵害訴訟における第三者意見募集制度の導入

特許権侵害訴訟の結果は、訴訟の当事者のみならず、他の業界に対しても、その事業活動に対して多大な影響を与える可能性があります。また、当事者にとって、他の業界の事業実態などに関する証拠収集が困難なときがあります。そのため、当事者の申し立てがあれば、裁判所が必要と認めるときにかぎり、広く一般の第三者に対して意見募集を行うことができるようになります。

 

「アミカス・キュリエ(amicus curiae)」は、「裁判所の友」又は「法廷助言者」とも呼ばれますが、米国や英国の民事訴訟において「裁判所に係属する事件について情報又は意見を提出する第三者」のことであり、アミカス・キュリエが裁判所に提出する意見書はアミカス・ブリーフと呼ばれます。

 

日本の民事訴訟法にはこのような制度に関する規定はありませんが、知財高裁大合議事件であるApple Japan vs. 三星電子事件(知財高判2014年5月16日)において、第三者からの意見募集がなされたことをご記憶の方も多いと思います(当時の知財高裁所長、同事件の裁判長であった飯村敏明先生は「裁判所が法的判断をするための知見の収集について」とのご論稿を公表されています(NBL No.1038)。)。

 

特許権侵害訴訟では、その判断が当事者を拘束することはもちろんですが、当事者が属する業界のみならず、他の業界の企業、関係者にも大きく影響を及ぼす可能性があります。Apple Japan vs. 三星電子事件では、いわゆる標準必須特許(SEP)についてFRAND宣言がされた場合の効力が問題となりましたが、同事件は社会に広く意見を聴くに値する事件の典型といっていいでしょう。

 

ここで民事訴訟の原則を確認しておくと、審判の基礎となる事実及び証拠の収集は、当事者の権能又は責任とされています(弁論主義)。したがって、原則として、裁判所が事実を認定し判断するためには、当事者が証拠を提出する必要があるところ、旧特許法にはアミカス・ブリーフのような制度に関する規定がなかったため、両当事者が合意しない場合にはアミカス・ブリーフを実施することができませんでした。

 

本改正は、特許権等侵害訴訟に日本版アミカス・ブリーフ(厳密には英米のアミカス・ブリーフと同一ではありませんが、本記事では分かりやすさの観点から「アミカス・ブリーフ」といいます。)を導入するとともに、その手続について具体的に規定するものです。

 

本改正では、①特許権等侵害訴訟において、②「当該事件に関するこの法律(注・特許法)の適用その他の必要な事項」について、広く一般に意見を募集することができる制度が導入されました。

 

①についていえば、まずは特許権(及び実用新案権)に関して導入され、これ以外の知的財産権については今後の検討に委ねられています。また、特許権に関する訴訟の中でも、審決取消訴訟や職務発明関係訴訟は対象外です。

 

②についていえば、意見募集の対象として典型的に想定されているのは、(証拠の評価や証拠からいかなる事実を認定すべきかではなく)どのように法律を適用すべきかという問題ですが、必要があれば経験則や業界慣行等についても意見募集がなされる可能性があります。また、本改正前との相違点としては、アミカス・ブリーフの実施につき申し立てていない当事者の意見を聴くことは必要であるものの、両当事者の合意は必要ではないという点が挙げられます。

 

アミカス・ブリーフの実施に関し、実務上は、上記の弁論主義との関係から、アミカス・ブリーフによって得られた意見書は、当事者が裁判所で閲覧・謄写し、(必要に応じてこれを選別して)証拠として提出することになります。

 

特許権等侵害訴訟の当事者になり得る企業の立場からすれば、アミカス・キュリエ候補者に対する働きかけを行うことが可能かどうかが気になるところですが、この点に関し特段特許法上の規定はありません。特許庁立案担当者による本改正法の解説においても「意見書提出の働きかけを行うことは、意見書作成費等の対価の供与も含め、正当な訴訟活動の一環として認められる」とされています(松本健男「令和3年『特許法等の一部を改正する法律』の概要(上)」NBL No.1204 46頁)。

 

 

参考文献

経済産業省ウェブサイト「『特許法等の一部を改正する法律案』が閣議決定されました」

 

経済産業省「特許法等の一部を改正する法律案 概要」

 

特許庁「特許法等の一部を改正する法律案の概要」

 

「特許法等の一部を改正する法律案新旧対照条文」

 

産業構造審議会・知的財産分科会・特許制度小委員会「ウィズコロナ/ポストコロナ時代における特許制度の在り方」

 

小野昌延・三山峻司編『新・注解 商標法(上巻)』青林書院、2016年

 

 

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