第7章 その他の改正の重要ポイント
先に挙げた3つの目的・背景に沿って、今回の改正案における重要なポイントを見ていきます。「特許法等」とあるとおり、今回は特許法だけではなく意匠法、商標法、実用新案法、弁理士法など全部で7つの法律が改正されました。ここでは、特許法の改正内容を中心に取り上げます。
新型コロナウイルスの感染拡大を受けた手続き整備
特許法の範囲内では、主な変更点として以下の2点が挙げられます。
審判の口頭審理等のオンライン化を可能に
感染症拡大や災害等によって特許料納付期間を経過した際の救済措置(割増特許料の納付免除規定の新設)
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、ビジネスや消費者向けサービス、接客、飲食など、対面でのコミュニケーションを減らす取り組みが社会のあらゆる領域で行われるようになりました。今回の特許法改正は、そのような変化を受けた手続きの整備といえます。
例えば、審判手続における口頭審理は、これまで審判廷に当事者が出頭する形で行われていました。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大によって、非接触型で「密」を避ける形の生活様式が浸透する中、対面方式のみの審判は難しいといえます。
また、企業活動がパンデミックの影響を受ける中で、所定の期間内に特許料を納付できない企業が増えたことが推測されます。今回の特許法改正では、これらの課題の解決が大きな目的の一つとなっています。
企業行動の変化に対応した権利保護の見直し
デジタル技術の進展を受けて、特許権のライセンス形態が複雑化したことへの対応策が特許法の改正案として盛り込まれました。
特許権が成立した後でも、過去の発明と類似しているなどの理由で無効の申し立てを受け、その対応を迫られることがあります。その場合は特許権者は権利範囲を変更・縮小するなどの形で特許権を訂正・放棄することになりますが、従来は特許権者から特許ライセンスをすでに受けている(通常実施権者である)ライセンシーの承諾を得る必要がありました。
しかしながら、当然特許権者(ライセンサー)にとってライセンシーの承諾を得る義務があるのは大きな負担です。そこで、今回の改正ではライセンシーの承諾要件が撤廃されることになりました。
特許法以外では、意匠法や商標法に関連する模倣品対策が加わりました。海外事業者が模倣品を国内に持ち込む(事業者による「輸入」だけでなく個人使用目的の持ち込みを含む)と、商標権等の侵害と見なされるようになりました。